第十五話 フリーデン公爵領、独立騒動
フリーデン公爵領には《王国一》の上級ダンジョンがあり、その周辺には怪我で働けなくなった人や孤児が多くいた。
だが僕達家族は、そこでも慈善活動を既に行っていた。
領主家が支援してくれるのであれば、僕達の負担は減る。
そんな思いから、不安はあるが一度フリーデン公爵家の子息を信じてみる事にした。
ただ行動を共にするには都合が悪く、僕達は一足先にフリーデン公爵領へ向かった。
帰宅の予定を変更した事で、実家のスーパーや服飾工房には《亜空間ゲート》を通って納品を済ませている。
そして十日後、フリーデン公爵領の《領境》に到着した。
「何だあれ?」
「兵士がいっぱいいて、街道を塞いでるニャ!」
「バリケードまである。何かあったか?」
「行ってみれば分かるニャ!」
「そうだな」
不安に感じながらも、僕は馬車を進めた。
◇
「止まれーっ!」
「シャルロッテ、ストップだ!」
「ヒヒーン『はい』!」
争いを避ける為、強行突破はせず兵士の指示に従った。
「検問だ。身分証を見せろ!」
「身分証ですか? ・・・・・はい、どうぞ」
そう言って魔法袋から身分証を取り出し、兵士に差し出した。
「リートガルド領の商人か。何の用事だ?」
「何って商売ですよ。ダンジョン産の素材を買い付けに行くんです」
本当の目的は違ったが、それっぽい理由を答えた。
「本当か? 王都からの《刺客》ではないだろうな?!」
「えっ! 何で王都がフリーデン公爵領に刺客を送るんですか?」
「知らんのか? フリーデン公爵領は、近々《公国》として《独立》する事になったのだ!」
「なっ、何ですって?!!」
僕は兵士の言葉に、驚きを隠せなかった。
そしてあの兄妹が王都を離れた理由に、納得がいった。
「本当に知らん様だな。通りたければ、一人につき一万マネーの通行料を払え!」
「一万マネーですか? 今まで領境越えで、お金なんて取らなかったじゃないですか?!」
「此処は直に《国境》になる。嫌なら引き返すんだな!」
「わっ、分かりました。支払います!」
僕は不満に思いながらも、一万マネーを支払った。
この時荷台を確認されたが、出しっぱなしの《亜空間ゲート》は適当に誤魔化し事なきを得た。
◇
「何だよ『独立』って!」
後ろを振り向き兵士達の姿が小さくなると、先程の兵士の言葉が口を衝いて出た。
「王族の統率力が、弱くなってるのかもしれないニャ」
「だからってそんな勝手な事してたら、敵国に付け入る隙を与えるぞ!」
「その敵国の《ガーランド帝国》は、既にバラバラになって無くなったニャ」
「それはそうだけど」
「ご主人は、どうする気ニャ?」
「どうするもこうするも、僕が口出しする事じゃないだろ」
「兵士達の緊張した様子ニャと、王国との《戦争》が起こってもおかしくないニャ」
「それは困る。生活に困窮する人達が、大量に増えてしまう!」
「ご主人が言う『のんびり生活』なんて、夢のまた夢ニャ」
「そうだな。『のんびり生活』の為にも、傍観は止めるよ」
僕は今後の国の情勢を観察し、状況によっては《独立騒動》に介入する決心をした。
◇
思い掛けない事がフリーデン公爵領を中心に巻き起こったが、取り敢えず僕達は《領都》を目指した。
そして通り道にあるダンジョンの街のある施設で、資金や物資の援助を済ませた。
その後ダンジョンの近くを通ると、ある光景が僕達の目に飛び込んできた。
「フリーデン公爵様の命令書は、三日前に渡した筈だ。王国兵士と王国職員は、速やかにフリーデン公爵領から出ていけっ!」
「ふざけるなっ! 勝手に《独立》などしおって。ダンジョンは王国政府の管理下だ。我々に命令できるのは王国政府だっ!」
ダンジョンを守る王国兵士とフリーデン公爵領の兵士が、一触即発の状態になっていたのだ。
「此処がどなたの領地か分かってない様だな? どうなっても知らんぞ?!」
「貴様らこそ、王国が動いたらただでは済まさんぞっ!」
「はははっ! 此方にはヒースクリス隊長がいるのを忘れたか?!」
「くっ! 《剣聖》ヒースクリフか・・・・・」
剣聖ヒースクリフとはイザベラの兄であり、フリーデン公爵軍の隊長でもある。
その強さは、イザベラをも寄せ付けなかった。
「ヒースクリフ隊長の名に、臆したか?!」
「何を言う。王国には《英雄》アレン・ライト伯爵がいる。いくら剣聖と言えど、英雄殿には敵うまいっ!」
「くっ! アレン・ライト伯爵か・・・・・」
「誰が誰に敵わぬだと?」
「「「「「「「「「「ヒースクリフ隊長っ!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「剣聖ヒースクリフッ!」」」」」」」」」」
そこに、話題の本人が現れた。
「確かに過去の私はアレン殿に敵わなかった。しかし今は違う。この《聖剣ミスティルティン》に選ばれたのだからなっ!」
ヒースクリフは、腰に携えた聖剣に触れ宣言した。
「「「「「「「「「「おおーっ!」」」」」」」」」」
するとフリーデン公爵領の兵士達から、歓声が上がった。
「私は君らを、力ずくで追い出しても構わんのだぞ。はたして、五体満足でいられるかな?!」
『ギンッ!』
「「「「「「「「「「ひーーーっ!」」」」」」」」」」
ヒースクリフが王国兵士に向け、《威圧》スキルを放った。
すると皆、悲鳴を上げた。
「さあ、どうする?」
「まっ、待ってくれ。《施設長》と話しをさせてくれっ!」
「分かった。明日の朝まで待ってやる」
こうして翌日の朝、王国兵士と職員達はフリーデン公爵領を発っていった。




