第十四話 デュークの告白
貴族の子息は、バロン殿下とサーシアの関係に興味を示してしまった。
「あれっ? おじ様、一人の筈じゃ・・・・・」
一方お嬢様の方は、サーシアの出現に戸惑っている。
先程僕が言った事と、食い違うからだ。
馬車の荷台には小型の《亜空間ゲート》が設置してあり、いつでも行き来できてしまう。
サーシアは此方が今どういう状況か知らず、出てきてしまったのだ。
「バロン殿下とサーシアは、友達だよ」
『ニコッ!』
「はうっ!」
『何だ? この《天使》の様な純真無垢な笑顔は!』と、デューク・フリーデンは心の中で呟いた。
「ゆっ、友人と言う割りには、フロリダ街で出会った時随分親密だったな?」
「親密? そうかなー?」
「惚けるつもりか?」
「サーシア、惚けてないよ!」
『ムスーッ!』
サーシアは、口を尖らせた。
「まっ、まあ良いだろう。ところで、どうやってバロン殿下と知り合ったんだ?」
「えーとねー。子供の頃、自転車に乗って遊んだのが最初かなー」
「自転車? 確かに幼い頃、バロン殿下は自転車に乗って遊んでいた。当時私は、それを羨ましく眺めていたな」
「バロンく、違った殿下ね。直ぐ上手に乗れる様になったんだよ!」
「そんな事はどうでもいい! 王族が平民と遊ぶ事事態、普通有り得ないんだっ!」
「あのー、宜しいですか?」
サーシアが余計な事を口走る前に、僕は割って入った。
「何だ?」
「私はグルジット伯爵家のお抱え商人として、マイク様やソフィア様と懇意にさせていただいてます」
そして、一番無難な説明をした。
「グルジット伯爵家? ではバロン殿下とは、その繋りという訳か?」
「はい」
「娘をバロン殿下に当てがい、王家から莫大な利益を得ようとでもしたか?」
「いいえ。その様な事は決して考えてません」
「賢い商人であれば、あわよくばと考えるものだろう」
「私は、娘の意思を尊重しております」
「ならば、娘の意思にそぐわぬ事態が起きたらどうする? 例えば、私が『寄越せ』と言ったら?」
「父親として、娘を守ります」
「ほほう。公爵家の私に楯突くとは、見上げた家族愛だ。しかしその娘、バロン殿下に対し《良い手駒》になる。もう一度言う、私に寄越せ!」
「娘を王侯貴族の争いに巻き込む訳にはいきませんので、お断りします!」
「私に逆らうのだな? どうなっても知らんぞ!」
「待て、デューク。この男に手を出しては駄目だ!」
女騎士が、慌てて子息を止めた。
「イザベラさん、どうしてですか?」
「この男は強い。嘗て私や兵士が束になって手玉にとられたのが、この男だ。今は大人しくしているが、手を出せば恐ろしい目に会うぞ!」
「馬鹿な、この男が?!」
『チラッ!』
『ニコッ!』
子息が僕に視線を向けてきたので、優しく笑み返した。
『ビクッ!』
すると子息は、顔をひきつらせてしまった。
「話しが済んだのであれば、私達はこれでお暇させていただきます」
「まっ、待て!」
この場を去ろうとすると、子息に引き止められた。
「何でしょう?」
「行商人なのだろう? お前をフリーデン公爵家のお抱えにしてやる!」
「お抱え? 唐突ですね。どの様な心境から、その決断に至ったのですか?」
「・・・・・!」
子息は僕の問いに、黙り込んでしまった。
「どうされました?」
「お前の娘だ」
「私の娘?」
「お前の娘が気に入った」
「先程は、『良い手駒』と仰ってましたよね?」
「あれは本心ではない。お前の娘は美しい。天使の様だ。できれば私の側に置きたい」
「娘を褒めていただいたのは嬉しいですけど、お抱え商人の交換条件に娘を差し出すつもりはありません」
「平民のお前に、恥を偲んで頼んでいる」
「私には頼んでいる様に聞こえませんね。それに平民に対し高圧的な貴方に、娘を預ける訳にいきません」
「くっ!」
「わっ、私は娘さんの件抜きでも、おじ様にフリーデン公爵家のお抱え商人になっていただきたいです!」
そこに、フランソワが口を挟んだ。
「フランソワ、お前!」
「お兄様。おじ様に屋敷に足を運んでいただければ、その内きっとチャンスはありますよ!」
「・・・・・。そうだな、この際娘の事は関係無い。お前をフリーデン公爵家のお抱えにしてやる!」
「私はこう見えて忙しいのです。御屋敷へはあまり伺えませんよ。あれっ、そう言えばお二人は王都の学園に通われてるのでは?」
「父上に、領地へ帰るよう言われたのだ」
「この時期に領地へ帰られるとは、きっと大切な用事があるのですね?」
「理由は聞いてない」
「そうですか。失礼しました」
僕はこの時、違和感を感じた。
「で、どうなんだ? 頻繁には無理だが、来れないという訳ではないのだろう?」
「そうですね。但し、条件があります」
「条件?」
「フリーデン公爵領の貧困者達を、《援助》していただきたいのです」
「援助だと?!」
「今は私達家族が援助していますが、本来これは土地を治める領主様が行うべきだと思ってます」
「何故そんな事を、お前達がやっている?!」
「《娘の願い》を叶える為です」
「娘の願い?」
そう言って、子息はサーシアの方を見た。
『ニコッ!』
サーシアは目が合うと、子息に微笑んだ。
『ドキッ!』
「援助をすれば、お抱え商人になると言うのだな?」
「その援助を、私が納得できればですよ」
「分かったやってやる。だからお前達は、私達と一緒にフリーデン公爵領に来るんだ!」
この後僕は、直ぐに誘いに乗るべきか暫し悩んだ。




