第十一話 フリーデン公爵、消える
一週間が経ち、フレデリック・フリーデン公爵が再び王城に現れた。
「グルジット殿。この一週間、良く考えたのか?」
「ああ、考えたとも」
「では早速、返事をお聞かせ願おう?」
「フリーデン公爵、率直に言う。今のままでは、ユミナはやれん」
「どういう事だ?!」
「ユミナには慕っている人物がいる。その人物からユミナの心を奪えたなら、やっても良い」
「慕っている? そんな噂、微塵も聞こえて来なかったぞ!」
「本人が隠していたからな」
「一体、誰だ?!」
「気になるか?」
「当たり前だ。この私の邪魔をする元凶だぞ!」
「良いだろう教えてやる。その人物は、《英雄ヤマト》だ!」
マイクはニコルの名を伏せ、正体が明らかになってないヤマトの名を出した。
「英雄ヤマト?!」
フレデリックの表情は、険しくなった。
「彼は旧王城がガーランド帝国の勇者達に襲われた時、ユミナとバロンそして私を窮地から救ってくれた。その後起こった《魔素爆発》からも、妻ソフィアを含む多くの人の命を救った。他にも数々の功績が確認されている」
「それらは私も聞き及んでいる。肝心なのは二人の関係だ!」
「残念ながら、ユミナの《片思い》だ。だがユミナの想いは並大抵の事では動かせんぞ」
「ん? グルジット殿。いつの間にやら、話しがすり替わってないか? 私は我が領地の《独立》と天秤に掛け交渉していた筈だが」
「ユミナの気持ちは、関係無いと言うのか?!」
「今更そんな事に時間を掛けるつもりは無い。手に入れてから考える」
「そうか。やはりフリーデン公爵に、娘はやれんな!」
「本当に、それで良いのか?!」
「そちらこそ、独立など国が許さんぞ。諦めるなら今の内だ!」
「交渉決裂だな」
二人は、鋭い視線をぶつけ合った。
『バンッ!』
とそこへ、エドワードが扉を開き入って来た。
その後ろには、何人もの近衛騎士が控えている。
「この馬鹿者がーっ! 貴様がしておる事は、《国家反逆》じゃぞっ! このまま城から帰れると思うなーーーっ!」
マイクとエドワードはフレデリックが考えを改めなかった時、捕らえる算段をしていたのだ。
「エドワード様。この私を捕らえると言うのか?!」
「その通りじゃ。そしてお主の公爵位を剥奪するっ!」
「はははっ! やはり、《若王》を自由に操る《陰の支配者》だ。だがこれで、《独立》への決心もつくというもの!」
「この状況で、まだ言うかっ!」
「策も無しに、のこのこと王城へ来んよ!」
「抵抗する気か? 皆の者、この者を捕らえろっ!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
近衛騎士達は、フレデリックとその護衛の前に立ち塞がった。
「《転移》」
『フッ!』
「「「「「「「「「「なっ!」」」」」」」」」」
「馬鹿な。フレデリックが消えたじゃと!」
「魔法? いや、奴に《空間属性魔法》が使える筈はない!」
「お主等、どういう事じゃ?」
取り残された二人の護衛に、エドワードは尋ねた。
「「しっ、知りません!」」
「本当か?」
「「本当です!」」
「どうやら、嘘ではない様じゃのう」
「ノーステリア様!」
近衛騎士の一人が、エドワードに呼び掛けた。
「何じゃ?」
「フリーデン公爵の指輪が、一瞬光った様に見えたのですが」
「何じゃと! まさか《空間転移》の魔道具を持っていたというのか?!」
「エドワード様。とても興味をそそられる話しですが、奴を追わなくては」
「そうじゃな。先ずは奴の王都屋敷を探すのじゃ!」
「はい!」
この後大勢の兵士を引き連れ、マイクはフリーデン公爵邸に向かった。
◇
「最悪だっ!」
フレデリックは魔道具を使って、フリーデン公爵領の屋敷へと《転移》していた。
魔道具の名は『転移の指輪』と言い、指輪と魔方陣が描かれたプレートが対になっている。
指輪を嵌め『転移』と唱えると、プレートの場所に《転移》できるという代物である。
発見された場所はフリーデン公爵領内の《ダンジョン》であり、公爵家は代々貴重な品を収集していた。
「しかし、子供達を領地に帰らせておいて正解だった」
普通なら王都の学園に通っている子供達は、馬車で領地に向かわせていた。
「奴等が私を捕らえに来る前に、体制を万全たるものにしとかねば」
フレデリックはハッタリで言った《独立》の道を、突き進む羽目になった。
しかし全く考えていなかった訳で無く、《ダンジョンの利権》を王国から奪いたいと常々考えていた。
◇
「あー、早くのんびりしたいなー」
僕は仕入れの仕事を済ませ、王都へ戻る道中にいた。
「ご主人、また言ってるニャ!」
御者台の僕の横には、シロンが座っている。
「レコルが成人したら、仕入れの仕事は任せよう」
「《世直し》はどうするニャ?」
「どうするかなー。僕が『止める』って言ったら、サーシアが『引き継ぐ』って言いそうだしなー」
「ご主人は、反対ニャ?」
「サーシアには、普通に幸せになって貰いたいんだよ」
「それは無理だと思うニャ!」
「何故だ?」
「女の勘ニャ!」
「勘だと!」
『ご主人様。お話し中のところすみません。前方で馬車が襲われてます!』
シャルロッテが、《念話》で話し掛けてきた。
「本当だ。良し、行くぞ!」
『はい!』
僕の号令と共に、シャルロッテは走るスピードを上げた。




