第十話 似た者親子
フレデリックが去った後、バロンと待合室を出たマイクが鉢合わせになった。
「お祖父様!」
「バロン。今、学園の帰りか?」
「はい。そんな事より、フリーデン公爵が性懲りもなく母上に会いに来ましたよ!」
「知っている。私が対応したからな」
「あいつ、まだ母上の事諦めてませんよ。しっかり言ってやったのですか?!」
「ああ、言ってやったとも。だがフリーデン公爵は堪えてなかった」
「駄目じゃないですか。しっかりしてください、お祖父様!」
「分かっている。ところでフリーデン公爵は、他に何か言ってなかったか?」
「女の幸せがどうとか。お義父さんと呼べとか、言ってました」
「そうか。子供にそんな事を・・・・・」
こうは言ったが、《独立》の言葉が出なかった事に安堵した。
国の一大事を、子供に聞かせるべきではないと思ったのだ。
この後二人して、ユミナの部屋へ向かった。
◇
「母上、只今帰りました!」
「バロン、お帰りなさい。お父様も一緒だったのね」
「下で、偶然会った」
「母上。質問があるのですが、聞いても宜しいですか?」
「ええ、良いわよ」
「母上は、今幸せですか?」
「えっ、ええ。幸せよ」
「それは、《女性》としての幸せですか?」
「女性として? バロン、突然何を言い出すの?!」
思いもしなかった問いに、ユミナは驚いた。
「此方に来る前、フリーデン公爵に言われたのです。僕のせいで母上は、『女の幸せを得られない』と」
「そんな事ないわ。バロンが立派に育ってくれて、私はとても幸せよ」
「そのお言葉、とても嬉しいです。しかしそれは《母親》としてですよね? フリーデン公爵が言っていたのは、《恋人》や《結婚相手》を意味してると思うのです。母上にそんな想い人はおられるのですか?」
「いっ、嫌だわ。バロンったら、母親に何て事を聞くのっ!」
「その慌てぶり、もしかして」
「知らないっ!」
ユミナは年甲斐もなく、顔を赤くしてしまった。
「バロン。お前はユミナの再婚に、賛成なのか?」
「相手次第です」
「ユミナ、だそうだ。良い相手がいるのなら、紹介してくれないか? そうすれば、フリーデン公爵を諦めさせる口実になる」
「そんな方いません」
『バーンッ!』
そこで突然、扉が開いた。
「ユミナちゃん。貴女、嘘を言ってるわねっ!」
扉の向こうから現れたのは、ユミナの母ソフィアだった。
「お母様!」
「私には分かるのよ。ユミナちゃん、今でもニコル君の事が好きなんでしょう?!」
「そっ、それは・・・・・」
「お婆様。それは一体どういう事ですか?」
「バロンちゃん。貴方は知らなかったわね。良い機会だから、聞かせてあげる」
「お母様っ!」
「ユミナちゃんは黙ってて!」
そう言って、ソフィアは昔の事を語り始めた。
◇
「母上とあいつに、《結婚》の話しがあったなんて・・・・・」
「バロン、昔の話しよ」
「しかしその時母上が結婚していたら、僕は生まれてこなかった」
「貴方にとって、気分の良い話しではないわね。こんな話しもう止めましょう」
「あらユミナちゃん、誤魔化すの? お母さんはユミナちゃんの為なら、もう一度ニコル君を説得するわよ!」
「あの頃と今では状況が違います。それに私、もう《オバサン》だから」
「そんな事を気にしてるの? 年齢は三十八歳でも、見た目は二十代前半で通用するわ!」
「それだけじゃありません。ニコル君はミーリアさんと幸せな家庭を築いてる。そんな中に未亡人の私が今更割り込めない」
「ミーリアさんとお子さん達も、説得するわ!」
「皆さんに迷惑です。私の事はもう良いから、止めましょう。王族になった私と平民のニコル君が結婚なんて、無理な話しなんですから」
「えっ! 母上、無理なのですか?」
「バロン、貴方。もしかして、サーシアちゃんと結婚したいの?」
「それは・・・・・」
「そう。まったく私達って、似た者親子ね」
『ニコッ!』
ユミナは憂いを含んだ笑顔を、バロンに向けた。
「マイク君。こうなったら、二人の願いを叶えてあげましょうよ!」
「しょっ、正気か? 王族ともなると、グルジット伯爵家の一存では済まないぞ!」
「ニコル君は、エステリア王国の《英雄》なのでしょう。充分釣り合うわ!」
「英雄は《ヤマト》であって、ニコル君ではない。事情を知っているのは、極一部の人間なんだ!」
「それではニコル君を、英雄として公表しましょう!」
「いやニコル君だって、事情があって正体を隠している訳だし」
「マイク君。うだうだ言ってないで、良い提案をしてちょうだい。じゃないと、口利いてあげないわよ!」
「それは無いよー、ソフィアー」
「じゃあ、前向きに検討してくれる?」
「分かったよー」
マイクは年甲斐もなく、情けない声をあげた。
この後ユミナとバロンの想いを叶える為、二人の話し合いは続いた。




