第八話 それぞれの動向
マイク・グルジットはエドワードとの話し合いにより、《エシャット村》へ使者を送った。
「ニコル? ニコルなら、行商で仕入れの旅に出てますぜ」
門番をしている村人にニコルの居場所を訪ねると、そう返事が返ってきた。
「いつ帰って来るのだ?」
「毎年の事でやすが、十月末頃でやすね」
「ひと月以上先だな」
「そうでやすね。ただここ二・三年は、帰って来てもまた直ぐ出掛けちまいやすよ」
「彼は忙しいのだな」
「へい。ところで、急ぎの用でやんすか?」
「うむ、急を要する」
「そりゃー、困りやしたねー」
門番を務める村人は、ミーリア達が《亜空間ゲート》でニコルの馬車と行き来している事を知らなかった。
「今何処を旅してるか、分からんか?」
「さあ。あっしは、その辺の事は見当もつきませんねー」
「そうか分かった。急を要するので失礼する」
使者はそう言い残し、王都へ帰った。
◇
マイク・グルジットは、執務室で使者からの報告を受けていた。
「十月末まで帰らんか。分かったご苦労だった」
「はっ、失礼致します」
報告を済ませ、使者は部屋を出ていった。
「ユミナの《未来視》通りだな。さて、どうしたものか」
マイクは使者を送った後ユミナと二人になり、《未来視》スキルでニコルの動向を確認していた。
「迎えを出しても、無駄に終わりそうだ。《亜空間ゲート》を利用しに、王都へ戻るところを捕まえるのが得策か」
マイクはそう呟き、ニコルを待つ事にした。
◇
その頃ニコルは、カプコン街の教会にいた。
「マザー、今回の《御布施》と《野菜の種》です。どうぞお納めください」
「いつもありがとうございます」
「良いんです。ところで、孤児の人数は増えましたか?」
「ええ。以前いらした時から二人増え、十三人になりました」
「そうですか。それなら、御布施を少し増やしましょうか?」
「御気遣いありがとうございます。でも今までの分も残ってますし、畑も順調ですから大丈夫ですよ」
孤児院の職員や子供達で野菜を育て、食費に掛かる負担を減らしている。
そのお陰で、僕の御布施の金額も抑えられている。
「分かりました。それでは、他に困っている事があれば言ってください」
「そうですねー・・・・・」
と言いながら、マザー・テレジアは考え始めた。
『食事や衣服は足りてるわ。本や遊び道具も提供して貰っている。困ってる事なんてあったかしら? ああ、そうだわ。一度で良いから、ニコルさんとデートがしたいのだけど・・・・』
そんな思いが、マザー・テレジアの頭を過った。
「ぶつぶつ・・・・・」
「マッ、マザーどうしました?」
「ぶつぶつ・・・・・」
「マッ、マザー?!」
「ハッ! 私、何か言いました?」
マザー・テレジアは、具体的なデートの妄想まで始めていた。
「ええ。仰ってましたが、声が小さくて聞き取れませんでした」
「ごっ、ごめんなさい。思わず考えに没頭してしまって」
「そっ、そうでしたか。それで、何か思い浮かびました?」
「いえ、これといってありませんでした。これもニコルさんのお陰です」
「ははっ。それではマザーも忙しいでしょうから、私は孤児院の方に顔を出してきます。《肥料》は倉庫に置いておきますね」
肥料は腐葉土より扱いが楽な、《化学肥料》を提供している。
勿論、錬金術で作ったものだ。
野菜の育ちが良いと、大変喜ばれている。
「はい、宜しくお願いします」
僕は教会をお暇し、孤児院に向かった。
◇
王都のフリーデン公爵邸。
ユミナ宛に手紙を届けてから十日後。
「くっ、返事はまだかっ!」
フレデリックは王都で要職に就いてなかったが、ユミナを手に入れる為領地を離れ王都に来ていた。
「はい。音沙汰ありません」
フレデリックの苛立ちに、その場に居合わせた老執事が答えた。
「返事を寄越さぬとは、我がフリーデン公爵家がエステリア王国から《独立》しても構わんと言うのかっ!」
「旦那様。やはり独立を引き合いに出すのは、不味かったのではないですか?」
「まだ言うかっ! 今まで財宝や金、それに権力に靡かなかったのだぞ。拒否できぬ条件を突き付けるしかなかろう!」
「もし本当に独立する事態になったら、王国が黙ってませんよ」
「えーい、うるさいっ! 分かっている! 今回のは単なる脅しに過ぎん!」
「王家相手に、脅しで済むのでしょうか?」
「ご託はいい。今直ぐ王城へ行って返事を貰ってこい。うだうだ言ってると首にするぞっ!」
「かっ、畏まりました」
フレデリックは、待つ事に限界が来ていた。




