第七話 フリーデン公爵の欲求と要求
半年前、王都フリーデン公爵邸。
「くっ、何故だ。何故ユミナは、公爵になった私の申し入れを拒むのだっ!」
「独り身では、極上のあの肢体をもて余してしまうだろうに!」
「まさか、既に男がいるのか?」
「いや。調査をしたが、そんな噂は聞かぬ」
「今は若さを保っているが、いずれは老いる。かくなる上は、手段を選んではおれん」
ユミナに思いを寄せる当主フレデリックは、自室で独り呟いていた。
◇
現在、九月中旬。
王族の魔法指南役であるマイク・グルジットの執務室に、ユミナ付きの執事が訪れた。
「マイク様、大変ですっ!」
「何事だ?!」
「フリーデン公爵が、『ユミナ殿下が嫁に来ねば、周辺領地と共に独立し国を立ち上げる』と言っておりますっ!」
「何っ、誠かっ!」
「はい。ユミナ殿下宛に、昨日手紙が届きました」
「ユミナは、どうしている?」
「深く、悩んでおられます」
「くっ、フレデリックめっ!」
「どうされます?」
「私はユミナの所へ行く、君はこの事をエドワード様に知せてくれ!」
ここで言うエドワードとは、前ノーステリア大公爵の事である。
「畏まりました!」
マイクは急いで、娘であるユミナの所へ向かった。
◇
「ユミナ、大丈夫か?」
「お父様。私、どうしたら・・・・・」
ユミナは父親の顔を見て、涙ぐんだ。
「心配しなくて良い。今度は私がユミナを守る!」
グルジット家を守る為王家に嫁がせた事を、マイクは引け目を感じていた。
「ですがこのままでは、国が分裂してしまいます」
「私は再び、ユミナに辛い思いをさせたくないのだ」
「お父様・・・・・」
ユミナは《未来視》スキルで、フリーデン公爵の独立が現実になる事を視ていた。
そして、その先の事も。
「ユミナ。その様子だと、未来を視たのだな?」
「はい」
「ではこの先、どうなるか教えてくれ!」
「分かりました」
ユミナは父親に、《未来視》スキルで視た内容を話した。
それは旧王都の南東部に位置するフリーデン公爵家が、周辺領地を纏め上げ《公国》を作るというものだ。
政治や経済が北部に集中し、『面白くない』と思っている領主は少なからずいたのだ。
その後も武力や経済制裁をちらつかせ、公国は勢力の拡大を図ろうとする。
王国はそれを阻止しようと、最終的に《戦争》に発展してしまうのだ。
◇
「国が分裂し、戦争まで起こるとは・・・・・」
「このままでは、私一人の為に多くの人が犠牲になってしまいます」
「戦争になる前に、何か手を打たねば・・・・・」
『トントンッ!』
「エドワード様を、お連れしました!」
マイクが対策を考えようとすると、エドワードがやって来た。
「エドワード様、入ってくれ!」
「失礼するぞい」
エドワードを部屋に招き入れると、手紙を見せ《未来視》スキルで視た内容を話した。
エドワードはユミナのスキルの事を知っていて、国の重要案件について密かに相談する間柄になっていた。
その様な関係になったのは、王都移転後エドワードが《鑑定》スキルでユミナのステータスを視てからである。
「成る程のー。では、あ奴を消すか?」
「エドワード様、ユミナの前ですぞ!」
「初心な少女でもあるまい。良いじゃろう」
「しかしユミナは、自分のせいで人が傷付く事を嫌います」
「一人の犠牲で、多くの人間が救われるのじゃ。そんな事を言ってられまい。それが分からぬ歳でも、立場でもなかろう」
「そっ、それは・・・・・」
「エドワード様。本当に命を奪う以外、解決策は無いのですか?」
ユミナが、二人の会話に割って入った。
「一生涯、投獄する手もある」
「それはあまりにも・・・・・」
「これもユミナ殿下の好みではないのじゃな?」
「はい」
「それなら、他にも手はあるぞい」
「あるのですか? 一体どんな?!」
「ある魔道具を使うのじゃ」
「魔道具ですか?」
「悪事を行えなくする魔道具じゃ。今、巷で騒がれておる《仕置き人》が使っておる」
「それって、まさか!」
ユミナは昔、ニコルがガーランド帝国の勇者達に使うのを《未来視》スキルで視ていた。
「何じゃ、知っておるのか?」
「ええ、魔道具の事だけは」
「私は、仕置き人の噂は耳にしてますぞ!」
「その者を探し出し、協力をさせれば良いのじゃ」
「お父様。その人って、もしかしてニコル君の事じゃないですか?」
「そうだな。彼ならやりそうだ」
「ぬははっ! 二人もニコルとは関わりがあったのー。その通り、その者とはニコルの事じゃ!」
「「やっぱり」」
「じゃが今は、何処を旅しておるか分からぬ」
「ならば、今直ぐ探させましょう!」
こうしてニコルの知らないところで、また面倒事に巻き込まれ様としていた。




