第六話 手合わせの後
2022/08/21 レコルとエミリアの年齢を修正し、ニコルの年齢を追加ました。
グレッグ伯爵と剣の手合わせをした後、屋敷で昼食を御馳走になった。
貴族だけあって、豪勢な食事がテーブルに並んだ。
「ヤマト殿。我が家の食事はどうだ?」
「満足している」
「そうか、そうか。それは良かった!」
軽く誉めてやると、グレッグ伯爵は上機嫌になった。
「時に、ヤマト殿」
「何だ?」
「ヤマト殿は、他国が召喚した《勇者》なのか?」
「違う」
「では、勇者の末裔か?」
「違う」
「ならば何故そんなに強く、しかも《黒髪》なのだ?」
「どうでも良いだろう。俺の事を詮索するなら、この場で帰らせて貰う」
「「「えっ!」」」
僕の言葉に、三人が驚きの声を上げた。
「ちょっと、兄貴。ヤマトの機嫌、損ねないでよね!」
「その通りだ。《亜空間ゲート》の件が駄目になったら、俺達が困るんだぞ!」
「うっ、あっ、いや、すまん」
アレンさんとエミリは、本気で怒った。
その結果、グレッグ伯爵の追及は止んだ。
食後、《亜空間ゲート》設置工事について打ち合わせを行った。
設置場所はラングレイ伯爵家の正門横に決まり、利用者は正門からではなく専用の門から出入りする事になった。
その為、柵の改修工事を追加で施す事になった。
◇
打ち合わせの後、二時間程で工事が完了した。
近くにいた門兵にその旨を伝えると、暫くしてグレッグ伯爵達が馬車で現れた。
「おー、立派ではないか!」
「これで私達の領地に、楽に行けるわね!」
「ヤマト、感謝するぜ!」
「ああ。但し、契約した事は忘れるなよ」
「勿論だ!」
この後取り扱いについて説明すると、テストを兼ね馬車で《亜空間ゲート》を潜る事になった。
「おー、これは凄い。あっという間にアレン殿の領地に着いたぞ!」
グレッグ伯爵は、《亜空間ゲート》を利用するのは初めてだった。
「兄貴、はしゃぎ過ぎ!」
「はしゃいでなど、おらん!」
「ふふっ。でもダーリン、本当に良かったわね!」
「ああ。だが、これからが大変だ」
「そうね。荒れ果てて、何も無いものね」
「グレッグ。優秀な建築・土木の魔法師を手配してくれよ!」
「分かっている。だがその前に、《魔素地帯》の奥地へ調査に行くぞ!」
「今からか?」
「決まっておるだろ!」
「兄貴。今から行っても中途半端だよ。日を改めたら?」
「夕飯までに、帰れんぞ」
「むっ、そうか。だったらヤマトよ、夕食を食って行け。旨い酒を出す!」
「遠慮する。俺の役目は終わった。帰らせて貰う」
「付き合いが悪いのー!」
「何と言われ様が結構。じゃあな」
『フッ!』
そう言い残し、僕はこの場を去った。
◇
アレンさんの領地から、直接自分の馬車に《転移》した。
そして変装を解き、《影分身》と入れ替わった。
「やれやれ。やっと一段落ついた」
『ご主人様、お疲れ様です』
「ああ。これで暫く、のんびりできる」
『良かったですね』
「今日はこの先の開けた場所で、夜営の準備だ」
『はい!』
馬車を走らせ、暗くなる前に目的の場所を目指した。
◇
「パパ、もう直ぐごはんできるよー!」
夜営の準備を終えシャルロッテに食事を与えていると、ひょこりエミリアがやって来た。
旅の体裁を保つ為、夜から朝に掛けて家族全員で過ごす事になっている。
「ああ、こっちも準備できてる」
「じゃー、ご飯持って来るねー!」
「頼む」
暫くすると、ミーリア達がやって来た。
「ニコルちゃん、お待たせー!」
「パパ、今日はミートソースパスタだよー!」
「ミートソースパスタか。レコル、良かったな」
「まあね」
「エミリアも、大好きー!」
「そうだった。エミリアも、良かったな」
「うん!」
子供達の成長は早く、サーシアは十四歳、レコルは十二歳、エミリアは八歳になった。
そして妻のミーリアは三十六歳にもかかわらず、今でも若々しく可愛らしかった。
ちなみに僕は、三十八歳である。
ミーリアが魔法袋から料理を取り出し、子供達がテーブルに並べていった。
「さあ、みんな。いただきましょう」
「「「はーい、いただきまーす!」」」
「いただきます」
料理が並べられ、ミーリアの号令で食事が始まった。
「ねえ、パパ。今日、何かあった?」
サーシアが、怪訝そうな顔で聞いてきた。
「ん? 何も無いぞ」
「そう。何かいつもより、疲れてる気がする」
「そうか?」
日中面倒な事があったので、顔や態度に出ていたのかもしれない。
「サーが無理な事を言ったせいで、疲れてるんじゃない?」
サーシアは歳を重ね、《自分の願い》がどんなに困難な事か理解する様になった。
「大丈夫だよ。これからもできる限り、弱い立場の人達に救いの手を差し伸べていこうな」
『ニコッ!』
可愛い娘に《負い目》を感じさせまいと、本心を隠し笑顔で答えた。
「うん。パパ、ありがとう!」
『ニコッ!』
サーシアの笑顔があれば、この困難は乗り切れられる。
それにアレンさんの協力があれば、僕の負担も減るだろう。
だが僕の知らないところで、この国に《不穏な空気》が流れていた。




