第五話 グレッグ・ラングレイ伯爵②
僕達は闘技場へ行き、グレッグ・ラングレイ伯爵が来るのを待った。
闘技場へは、ニコルとして何度か足を運んでいる。
エミリは当然ながら、アレンさんも幾度となく足を運んでいた。
「待たせたなっ!」
そう言って、全身紅色の装備を纏いグレッグ伯爵は現れた。
その紅色の輝きは正しく《ヒヒイロカネ》のそれであり、極上の大剣と鎧という事が見てとれた。
僕がこの装備を見るのは初めてで、彼の本気度が窺えた。
他にも、複数の補助アイテムを身に付けていそうだ。
一方僕は、《魔鋼》製の大剣と鎧を纏っていた。
色は全身黒く、グレッグ伯爵の紅色と対照的である。
原材料の差は大きいが、加工技術と付与と戦闘能力で差は補えると踏んでいる。
「おー、グレッグ。《紅蓮剣》と《紅蓮の鎧》を持ち出すとは、本気だな?」
「当たり前だ。アレン殿を凌ぐ強さなのだろう。万全を期さないと礼儀を欠く」
「兄貴、いい年して血気盛んね」
「俺は剣士として、まだまだ高みを目指しているからなっ!」
「領主なんだから、怪我しないでよね」
「怪我が怖くて、《剣聖》など名乗れるかよっ!」
「やれやれ。いつまで経っても、変わらないわね」
「よーし、審判は俺が引き受けよう!」
「頼む、アレン殿!」
グレッグ伯爵はそう言うと闘技場の中央へ歩いて行き、僕とアレンさんはそれに続いた。
◇
僕達は、闘技場の中央で対峙した。
「準備は良いか?」
「「ああ!」」
「それでは、剣を構えろ」
『『ジャキッ!』』
「・・・・・始めっ!」
「うおーーーーーっ!」
グレッグ伯爵は、始まりの合図と共に唸り声を上げた。
するとヒヒイロカネの大剣と鎧が、赤い光を放った。
武具に魔力を流し、性能を引き上げたのだ。
僕はそれを見て、同様に大剣へ魔力を流した。
『ダダッ!』
次の瞬間、グレッグ伯爵が間合いを一気に詰めた。
『ビシュッ!』
『ガイーーーーーンッ!』
グレッグ伯爵の鋭い横一線は、大岩をも真っ二つにする技と威力があった。
「ふっ、やはり受けるか。そこいらの剣だったら、絶ち切っていたところだ。しかもまともに受けて微動だにせんとは、このままでは力も及ばぬか」
魔鋼の剣は《重量一トン》の魔鋼を《圧縮》して作っており、強度に特化した代物である。
更に様々な特性を《付与》し、性能の強化を図っている。
「喋りが過ぎるな。剣で語るんじゃなかったのか?」
「ははっ、そうだった。ならば早速、《身体強化》だっ!」
その掛け声と共に、グレッグ伯爵の体が一回り膨らんだ。
「《紅蓮の炎》!」
続けてそう叫ぶと、剣身が深紅の炎を纏った。
「受けられるものなら、受けてみやがれーっ!」
『ブオオオンッ!』
『ガイーーーーーン!!』
『ブボアーーーーーッ!』
剣を切り結ぶと、紅蓮剣の炎が剣を伝い僕の全身を覆った。
その炎は人を消し炭にする程の火力があり、また剣の威力も数段増していた。
『パンッ!』
だが次の瞬間、炎は弾き飛んだ。
鎧の付与効果で、霧散させたのだ。
「嘘だろっ! こんなにもあっさり・・・」
「どうした、遠慮は要らんぞ。俺を一歩でも動かしてみろ」
「くそっ、舐めるなーーーっ!」
『ガイーン!! ガイーン!! ガイーン!! ガイーン!! ガイーン!!・・・・・・・・・・!!』
グレッグ伯爵は真正面に対峙し、目まぐるしい速さで剣を振るった。
それは鎧の付与が、炎を霧散させるスピードを上回った。
だが僕は炎に包まれながらも、その場を動かず剣を受け続けた。
『これでも一歩も退かぬとは・・・・・』グレッグは剣を振るいながら、そんな事を考えていた。
「ならば」
『タッ!』
グレッグ伯爵は一歩間合いを取り、剣を振り上げた。
「出力アップ!」
そしてそう叫ぶと、剣身の炎が火力を増し渦を巻いた。
「だりゃーーーっ! 《紅蓮の業火》だーーーっ!」
『ブバボアーーーーーーーーーーッ!!!』
気合と共に剣を振り下ろすと、剣先から業火が吹き出した。
しかし僕は避ける事をせず、大剣を構え炎をまともに受けた。
「兄貴っ、闘技場が壊れちゃうよっ!!」
その炎は二十数メートル離れた闘技場の壁まで達し、壁の岩をも溶かした。
「ぬっ!」
エミリの叫びに反応し、グレッグ伯爵は炎を放つのを止めた。
『スッ!』
すると止んだ炎の中から、無傷の僕が現れた。
「無傷。英雄とは、これ程までのものなのか?」
「お前、その剣の能力まだ隠してるだろ?」
「分かるのか?」
「ああ。だが今度は、こちらから行く」
『ダタッ!』
「速いっ!」
「《重量最大》」
剣が交わる瞬間、付与で軽くしてあった剣の重量を重くした。
『ガイーーーーーン!!!』
『ズザザザザザーーーーーーーーーー!!!』
「くっ、重い!」
「良く耐えたな?」
グレッグ伯爵は足を引きずり大きく後退したが、辛うじて転ばずにすんだ。
「えーい、負けてなるものかっ!」
『シュバッ!』
グレッグ伯爵は、《瞬動》スキルを発動した。
『ズドッ!!』
「ぐあっ!」
『ドサッ!』
僕は移動先を察知し、カウンターで顎へ掌底を放った。
鎧越しだが、ダメージは相当な筈だ。
『ジャキンッ!』
僕は倒れたグレッグ伯爵の喉元に、剣を突き立てた。
「まだやるか?」
「負けだ! 今のが剣だったら、首が飛んでいた。しかし《瞬動》スキルにカウンターを合わせるとは、恐れいった」
《敗北宣言》を聞いて、僕は剣を下ろした。
「良し、終わったな。では、勝者ヤマト!」
そして審判のアレンさんが、僕の勝ち名乗りを上げた。
こうして、僕とグレッグ伯爵の立ち合いは終わった。
ストック、もう切れました。




