第四話 グレッグ・ラングレイ伯爵①
アレンとエミリは《亜空間ゲート》の設置・管理・警備と領地開拓の協力を得る為、エミリの兄グレッグ・ラングレイ伯爵のところへ押し掛けた。
グレッグはエミリと十歳離れ、現在四十八歳である。
身長は二メートルを越え、筋肉隆々でアレンと比べ二回り程大きかった。
「グレッグ、そういう訳だ。協力を頼む!」
「兄貴、お願い!」
「とんでもない話しばかりで、正直信じられん。だがアレン殿がこんな事で嘘をつく筈はないな」
「勿論、壁の建設も魔素の除去も《亜空間ゲート》の事も全て本当だ」
「するとそれだけの事を成せる協力者とは、《英雄ヤマト殿》の事ではないのか?」
グレッグは王都の開拓や《亜空間ゲート》の売買に、ヤマトが関わっている事を知っていた。
ニコルの名前を伏せた事により、勘違いを生んだのだ。
『キュピーン!』
「ヤマト? ああ、そうヤマトだ」
アレンは《第六感》スキルが働き、敢えてその勘違いに便乗した。
「英雄どうし、親交があったのだな」
「まあな」
「アレン殿とヤマト殿、どちらが強いのだ?」
「知らん」
「まさか《極上の好敵手》を前にて、手合わせしておらんのか?!」
「いがみ合ってる訳でも無し、戦う必要無いだろう」
「だあー、勿体無いっ!」
「お前のその思考には、あきれるぜ」
「なー、どちらが強いのだ?」
「ちっ、しつこいな。総合的に言えば、向こうだろうよ」
「なんとっ! そうか、ヤマト殿はそれ程か・・・・・。俺と手合わせしてくれんだろうか?」
「止めておけ。お前なんかじゃ、手も足も出ねーぞ」
「くっ、アレン殿が言うのであればそうなのだろう。だが高い山程、登り甲斐があるっ!」
「言ってろ」
アレンは、呆れていた。
「なあ、アレン殿」
「何だ?」
「俺の協力が欲しいのだろう?」
「ああ」
「ならばヤマト殿との手合わせ、仲介してくれても良いよなー?」
「くっ、痛いところを突いてきやがる!」
「さあさあ、どうなんだ?!」
「えーい、分かった。俺から話しを付けとく。その代わり、開拓の協力をしろよなっ!」
「よっしゃー、決まりだー!」
「ちょっと大丈夫なの? そんな約束して」
「しょうがねーだろ。お前の兄貴が、こういう奴なんだから!」
こうしてニコルのいないところで、ヤマトとして手合わせする約束がなされた。
「しかし《魔素地帯》と此処が繋がるとなると、国の北部と中央部の距離が一気に縮まる。行商やなんかで、人の往来が増えるな」
「だろうな」
「今は戦争も起きんし、兵士を連れて魔物狩りで鍛えるのも良いな」
今やガーランド帝国は滅び、侵攻により支配された国々は独立し主権を取り戻した。
戦争が起こる素振りは、無かった。
「それなら兵士専用の宿舎を建てよう。その代わりこっちの人員が揃うまで、治安維持をしてくれ」
「ああ、良いだろう」
こうしてアレンとエミリは、ラングレイ伯爵家の協力を得られた。
そして打ち合わせは、この後も続いた。
◇
翌日。
「何でそうなるんですか?」
「ニコルが関わっている事を隠すには、ああ言っておく他無かったんだ」
「それで手合せが必要って」
「あいつの性格、分かるだろ。ちょこっと相手してやってくれ」
「あー、面倒臭い」
「ニコル君! これはニコル君の目的の為でもあるのよ!」
「娘の願いを、叶えるんだったよな?」
「二人して痛いところを突いてくる。これじゃグレッグさんと同じじゃないですか」
「そう言わんでくれ。ニコルが受けてくれんと、俺も困る」
「分かりましたよ。その代わり、手合わせするのは一度きりですよ」
「そうかそうか、受けてくれるか。それじゃ早速、ラングレイ伯爵邸に行こう!」
僕はヤマトに変装して、ラングレイ伯爵邸に連れて行かれた。
◇
ラングレイ伯爵邸に到着すると、応接室で待たされた。
暫くすると、グレッグ・ラングレイ伯爵が現れた。
「おー、噂通りの黒髪。貴殿がかの英雄ヤマト殿か。俺はラングレイ伯爵家当主グレッグだ。宜しく頼む!」
「ああ」
「ヤマト殿は、随分寡黙なのだな?」
「問題あるか?」
「いや。武人はそれくらいの方が良い。俺とは剣で語ってくれ!」
「あんたに、その技量があればな」
「舐めて貰っては困る。これでも俺は、この国じゃ《剣聖》と呼ばれている。大いに語ってやろうじゃないか!」
「グレッグ、その前にもう一度確認だ。ヤマトと立ち合ったら、約束通り開拓の協力をしてくれるんだろうな?」
「ああ、任せろ。人員も資金も工面してやる!」
「良し!」
「ところでヤマト殿。見たところ軽装だが、武具はお持ちか?」
「問題無い。いつでも装備できる」
「ならば我が家の闘技場で待っててくれ。《最上の装備》を纏い、俺も行く」
「分かった。面倒事は、さっさと済ませよう」
こうして僕はラングレイ伯爵邸に来て早々、グレッグ伯爵と立ち合う事になった。




