第二話 アレンさんの領地①
商品の仕入れを《影分身》に任せ、僕は翌日からこつこつと作業を始めた。
土壌から《魔素》を除去し、高さ二十メートルの壁を十キロ四方に立てていった。
規模が大き過ぎて大変だったが、《魔物避け》もしっかり付与した。
「良し、完成だ!」
僕が請け負ったのは、指定範囲の魔素の除去と壁の建設である。
ここからの開拓は、領主であるアレンさんの仕事だ。
◇
僕は一ヶ月ぶりにアレンさんの屋敷を訪れ、作業の完了を告げた。
「よし、早速見に行くぞ!」
「はい」
「私も行くわよ!」
「そうだな。ニコル、エミリも連れて行って良いか?」
この場には、奥さんのエミリもいた。
子供達は学園の夏休みが終わるので、先日王都に戻ったそうだ。
今屋敷にいるのは、アレンさんとエミリと数名の使用人達だけである。
「ええ、構わないです。それでは行きますよ。《転移》」
『『『フッ!』』』
僕達三人は、アレンさんの領地に《転移》した。
◇
「おー、王都並みの立派な壁だー!」
「本当だわ! それにこの辺一帯、魔物の気配を感じない」
「魔素の除去が、上手くいったんだな?」
「はい。魔物は魔素のある場所へ移動しました」
「魔物ハンターはどうした?」
「変装して、丁重に追い出しました」
「丁重にか・・・。まあ良いだろう」
「ニコル君にこれだけの事をして貰ったんだから、良い街を作らないとね!」
「ああ。俺が隠居するまでには、立派な街にしてみせる」
「具体的な事は考えてるの?」
「いいや、まだ何も。俺は政治的な事は、からっきしだからな」
「それなら、頼れる人材が必要ね。例えば、ニコル君とか」
『チラッ!』
エミリがニヤケながら、僕を見た。
「おー、それは名案だ。ニコル、俺のところで働け!」
「お断りします。自分が今抱えてる事だけで手一杯です!」
「ははっ、そうだった」
忙しいのに、街の開拓まで手伝わされたらたまったもんじゃない。
「でも、ここへ通うのも大変ね。ニコル君、あれ売ってよ!」
「あれって?」
「《亜空間ゲート》よ。王都とフロリダ街を行き来できるやつ。国に売り付けたのって、変装したニコル君なんでしょ?!」
あの件に関して、エミリは無関係である。
しかし何処からか、情報を嗅ぎ付けていた。
「確かにそうだけど、幾らで売ったか知ってて言ってるのか?」
「知らなーい」
「三十億マネーだぞ」
「サッ、サンジューオクーーー!!」
「ニコル。よくそんだけ、吹っ掛けたな?!」
「価値は充分にあると思いますよ。それに売ったのは、王国ですから」
「三十億マネーなんて、ライト家じゃ払えないわ!」
「そうだな。開拓に金が掛かるし」
どうにかならないものかと、二人は考え込んだ。
「そうだ、《レンタル》にしましょうよ。そして通行料を取るの。その売り上げから、ニコル君に支払えば良いじゃない!」
「レンタルなら、三十億マネーも必用無いな!」
「どうせなら、馬車が通れるでかいのにしましょうよ!」
「おー、そうだな!」
「ちょっ、ちょっと待ってください。二人で勝手に、話しを進めないでください!」
「開拓が進まなかったら、孤児院も老人ホームも作れないし、仕事も斡旋できないぞ」
「それはそうですけど」
「ニコル君と私達の仲でしょ!」
「売り上げの六割がニコル、四割は此方の経費に使わせて貰う。心配なら担保に一億マネーを預ける。なんならプラスして、ここの土地をやる!」
「・・・・・・・・・・!」
国宝級の魔道具を、おいそれと提供して良いものか悩んだ。
「しょうがないですね。分かりましたよ」
考えた末、お互いの目的の為に了承した。
「やったー!」
「無理を言ってすまんな」
「その代わり、《亜空間ゲート》の事で僕の名前は出さないでください。貴族に知られたら面倒なので」
「分かった約束する!」
「ニコル君の貴族への警戒心は、相変わらずね」
僕はこうして、アレンさんに《亜空間ゲート》をレンタルする事になった。
「大型のゲートは消費魔力が多いですけど、良いんですか?」
「回りは魔物だらけだ。魔石は簡単に手に入る。大丈夫だ」
「分かりました。それじゃ、渡しておきますね」
そう言って《亜空間収納》を開き、《亜空間ゲート》を取り出した。
「すごーい、大きい! これなら余裕で馬車が通れるわー!」
「持ってたのか?」
「ええ。僕も馬車を通そうと、同じ事を考えましたから」
「でもこれって、このまま置いてたら盗まれないかしら?」
「見張りと設置する建物がいるな。どうせなら、屋敷を建てる場所の近くが良い」
「何処にするか決まってるの?」
「まだだ」
「なら、直ぐに決めないとね」
「と言う訳だ。ニコル、もう少し付き合え」
「しょうがないですね」
僕の仕事は終わった筈なのに、ずるずると二人に付き合う事になった。




