第五十八話 家族揃って魔物狩り②
ゾンビ騒ぎ以降サーシアとレコルは順調に魔物を狩り、レベルを徐々に上げた。
「パパ。あそこに何か沢山いるよ!」
「あれは、《ヒツージ》の群れだな」
「強いの?」
「狩った事はないけど、ボア程度じゃないか」
「そうかー、ボア程度かー。もっと強い魔物はいないかなー?」
「ニコルちゃん。ヒツージの毛って、たしか《魔物ウール》の原料よね?!」
「そうだな。羊のウールに比べ高級品だから、少ししか仕入れた事はなかったな」
「こんなに沢山いるなんて、奇跡よ! 狩りましょう!」
ミーリアが、興奮気味に訴えた。
「捕まえて毛だけ刈れば、来年も手に入るかもよ。まあその間、他の人に狩られなければだけど」
「牧場みたいにするのね。良い案だわ!」
「と言う事で、サーシア、レコル、頑張れ。毛はパパが刈ってやる!」
「「えー! 捕まえるだけなのー?!」」
「殺すより、傷付けず捕まえる方が技術がいる。《盗賊》なんかを捕まえる時にも応用が効く、筈だ」
生け捕りだと、ステータス上の《経験値》の入りが極端に少ない。
二人には悪いが、これは咄嗟に思い付いた詭弁である。
「レコル。パパもあー言ってるし、やるしかないわ」
「盗賊を捕まえるのに役に立つなら、やってみるかー」
二人はまんまと、僕の詭弁に乗せられた。
「じゃー、行ってくるね!」
「サーシア、毛を燃やすなよ。ママが泣いちゃうぞ!」
「分かってる!」
二人はヒツージの群れ中に、飛び込んで行った。
◇
「パパー、捕まえたよー!」
「こいつ等何もしない分には大人しいけど、捕まえようとすると集団で暴れるから大変だよー!」
「メエーーーッ!」
レコルがロープで、ヒツージを引っ張って来た。
何度も失敗し、漸く捕まえる事ができたのだ。
「良くやった。でも暴れられたら、毛を刈りにくいな。《睡眠》」
「メヘェ・・・・・!」
二人が苦労して捕まえたヒツージを、魔法で眠らせた。
「あっ、パパずるーい!」
「そんな簡単な方法があるなら、パパが捕まえてよー!」
「おいおい、忘れたのか。これは二人が成長する為にやってるんだぞ」
「うん。まー、そうだけど・・・」
「レコル。大変だけど、頑張ろうよ!」
「分かったよ」
「よーし。二人がもう一頭連れてくるのと、パパが毛を刈るのとどっちが早いか競争だ!」
二人は口車に乗せられ、再びヒツージを捕まえに行った。
僕は二人を見送ると、バリカンを取り出し寝ているヒツージの毛を刈った。
◇
「このお肉、美味しい。でも、初めて食べた気がする!」
「良く気付いたな。これはヒツージの肉だ」
昼食は、《ジンギスカン》にしてみた。
「「えー、ヒツージの肉なのー?!」」
「二人が捕まえたのを、試しに一頭捌いたんだ」
「こんなに美味しいなら、もっと確保しようよー!」
「そうだな。それじゃ五頭分だけ持って帰ろうか?」
「「やったー!」」
「でも生け捕りの条件は、変わらないからな」
「えー!」
「そうなのー?」
二人にとって、ヒツージを捕まえるのは面倒な様だ。
◇
充分なヒツージの毛を手に入れ、翌日の午後狩り場を移動した。
「「「「「「「「「「ワオォォォォォッ!」」」」」」」」」」
すると、狼の魔物のテリトリーに入った。
「パパ。この鳴き声って、狼?」
「ああ、ウルフだ。ヒツージよりずっと手強い。奴等は狡賢く群れで連携してくる。囲まれない様に気を付けろよ!」
「「うん!」」
ウルフの鳴き声がする方へ、二人は先行して進んだ。
「ポム。今回は二人だけでは心配だ。頼むぞ!」
「モキュッ!」
「ニャー!」
ポムに援護を頼むと、シロンも返事をした。
「シロンも行くのか?」
「ニャー!」
「そうか、頼む」
ポムとシロンは、二人の後を付いて行った。
「いっちゃったよー。シロン、だいじょうぶなのー?」
「心配いらないよ。シロンは凄く強い。パパには分かるんだ」
「そうなのー?」
「ああ」
「ニコルちゃんがそこまで信用するなんて、シロンって本当に生まれ変わりなの?」
ミーリアが、だんだん本気でそう思う様になった。
◇
「「「「「「「「「「グルルルルルルルッ!」」」」」」」」」」
ウルフの気配を辿って進むと、サーシアとレコルの視界に二十匹以上のウルフが飛び込んだ。
「多いわね」
「でも、ヒツージより少ないよ」
「そうね。レコル、やれそう?」
「頑張ってみるよ。おねーちゃん、初撃は任せた!」
「うん!」
二人はその場で、ウルフが近付くのを待った。
ウルフは警戒しながら、ジリジリと間合いを詰めた。
「*****、*******、*****、*******、*******、風刃連射」
『シュババババッ・・・・・・・・・・!』
「「「「「キャイン!」」」」」
サーシアによって無数に放たれた風の刃が、複数のウルフに命中し傷を負わせた。
ウルフは散開し、それぞれの間合いをとった。
「*****、*******、*****、*******、*******、風刃連射」
『シュババババッ・・・・・・・・・・!』
「キャイン!」
サーシアは続けて魔法を放ったが、今度は警戒され殆どがかわされた。
「おねーちゃん。僕、行くよっ!」
『ダッダッダッ・・・・・!』
レコルはバラバラになったウルフに標的を定め、突進して行った。
「だりゃー!」
『ザシュッ!』
「キャイン!」
「やー!」
『ザシュッ!』
「キャイン!」
レコルは立て続けに、二頭のウルフを仕留めた。
「「「「「グルルルルルルルッ!」」」」」
数頭のウルフがレコルを標的に定め、唸りを上げた。
そして一定の距離を保ちながら、徐々に包囲していった。
「レコル、動きを止めちゃ駄目っ!」
「分かってる!」
『ダッダッダッ・・・・・!』
レコルは素早く動き、包囲される前に移動した。
「「「「「ガウガウッ!」」」」」
「どうした? 掛かって来いよ!」
レコルはウルフを挑発し、隙ができるのを窺った。




