第五十七話 家族揃って魔物狩り①
先日奴隷商の用事が済み、今日は《魔素地帯》の奥地へと足を運ぶ事になった。
僕はサーシアとレコルと三人で行くつもりだったが、『エミリアもいくー!』と駄々を捏ねられ、仕方無く家族全員で行く事になった。
「エミリア。パパとママから離れちゃ駄目だぞ」
「はーい!」
馬車は使わず徒歩で出発し、シャルロッテも僕達の横をゆっくり歩いた。
「サーシア、レコル。魔物との戦闘は任せたからな」
「パパ、任せて!」
「僕の活躍、見ててよっ!」
二人は、やる気満々だった。
「ニコルちゃん、若い頃を思い出すわね」
「そうだな。ダンジョンとは違うけど、懐かしいな」
「この《魔法銃》も、久し振りに握ったわ」
「腕は鈍ってないか?」
「どうかしら。勘を取り戻すのに、少し時間が掛かるかも」
護身用に、ミーリアに持たせていた。
「コッ、コッ、コッ!」
「あら、ニーワトリだわ。えいっ!」
『ビシュッ!』
「コケーッ!」
『バサッ!』
ミーリアの《魔法銃》が、ニーワトリの頭を貫いた。
「あっ! ママ、ずるーい!」
「魔物狩りは、僕達に任せてよー!」
「ごめんなさーい。美味しい唐揚げが作れると思ったら、つい」
「『つい』って何だよ。もしかして、《ケイコ》にもそんな風に思ってたの?!」
「なっ、何言ってるのレコル。そっ、そんな事思ってないわ。本当よ!」
「ママ、慌ててるー!」
『ゴツッ!』
僕は拳骨で、レコルの頭を叩いた。
「レコル。今のは悪い冗談だ!」
「ごめんなさーい」
レコルは、素直に謝った。
ちょっとした騒動もあったが、ニーワトリを回収し奥地へ進んだ。
◇
『タタタタタタタタタッ!』
シロンが疾風の如く、地を駆けた。
「ニャニャー!」
『スパッ!』
「ブギャーッ!」
『ドサッ!』
「「えっ!」」
狩りの衝動を押さえられず、シロンは飛び出してしまった。
しかも魔法を使って、ボアを一撃で仕留めた。
「シロン! 何でお前が、ボアを倒せるんだよっ!」
「今、《雷属性魔法》を手に纏ってなかった?!」
「あらあら。まるで先代のシロンみたいね。似てるのは容姿だけじゃなかったのね?」
「パパ。魔法を使える猫って、そんなにいるの?」
「さあ、どうだろうな。もしかして、本当に先代シロンの生まれ変わりだったりして?」
「えっ! そうなの?」
「おねーちゃん、きっとそうだよ!」
シロンは能力を隠すつもりが無い様なので、『生まれ変わり』という事で誤魔化した。
◇
僕がボアの回収を請け負うと、サーシアとレコルは次の獲物を探しに行った。
「モキュッ!」
ポムは護衛の為、二人の後を追った。
一方シロンは満足したのだろうか、僕に寄り添ってきた。
本当、気まぐれである。
「シロン。サーシアとレコルのレベル上げが目的だぞ。我慢できないのか?」
「ニャー!」
「二人の手に負えない時だけにしてやれ」
「ニャー!」
「パパ、すごーい。シロンとおはなししてるー!」
「そうか? エミリアだって、シロンと話しをするだろ?」
「うん。でも、なにしゃべってるかわかんなーい」
「パパだって同じさ。一方的に話し掛けてるだけだよ」
「そうなのー?」
シロンの前々世は《人間》であり、この異世界の言葉を理解し話しもできる。
しかしこの件に関しては、打ち明けるつもりは無かった。
◇
ボアの血抜きを終え回収すると、サーシア達の後を追った。
『シャルロッテは、狩りに興味無いから暇だろ?』
横を歩くシャルロッテに、《念話》で話し掛けた。
『気にしなくていいですよ。私はみんなと居られるだけで、楽しいですから』
『それなら良いけど』
『ダンジョンでは、いつも留守番でしたからね』
『ははっ、そうだったな』
僕は昔を思い出し、笑った。
「きゃー!」
「わぁー!」
サーシアとレコルが、悲鳴を上げながら戻って来た。
「どうした?」
「「あっちにゾンビがいたっ!」」
二人が指差す方へ視線を向けると、一体のゾンビが此方に歩いて来るのが見えた。
「倒さないのか?」
二人には、アンデッドに振り掛けるだけで灰にしてしまう《特級聖水》を持たせていた。
それに体内から魔石を取り出せば、一時的に動きを止められた。
《魔素地帯》では、形が残っていると何れ復活してしまうのだ。
また、サーシアの《火属性魔法》も有効であった。
「生理的に無理ー!」
「気持ち悪いー!」
「言ってあっただろ。『《魔素地帯》に足を踏み込めば、ゾンビに遭遇する』って。《聖水》を掛けるだけだぞ」
若い頃僕も苦手だったので、気持ちは分かる。
今は、何とも思わないけど。
「いやー! パパ、何とかしてー!」
サーシアが、僕に抱き付き嫌がった。
『デレー!』
「しょうがないなー。今回はパパが倒してあげるよー」
「パパ、ありがとう。大好きっ!」
「パパ、おねーちゃんに甘いや!」
レコルが何か言っているが、流した。
「ミーリア、エミリアを頼む!」
「任せて。エミリア、此方にいらっしゃい!」
「はーい!」
ミーリアはエミリアを抱き寄せ、ゾンビが視界に入らない様にした。
僕はゾンビの前に赴き、立ち止まった。
「《聖火》」
《火属性魔法》と《聖属性魔法》の合成魔法を放った。
「うぎゃーーー!」
ゾンビは悲鳴を上げながら、あっという間に灰になってしまった。
「「パパ、すごーい!」」
サーシアとレコルが、駆け寄って来た。
「何でパパの火は、青いの?」
「《聖属性》を合成した火だからだよ。アンデッドには、《聖水》以上に効果的なんだ」
「良いなー。サーも使いたいなー」
「その内勉強しような」
「うん!」
「でも、ゾンビの克服もしないとな」
「あっ!」
遺体に戻し、違う場所に埋葬するという手段もあった。
しかし敢えてそうしなかったのは、あの仕事は僕の中で区切りが付いていたからだ。




