第五十四話 村長任命
イワン達の案内で、サーシアとレコルは迷わず帰り道を進んだ。
「モキュッ!」
ポムは手柄を譲る形になったが、全く気にしなかった。
「前に俺が右脚を失ったのって、奴が原因だったんすよ。こいつらの怪我もそうっす」
「何であのウォーベアだって、分かるの?」
「額に、十字の傷があったっすから」
「そう言えば、あった気がする。イワンさん達は、復讐しに行ったの?」
「違うっすよ。ウォーベアのテリトリーはもっと奥地なんすけど、奴はたまに外に出てくるんす。そこに運悪く遭遇したんす」
「そうなんだ」
「にーちゃん達、ツイてないなー」
「モキュッ!」
「本当っすね。もっと強くなってから挑もうと思ってたんすけど、復帰早々出会うんすもん」
「だけどよ、イワン。俺達こうやって生きてるんだ。ツイてるじゃねーか!」
「そうだぜ、イワン。復讐は果たせなかったが、奴はもういないだ。これからは安心して狩りができるってもんだ!」
「死に掛けたのに、ツイてるか。お前等、馬鹿みたいに前向きだな?」
「五体満足なんだから、スラムにいた時みたいに落ち込んでいられるか!」
「じゃなきゃ魔物ハンターなんて、やってられねーからな!」
《エリクサー》で回復した者の中には、魔物に襲われた恐怖から魔物ハンターを辞めた者もいる。
しかし、この三人は違った。
道中あれこれと話しをしながら、森を進んだ。
◇
暫くして、廃村の見える場所まで来た。
「あれっ、いつの間にか壁ができてる」
「きっと、パパが作ったのよ」
「そうだね」
「噂には聞いてたすけど、聖人様やっぱり凄いっす!」
「孤児院も建てたんだろ。聖人様って、一体何者なんだろうな?」
「きっと、神の使いかなんかだろ!」
「そんな訳無いよ。早く中に入りましょ!」
「「「はい(っす)!」」」
一行は、村の入り口に向かった。
◇
「あれっ、鍵が掛かってる!」
『ドン、ドン!』
「ただいまー。パパ、ママ、鍵開けてー!」
壁には門と扉が設置されており、どちらも鍵が掛かっていた。
「やっと帰って来たか」
レコルの声に気付き、僕は扉の鍵を開け子供達を迎えた。
「お帰り」
「「ただいまー!」」
「モキュッ!」
「君達も、良く来たな」
「「「聖人様!」」」
「まー、中に入ってくれ」
「「「はい!」」」
《地図》機能で、イワン達と一緒なのは知っていた。
「えっ、ここが廃村?!」
「どれもこれも、建てたばかりみたいだ!」
「聖人様が、全部やったんすか?!」
「まあな」
「「「ほえー!」」」
イワン達は、度肝を抜かれた。
「お腹空いたー。ママ、ごはーん!」
「サーもー!」
「おいおい。約束を守らず、お昼に帰って来なかったのは誰だ?」
「ごめんなさい、パパ。初めての狩りに、夢中になったの」
「違うよ。僕がおねーちゃんを、森の奥に誘ったんだ! 怒るなら僕を怒ってよ!」
「理由はどうあれ、サーシアはお姉ちゃんだ。レコルを諌める責任がある。罰として、二人共お昼ご飯は抜きだ!」
「えー!」
「しょうがないよね」
罰を言い渡すと、二人は違った反応を示した。
「聖人様、二人を許して欲しいっす。俺達は二人とポムさんに、ウォーベアから命を救われたっす!」
「本当なのか?」
「うん。でも、結局ポムが倒したんだ。僕じゃ攻撃を受け流すのもやっとだった」
「サーの魔法も、効かなかった」
「ウォーベアか。怪我が無くて、良かったな」
「「うん」」
「でも約束を破った事と、イワン達を救った事は別の話しだ。ご飯は抜き。いいな?!」
「「うん」」
「だが、イワン達を救った事は誉めてやる。良くやった!」
「「へへっ!」」
頭を撫でてやると、二人は照れ臭そうに笑った。
「ポムも良くやった!」
「モキュッ!」
「そうだ、パパ。ポムはどうしてあんなに強いの?」
「ん? そう言えば、言ってなかったな。実はパパとママがが結婚する前から、ダンジョンに行ってたんだ」
ダンジョン出入口のセンサーに反応しない様、コッソリと侵入させていた。
それに《魔素地帯》でも魔物を狩っているし、僕が倒した魔物の経験値も加算されている。
「でもポムって、ベビースライムなんでしょ。こんなに強いのおかしいよ!」
「長い事生きてるんだ。ベビースライムな訳ないさ」
「じゃー、何でこんなに小さいの?」
「黙っていたけど、ポムは進化して《キングスライム》になったんだ。小さいのは《擬態》スキルで、姿を変えている」
「「えー!」」
二人は、ポムを見詰めた。
「二人も大きい姿より、小さい方が可愛いくて良いだろ?」
ポムがこの姿でいるのは、僕の好みが影響している。
それに素の大きさだと、一緒に生活するのが困難になる。
「「・・・・・うん。このままの方が良い!」」
二人はポムが大きくなった姿を想像し、そう答えた。
「モキュッ!」
ポムは二人の言葉に、頷いた。
「なー、君達」
「「「何ですか?」」」
「この村に、住んでみないか?」
「「「良いんですか?」」」
「ああ。スラムに残った人達に此処に住んで貰おうと思ってるんだが、君達みたいなのがいた方が安心できる」
「聖人様に恩返しできるなら、何だってやるっす!」
「それじゃイワンには、村長を努めて貰おうか?」
「村長っすか?」
「スラムの人達に任せるには、荷が重いだろう?」
「確かにそうっすね」
「やってみたらどうだ?」
「俺達も、協力するぞ!」
「お前等・・・・・」
イワンは真剣な面持ちで、少しの間考えた。
「聖人様。俺自信無いすけど、恩を返す為一所懸命やるっす!」
「そうか、助かる!」
悪いと思いつつ『村長任命』という形で、イワンに責任を押し付けてしまった。




