第五十三話 ポム
2022/06/01 第四十五話の登場人物ダニーを、イワンに変更しました。
レコルとサーシアが向かった先から、三人の青年が逃げて来るのが見えた。
しかも彼等は見知った顔で、スラムを出たばかりのイワン達だった。
そしてその直ぐ後ろには、大きな熊の魔物『ウォーベア』が迫っていた。
『『『ドスッ!』』』
「「「うぐぁぁぁっ!」」」
三人は追い付かれ、その勢いで突き飛ばされてしまった。
「*****、*******、*****、*******、*******、炎槍連射」
サーシアは早口で魔法を詠唱し、炎槍を放った。
『ブオォォォォォッ・・・ ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!』
ウォーベアが立ち上がったところに、炎槍が見事命中した。
しかし固い毛と皮が邪魔をし、体を貫けなかった。
「うそっ、炎槍が全然刺さらない!」
『ボワァァァッ!』
「ウガー!」
しかし炎槍は炎となって全身に纏わり付き、結果足止めに成功した。
ウォーベアは、必死に炎を振り払った。
「おねーちゃん、今の内に助けるよ!」
「そうだね!」
サーシアとレコルは、倒れているイワン達の下に駆けつけた。
「酷い怪我だ」
「レコルは、熊の相手してて。サーは魔法薬でこの人達治して、逃がすから!」
「うん。でもこいつ強そうだから、早くしてよ!」
「分かった!」
「《身体強化》!」
レコルはスキルを発動し、剣を構えた。
そして丁度その時、ウォーベアに纏わり付く炎が消えた。
「ガオォォォッ!」
次の瞬間、ウォーベアは目の前にいるレコルに襲い掛かった。
『ブオンッ!』
『ガキーーーン!』
「くっ!」
『ズザザザザーーーッ!』
前足の攻撃を剣でまともに受け、レコルはその威力に耐えきれず足を引きずって後退させられた。
「凄い力だ。それに頑丈だし参ったな。倒すのは無理でも、時間を稼がなきゃ!」
『ブオンッ!』
『ギュインッ!』
今度はまともに受けず、前足を受け流した。
「ウガーッ!」
『ブオンッ!』
『ギュインッ!』
『ブオンッ!』
『ガキーーーン!』
『ズザザザザーーーッ!』
「くっ、流しきれない! おねーちゃん、早く逃げて!」
「分かってる。もうちょっと待って!」
イワン達は骨を折る等の怪我をし、全員意識を失ってる。
サーシアは、手間取っていた。
「モキューッ!」
『ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョーーーン!』
レコルが苦戦していると判断し、ポムがウォーベアに突進した。
「駄目だ、ポムッ!」
レコルが引き止めたが、ポムは止まらなかった。
『シュピッ!』
『ズサッ!』
次の瞬間ポムの触覚が伸び、ウォーベアの振り上げた前足を貫いた。
「ウガァァァァァッ!」
その痛みで、ウォーベアは雄叫びを上げた。
『シュピッ!』
『ズサッ!』
『シュピッ!』
『ズサッ!』
『シュピッ!』
『ズサッ!』
「ウガガガガガガァァァッ!」
『バターーーン!』
ポムの触覚攻撃にウォーベアは幾度も体を貫かれ、最後に額を貫かれ息絶えた。
「・・・・・!」
レコルはポムの強さに、呆然と立ち尽くした。
「モキュッ!」
「はっ! ポム」
「モキュッ!」
「お前、こんなに強かったんだ?」
レコルはポムが戦うところを、初めて見た。
今までその容姿から、《哀願動物》の様に思っていた。
長年ニコルと過ごし、ポムはいつしか驚異的な強さを手に入れていたのだ。
「レコル、ウォーベアを一人で倒したんだ。凄いじゃない!」
戦闘が終わっている事に気付き、サーシアが声を掛けた。
「僕じゃないよ。ポムが倒したんだ」
「えっ、ポムなの。どうやって?」
「鋭い触覚を伸ばして、何度も突き刺したんだ」
「うそっ、サーの炎槍でも刺さらなかったんだよ!」
「本当だよ」
「そうなんだ。ポム、助けてくれてありがとう!」
「モキュッ!」
「でも、不思議。こんなに《プニプニ》なのに」
サーシアは、ポムを指で突いた。
「イワンさん達、大丈夫なの?」
「うん、怪我は治ったわ。けど、意識が戻らないの。ウォーベアを倒してくれて、助かったわ」
「おねーちゃん。僕、ポムに負けないくらい強くなるよ!」
「サーもだよ。一緒に頑張ろうね」
二人は『強くなった』という思い上がった気持ちを、この戦闘で反省した。
◇
サーシアとレコルは、イワン達が起きるのを待った。
その間、ウォーベアとレッドボアは魔法袋に回収した。
「うっ、ううっ!」
三人の内、イワンが目を覚ました。
「イワンさん、大丈夫?」
「あれっ、サーシアちゃん?! 何で此処にいるんすか?」
イワンの三下口調は、サーシアに対しても健在だった。
「弟と魔物を狩ってたら、叫び声がしたから見に来たの」
「えっ、二人きりで?」
「ポムもいるよ」
「ポム?」
「このベビースライム。私達の家族なんだ」
「モキュッ!」
ポムは触覚を腕の様に伸ばし、イワンに挨拶した。
「この子が、ウォーベアを倒したんだよ」
「えっ、ウソっすよね?! このちっこいのが、倒せる筈ないっす!」
「本当だよ」
「信じられないっす・・・・・」
イワンは、ポムを『ジッ』っと見詰めた。
「あっ、そうだ。俺ウォーベアに突き飛ばされて、死んだと思ったんすけど?!」
「サーが、パパから貰った魔法薬で治したんだ」
「あっ、ありがとうっす! サーシアちゃんは、命の恩人っす!」
「でもレコルとポムが戦ってくれたから、助けられたんだよ」
「えっ、レコル君もウォーベアと戦ったんすか?!」
「まあね。おねーちゃんも魔法で戦ったけど、ポムがいなかったら助けられなかったよ」
「そうだったんすね。皆さんに感謝するっす!」
この後イワンは仲間の二人を起こし、事の成り行きを説明した。
そしてイワン達の案内で、廃村まで帰る事になった。




