第五十二話 サーシアとレコル、初めての魔物狩り
サーシアとレコルは、廃村から少し奥へ行った所で魔物を狩っていた。
「やー!」
『ザシュッ!』
「えいっ!」
『ドスッ!』
二人は余裕で、それぞれホーンラビットを仕留めた。
「物足りないね」
「そうね。魔法を使うまでもないし」
サーシアは、長杖を鈍器として使用していた。
「モキュッ!」
「うん。ポム、お願い」
ダンジョンとは違い、此処で倒した魔物はそのまま亡骸が残る。
ポムは戦闘に参加せず、血抜きを担当した。
『プスッ!』
『ゴキュ、ゴキュ・・・・・!』
触覚を亡骸に刺し、ストローの様にして飲み込んだ。
魔素を含んでいて、美味しい様だ。
「おねーちゃん、もっと奥に行こうよー!」
「あまり遠くに行くと、お昼ご飯までに帰れないよ」
「でもこの辺、スライムとラビットとホーンラビットしかいないよー!」
二人は初めての狩りだったが、魔物図鑑を見て魔物の名前や特徴を知っていた。
「パパが連れて行ってくれるって、言ったじゃない。我慢しなよ」
「こんな事、滅多に無いんだよー。おねーちゃんだって、行きたいでしょー!」
「・・・・・もうレコルってば、我が儘なんだからー。ちょっとだけだよ!」
「やったー! おねーちゃん大好き!」
サーシアとレコルは、好奇心から更に奥へと進んだ。
◇
「もー。レコルがどんどん先に行くから、道に迷ったじゃない!」
「だってこいつ、逃げ足早いんだもん!」
二人の足元にはレッドボアの亡骸が転がっており、ポムが血抜きをしていた。
「もうお昼じゃない。パパに怒られるよー!」
「おねーちゃん、お腹空いたー!」
「サーだって、お腹空いたよー!」
「取り敢えず、お菓子食べようよー!」
「そうね。お腹空いたままじゃ、動けないからね。おやつ休憩してから帰りましょ」
サーシアは魔法袋から、クッキーとオレンジジュースを取り出した。
「でもおねーちゃん。僕何だか力が強くなった気がする」
「サーもだよ。パパが言ってたけど、『魔物を倒すと強くなる』って本当だったね」
「もっともっと魔物を倒して、もっと強くなるんだ!」
「そうだね!」
二人は能力の向上を実感し、高揚していた。
◇
「パパ、すごいすごーい!」
「ははっ、そうか。パパは凄いか?」
「うん、すごーい! エミリアもやりたーい!」
「今は無理かな。大きくなったら、錬金術の勉強しようなー」
「うん!」
僕はエミリアの面倒を見ながら、廃村を住める環境に変えていった。
鬱蒼と茂った雑草を刈り、地面を石畳に変え、壊れた家や井戸を綺麗に直した。
「ニコルちゃん。お昼ご飯できたけど、あの子達帰って来ないのよー」
「しょうがないなー。お昼までに帰れって言ったのに」
「もう少し待つ?」
「いや、先に食べよう。当分帰らないよ」
《地図》機能で確認すると、まだ遠くにいた。
待っていたら、いつになるか分からない。
「そんな遠くに行ってるの?」
ミーリアは、僕の能力の事を知っている。
「そうだね。まーあの子達なら、怪我は無いと思うよ。ポムもいるしね」
「ニコルちゃんがそう言うなら大丈夫だと思うけど、やっぱり心配」
「帰らない様だったら、迎えに行くよ」
「お願い」
僕達は二人を待たず、先に昼食をとる事にした。
「ねえ、ニコルちゃん?」
「何?」
「人助けは良いけど、お金の事は大丈夫なの?」
「誰かから、聞いた?」
「うん。マザーや教会に雇われた人達に。私にも凄く感謝してた」
ミーリアは教会で怪我人の回復や炊き出しの料理の手伝いをし、親交を深めていた。
「心配しなくて良いよ。今まで貯め込んだお金がたんまりあるから、全然余裕。丁度《寄付》をしようと考えてたんだ」
「可愛い娘のお願いだからって、無理しないでね」
「分かってる」
ミーリアは、僕の所持金が幾らあるか知らない。
関心が無い様だ。
しかし今回の件やこれからの事を考え、心配になったのだろう。
本当の事を言って安心させたい気持ちもあるが、きっと驚かせてしまう。
だが結局、その事は黙っていた。
◇
「さて、休憩は終わりにして帰ろう!」
「おねーちゃん、帰り道分かったの?」
「多分、あっち」
『モキュッ!』
ポムは触覚を伸ばし、サーシアとは違う方向を指した。
「えっ、ポム。あっちなの?」
『モキュッ!』
「おねーちゃん、駄目じゃん」
「そんな事言ったって、レコルだって分からなかったでしょ!」
「それはそうだけどさ。もう良いから、早く帰ろうよ!」
「うん。ポム、道案内よろしくね!」
『モキュッ!』
ポムは『任せろ!』と、触覚で胸を叩く様な感じのポーズをしてみせた。
だが、そんな時である。
「うわーーー!!」
「逃げろーーー!!」
「殺されるーーー!!」
「グァオォォォォォ!」
遠くから、人の叫び声と猛獣の唸り声が聞こえてきた。
「おねーちゃん!」
「レコル!」
レコルとサーシアは、顔を見合わせた。
「行ってみよう!」
「うん!」
『『ダダダッ・・・・・!』』
「モキュッ!」
二人は声のする方へ駆け出し、ポムも二人の後を追った。




