第五十話 スラムの騒動⑤
カルトッフェル男爵は、スラムの人達を無理矢理追い出そうとした。
「待ってください!」
僕は我慢できず、咄嗟に口を挟んだ。
すると、衛兵が動きを止めた。
「お前は確か、トルネードポテトを売っていた屋台の店主っ!」
側付きの男が、僕の顔を覚えていた。
「はい」
「何故、此処にいる?」
「この人達を、支援していました」
「支援? もしや貴様が、《ならず者共》を退治したのか?」
「はい。ですが先程男爵様の口から『使いものにならなくなった』と聞こえたのですが、何かご関係でもありましたか?」
「カルトッフェル様は、そんな事言ってない。聞き違いだ!」
「そうですか。まー、良いでしょう」
僕の中では、十中八九繋がってると思っている。
「どけっ!」
「あっ、はいっ!」
そこに衛兵を押し退けて、カルトッフェル男爵が現れた。
「貴様かー! 私の《収入源》を台無しにしたのはー!」
「収入源って何の事です?」
「此処の《ショバ代》と、《奴隷商》から入る金だー。それを貴様は潰しおってー!」
「カッ、カルトッフェル様。衛兵の前です!」
側付きの男が、慌てて諌めた。
「やはり、ならず者や奴隷商とグルだったんですね。街長だったら、困ってる住民を助ける立場だと思うのですが?」
「何処の生ぬるい領地の事を言っている。貴族が平民から《搾取》するのは当然の事だっ!」
「その結果街から人がいなくなったら、誰から搾取するんです?」
「うるさい! 貴様に言われる筋合いは無いわー!」
「そうもいきません。娘の願いでこの人達を支援しているので、見過ごしてしまっては娘に合わす顔がありません」
「娘の願いの為に、男爵の私に楯突く気か?!」
「いけませんか?」
僕はそう言って、《悪事矯正リング》を取り出した。
「「それはっ!」」
男爵と側付きの男が、顔を引きつらせた。
これが何か、分かっている様だ。
「貴様、それを我々に使うつもりか?!」
「さー、どうでしょう」
「くっ! 衛兵、奴は私に逆らう危険人物だ。取り押さえろっ!」
「はっ、はい!」
『『『『『『『『『『ザザザッ!』』』』』』』』』』
僕の前に衛兵が、立ちはだかった。
しかし皆、浮かない顔をしている。
「衛兵さん達、男爵の話しを聞いて何とも思わなかったのか?」
「「「「「「「「「「・・・・・!」」」」」」」」」」
衛兵達が、戸惑いの表情を浮かべた。
「俺達には妻や子供がいる」
「そうか。あんた達にも、引けない立場があるのか」
「「「「「「「「「「・・・・・!」」」」」」」」」」
「貴様等、何をしておる。早く捕まえろ! 解雇にするぞ!」
「はっ、はい。お前等、捕らえるぞ!」
「「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」」
衛兵達は表情を引き締め、僕に襲い掛かってきた。
「《睡眠》」
『『『『『『『『『『バタッ!』』』』』』』』』』
しかし例のごとく、眠らせてしまった。
《威圧》スキルを使わなかったのは、彼等に《殺意》や《悪意》を感じなかったからだ。
「はへっ?」
男爵は間の抜けな顔で、変な声を上げた。
「きっ、きっ、貴様、衛兵に何をしたっ?!」
「魔法で眠らせただけです」
「馬鹿な、魔法だと! 詠唱してなかったではないか?!」
「カッ、カルトッフェル様。あれはおそらく《無詠唱》です。ならず者共も似た様な目に遭ってます。この男、とんでもないです!」
「何、そうなのか? おっ、おい、何とかしろっ!」
「わっ、私には無理です!」
逆に追い詰められ二人は、あたふたした。
「さあ。お二人に、このリングをプレゼントして差し上げます」
そう言って、二人に迫った。
「要らんっ! 近付くなー!」
「こっ、来ないでくれー!」
「何故そんなに嫌がるんです? 《ミスリル製》の《お洒落アイテム》ですよ」
「おっ、お前を、私の部下にしてやる。金もたんまりやる。だから止めろっ!」
「それが交換条件になるとでも?」
「だったら、何が望みだっ?!」
「そうですね。取り敢えず《人頭税》を、元に戻していただきましょうか」
「それはできんっ!」
「領主様の命令だからですか?」
「・・・・・!」
「もしかして、領主様に内緒で私腹を肥やしてたんですか?」
「くっ!」
「図星ですか。この状態では、交渉が長引きますね」
『キッ!』
「「あががーーーっ!!」」
お仕置きとばかりに、《威圧》スキルで二人を失神させた。
そして直ぐに、《悪事矯正リング》を右足首に取り付けた。
◇
騒動から、十日が過ぎた。
あの後カルトッフェル男爵を起こし、交渉の末来年から《人頭税》を元に戻す事になった。
傍から見れば、拷問にも見えただろう。
そしてその事を踏まえ、スラムの人達に家に帰る提案をした。
結果、当分の生活費を提供する事で、帰る決意をする者が多く現れた。
その人達は一人ずつ家まで送り、家族に受け入れられるのを見届けた。
そして最終的に、スラムには七人残った。
この人達は帰る家が無かったり、完全に家族に見放されていた。
そんな事もありながら、今日孤児院が完成した。




