第四十八話 面接
スラムでの騒動や炊き出し・支援を終え、教会で働きたいという四人を連れて帰った。
到着すると馬車を裏庭に停め、四人を連れて教会の中に入った。
「只今、戻りました」
そして近くにいたシスターに、声を掛けた。
「お疲れ様です!」
「あのー、マザー・テレジアにお話しがあるのですが」
「マザーですか? 少々お待ちください」
取り次ぎを頼むと、シスターは後ろに立つ四人に視線を向けた。
「えっ、どうして?! 皆さん、スラムの方達ですよね? それも酷い怪我や病気だった筈!」
「「「「はい」」」」
彼等の元気な姿を見て、シスターは驚いた。
「どうやって、回復されたのですか?」
「《聖人様》から、貴重な魔法薬をいただいたんです」
「聖人様?」
「シスターの目の前にいる御方です」
「えっ! まさか、ニコルさんの事ですか?!」
「「「「はい」」」」
シスターが、僕を見詰める。
「それだけじゃないんです。スラムを出たい人には、武器や防具、商売道具を提供してくれたり、生活費もくれました!」
「まあ!」
「私達は聖人様に恩を返す為、教会の福祉活動のお手伝いをしたいんです!」
「俺達を、教会で働かせてください!」
「お願いします!」
「よっ、用件は分かりました。マザーを呼んで来ますので、応接室で待っていてください!」
僕達は応接室に案内され、マザー・テレジアが来るのを待った。
◇
「お待たせしました」
「お忙しいところ、申し訳ありません」
「ニコルさんなら、いつでも大歓迎ですよ」
「ありがとうございます」
「シスターから話しは聞いたのですが、怪我や病気が回復したというのは本当だったのですね?」
「「「「はい、聖人様のお陰です!」」」」
「ふふっ。多分ニコルさんは、希少価値のとても高い《エリクサー》をお使いになったのでしょう。『聖人』と呼ばれるに相応しい《徳》を待った人物ですね」
「マザーまで止めてください! 私は娘の願いを叶えただけです。お前達も『聖人』なんて止めて、『ニコル』と呼べ!」
「いえ。聖人様は聖人様です」
「そうです。俺達はただ野垂れ死んでいくのを、聖人様に救われたんです!」
「そんな人を『聖人様』と呼ばず、何と呼ぶんですか!」
「それに、とても強くて美しいです!」
四人は僕を、褒め称える。
「あーもうっ、何を言っても無駄だなっ!」
「ふふふっ。皆さん、ニコルさんに心酔しているご様子ですね」
話しが進まないので、訂正するのを諦めた。
「マザー・テレジア」
「何でしょう?」
「教会の福祉活動の要員として、この四人を面接していただけないでしょうか?」
「その事でしたら、採用で良いですよ。皆さん元気そうですし、性格も良さそうですから」
「良いんですか?」
「はい。その替わり、お給料はお小遣い程度しか払えませんが」
「お前達、それで良いか?」
「「「「はいっ!」」」」
四人は、元気良く返事をした。
思いの外、すんなり就職が決まった。
そしてこの後、改めて自己紹介を行った。
◇
「マザー。仕事があれば、お申し付けください!」
「今日から働きます!」
「雑用でも何でも、言ってください!」
「汚れ仕事でも力仕事でも、何でもやります!」
「そうですか。それではスラムの方達の、炊き出し担当になっていただきましょう。早速ですが、シスターと食材を購入してきてくれないかしら?」
「「「「はい!」」」」
「マザー・テレジア、ちょっと良いですか?」
「何でしょう? ニコルさん」
「炊き出しをしていただけるのでしたら、こちらを差し上げます」
そう言って、魔法袋を取り出した。
「これは?」
「私達が炊き出しに使っていた魔法袋です。中には塩・胡椒・砂糖・醤油・油、それに調理道具や食器類が入ってます」
鍋やスープ皿は軽いアルミ製で、スプーンはステンレス製で先が割れてフォーク代わりになるやつだ。
「何から何までいただいて、すみません」
「良いんです。そうだ。食材を買いに行くのに、もう一つ魔法袋があった方が便利ですね」
僕は魔法袋を、もう一つ取り出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます。重ね重ね感謝いたします」
この後四人はシスターに付き添われ、食材の買い出しに出掛けた。
常連の安い店を、教えてくれるそうだ。
僕は裏庭に戻ると、新しくテントを張った。
ここは女所帯らしく、男性用の部屋が無いそうだ。
そういう訳で、孤児院ができるまで男性陣はテントで過ごす事になった。
それが終わると、夕食の時間まで孤児院の建築を行った。
◇
マザー・テレジアの執務室。
「スラムの大勢の人にエリクサーや上級エリクサーを惜しげもなく使うなんて、とてもできる事ではないわ。あの子達が『聖人様』と呼ぶのも頷ける」
四人の自己紹介中、マザー・テレジアはニコルの偉業を聞かされていた。
「その他にも多額の御布施をし、錬金術で家を建て、大勢のならず者を一人で倒し、そのならず者を魔道具を使って無力にさせる。なんて御方なのかしら」
その脳裏には、ニコルの顔が浮かんだ。
「はぁぁ。それにあの甘いマスク」
マザー・テレジアは、ニコルに淡い恋心を抱いていた。




