第四十七話 スラムの騒動③
武装した男達を前にし、サーシアとレコルが戦おうとしている。
しかし僕は嫌らしい笑いを浮かべるこいつ等と、二人を関わらせたくなかった。
そう思った瞬間、《威圧》スキルを放ち失神させてしまった。
「一体、何が起こったんじゃ?」
「何で倒れたの?」
「俺達、助かったのか?」
スラムの人達は、何が起こったか理解できずにいた。
「パパ、ズルいよー。また一人でやっつけちゃったー!」
レコルが、つまらなそうに文句を言う。
「えっ、まさか聖人様が? どうやって?!」
「そんな事より、縄を解いてしまおう。《解縄》」
『『『『『『『『『『ハラリッ!』』』』』』』』』』
「えっ!」
「縄が解けた」
「触れてもいないのに、どうして?」
「魔法だ」
「「「「「「「「「「うおーーー!」」」」」」」」」」
スラムの人達は興奮し、雄叫びを上げた。
◇
その後武装した男達を、ほどいた縄で縛り上げた。
「どうして、こんな事になった?」
「いきなりこいつらが現れて、聖人様と家族の皆さんを出せと」
「そうか、僕達が目的か。『此処を去る』と仄めかしたのに、誤魔化せなかったか」
「それに体が治った理由を聞かれ、《魔法薬》を寄越せと脅されたり、俺達を《奴隷商》に売るとまた言い出して」
「治療した事で、かえって迷惑を掛けたな」
「そんな事ないっす。みんな喜んでましたから」
「だがこのスラムには、居辛くなったろ」
「こいつ等がいる限り、そうっすね。俺達はスラムを出ていけば良いけど、年寄りや問題を抱えてる奴達は行く所がないっすから」
「ここまで関わってしまうと、放っとく訳にいかないか・・・・・」
この件を、どうやって解決するか悩んだ。
スラムを直ぐに出て行く意思のある者は、十九人。
残り二十八人の安全を、確保しなければならない。
サーシアに付き合って旅を続ければ、こんな事はいくらでも起こりうる。
その度に保護していては、何千人にもなってしまう。
こんな《慈善活動》、いずれ無理がくる。
「パパ、大丈夫?」
「正直、凄く困ってる」
「そうなの? でもパパなら、きっと何とかなるよ!」
「サーシア」
「なーに?」
「サーシアが言い出した事なんだから、パパに任せっきりじゃ駄目だ」
「そうだった。サーも一緒に考えなきゃ!」
『ニコッ!』
うん、可愛い。
そして、純粋過ぎる。
『こんな慈善活動を続けるより、サーシアには自分の幸せを追い求めて欲しい』と思った。
「ニコルちゃん」
「何?」
「炊き出しは?」
「そうだった。みんなお腹を空かせてるだろうから、そっちが先だな。ミーリア、サーシア、頼む」
「「はーい!」」
魔法袋を預け、二人に炊き出しを任せた。
◇
炊き出しの間、一人で妙案を考えていた。
しかしこれといった案は、思い浮かばなかった。
「しょうがない。一時凌ぎだが、あれを使うか」
そう言って、《悪事矯正リング》を取り出した。
そして失神した男達の右足首に、装着していった。
『ペシペシッ!』
「起きろ!」
大柄のボスらしき男の頬を、叩いた。
「うっ」
男は意識を取り戻し、目を開いた。
「俺が誰だか分かるか?」
「ひぃー、許してくれー!」
「ああ、今回は許してやる」
「マジか?」
「ああだがな、次は許さない。保険として、右足首にリングを取り付けた」
男は右足首に、視線を移す。
「これは?」
「魔道具だ。悪事を考えただけで激痛が走るから、気を付けろよ」
「そんなもんが、あるのか?」
「忠告はしたぞ。疑うなら試してみろ。《解縄》」
『ハラリッ!』
「縄が解けた。あんた、魔法が使えるのか?」
「みんなを起こして、サッサと帰るんだな」
「あんた、一体?」
「ただの商人だ」
僕はそう言い残し、家族の元に戻った。
◇
「うひーーー!!」
「うぎゃーーー!!」
「いってーーー!!」
「馬鹿野郎、何度言ったら分かる。余計な事を考えるんじゃねー!」
男達は暫く悲鳴を上げていた。
そして、何とか帰っていった。
「聖人様、すげーすっ! あいつ等に何をしたんすか?」
「特殊な魔道具を付けた。悪さを考えただけで、ああなる」
「そんな物まで持ってるんすか。聖人様は、やっぱすげーや!」
「そんな事より、スラムを出る奴に物資と金を配る。みんなを集めてくれないか?」
「えっ、もう全員分用意できたんすか?」
「そういう事だ」
「分かりました。野郎共を集めてきます。ついでに魔道具の説明もしときますよ!」
ロイドは僕の代わりに、みんなに《悪事矯正リング》の説明をしてくれた。
すると安心感からか、みんなの顔が綻んだ。
そしてスラムを出る人達が、僕の元に集まった。
◇
一時間掛けて、一人ずつ物資と金を渡し終えた。
「こんなに貰って良いんすか?」
「ああ。その替わり、二度とスラムの住民になるなよ」
「はい。絶対戻らないっす!」
「俺も!」
「私も!」
「それと《孤児》を見掛けたら、保護して教会に連れて行ってくれ」
「「「「「「「「「「任せてください!」」」」」」」」」」
これで孤児が奴隷になる危険性が、かなり下がった。
「後は君達だ。マザーに紹介するから、採用されるよう頑張ってくれ」
「「「「はい!」」」」
教会の手伝いをしたいと、男女二名ずつ名乗り出た。
採用するかはマザー・テレジアが決めるとして、紹介する事になった。




