第四十六話 スラムの騒動②
僕は男達が去って行くのを、見届けていた。
「ニコルちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。何の問題もない」
「良かった!」
「さて、続きをやるか!」
「続きって?」
「孤児は教会に連れて行く事になったけど、残った人達にも支援をする事にした。その話しが途中だったんだ」
「エシャット村に、連れて行かないの?」
ミーリアと会話をしていると、そこにサーシアが口を挟んだ。
「誰も彼も受け入れたら、村が疲弊してしまう」
「どうして?」
「前にも言ったろ。『孤児を育てるには衣食住や面倒を見る人が必要で、それにはお金が掛かる』って。ましてや大人なら、人頭税も多く支払わないといけない。色々と大変なんだ」
理由はそれだけでなく、素性の分からない人間を受け入れるには抵抗があった。
《閉鎖的》かもしれないが、《村の平穏》を第一に思っての事である。
だがこの事は、本人達を前にして言えない。
「・・・・・!」
サーシアは、黙ってしまった。
「だからこの街で生きていける様に、最低限のサポートはする」
「うん」
サーシアが頷くと、僕はスラムの人達に近付いていった。
「みんな、聞いてくれ!」
視線が、僕に集まった。
「一部の人には話したが、スラムを出たいなら金や物資を支援する。その気のある者は、名乗り出て欲しい!」
「「「「「「「「「「ざわざわざわ・・・・・!」」」」」」」」」」
話しを始めて聞いた人達が、ざわついた。
「わしはもう歳で働く事もできず、《口減らし》で此処に来たんじゃ。後は死ぬのを待つだけじゃ」
「私も同じ。息子夫婦と孫達は、重税で食べるのがやっと。せめて私の食い扶持だけでも減らしたかった」
「俺は酒に溺れて、仕事が手につかなくなった。野垂れ死ぬのが、関の山さ」
「働けないなら、無理に此処を出て行く必要はない。教会のマザーには、此処の支援は頼んだ。食事には以前よりありつけるだろう」
「あんたはどうしてわし等に、そこまでしてくれるんじゃ?」
「お返しする物なんて、何もありませんよ」
「俺達を、騙してないよな?」
僕の行いが不可解だったり、不信がる人がいた。
「僕はただ、《娘の願い》を叶えてやりたいだけだ。何の魂胆も無いから、安心して欲しい」
「お嬢さんが、わし等を?」
「それだけの理由で?」
「それが本当なら、お人好し過ぎるぜ」
僕が理由を言っても、いまいち信じきれていない。
「みんな、お願い。パパを信じて!」
サーシアがそんな空気を読んでか、みんなに語り掛けた。
「なるほど」
「こんな可愛いお嬢さんに頼まれたら、誰でも言う事聞いちゃうわね」
「天使!」
「ははっ!」
サーシアの援護のお陰で、どうにか信じて貰えた。
僕はそれを見て、苦笑いを浮かべた。
その後手を上げた人に詳しく要望を聞き、支援は明日以降行う事になった。
そしてこの日は、孤児を連れて教会に帰った。
◇
教会に到着すると、孤児達はシスター達と面識もあり優しく迎え入れられた。
「それでは、お庭をお借りします」
「ええ、どうぞ。ご自由にお使いください」
孤児院を建設する間、裏庭を借りられる事になった。
『僕が一人で建てる』と言ったら驚かれたが、教会の壊れているところを錬金術で直したら信じて貰えた。
僕達はテントを張り、まずは生活環境を整えた。
「ニコルちゃん。夕食と明日の炊き出しの支度をしちゃうわね」
「頼む。僕は孤児院の建設を、少しでも進めるよ」
「うん。サーシアは、料理を手伝ってね」
「はーい」
「僕、子供達のところに行ってくる」
「それなら、エミリアとシロンも連れて行って」
「良いよ。エミリア、シロン、行くぞ!」
「うん!」
「ニャー!」
僕達は教会に帰ってからも、忙しなくしていた。
◇
翌日お昼に合わせ、家族でスラムに向かった。
孤児院の建設は昨晩の内に地下を完成させ、今朝は一階部分に取り掛かった。
本気になれば一晩で完成させられたが、驚かれてしまうので一週間を目処に考えている。
それでもマザーやシスター達には、驚かれてしまった。
やがてスラムに到着すると、そこは不穏な空気に包まれていた。
武装した男達が、十五人程集まっていたのだ。
しかもスラムの人達が、全員縄で縛られていた。
「やっと来たな!」
「どういうつもりだ?」
「こいつ等が昨日受けた借りを、返させて貰う」
話し掛けてきた大柄な男の横には、昨日の二人がいた。
若干、震えている。
「馬車から降りろ!」
「・・・・・!」
「言う事聞かねーと、こいつらぶっ殺すぞ!」
大柄な男が、叫びながら剣を抜く。
「「「「「「聖人様ぁ」」」」」
僕はその様子を見て、ゆっくりと御者台から降りた。
「馬車の中の家族も降りて来いっ!」
「くっ!」
みんなには馬車で隠れている様に言ったが、バレていた。
『『ダッ!』』
僕が悔しがっているところに、サーシアとレコルが勢い良く馬車を飛び降りた。
「あんた達、みんなを解放しなさい!」
「うひょー、可愛いねー。思った以上だー!」
「お前等全員、倒してやる!」
「威勢が良いなー、坊主。お前も良い値が付きそうだぜ!」
「「「「「「「「「「うへへへっ!」」」」」」」」」」
武装した男達が、いやらしい笑い声を上げる。
だが僕は、それを許さない。
『キッ!!』
「「「「「ひえーーー!!」」」」」
「「「「「うわーーー!!」」」」」
「「「「「ぎゃーーー!!」」」」」
強めの《威圧》スキルを放ち、武装した男達を全員失神させた。




