第四十四話 聖人様
マザー・テレジアは、早速孤児院を建てる場所に案内してくれた。
初対面なのに、突拍子もない話しを信用してくれた様だ。
「ニコルさん。この空き地を使ってください」
「随分広いですね」
「畑をやっていましたが、今は人手が足らなくて縮小してしまいました」
「勿体無い」
「ええ。ですから、ニコルさんに使っていただければと思って」
「ありがとうございます」
「パパ、何するの?」
教会の見学が終わり、付いて来たサーシアが問い掛けた。
「孤児院を、建てる事になったんだ」
「良かったね!」
「これもサーシアの願いを叶える為だ!」
「ありがとう、パパ。大好き!」
『ニパッ!』
サーシアは満面の笑みを浮かべ、僕に抱き付いてきた。
「はっ、ははっ!」
僕はデレデレになって、照れた笑い声を上げた。
「パパ、おねーちゃんに甘いよー!」
「そっ、そんな事ない。サーシアもレコルもエミリアも、みんな平等だぞ!」
「じゃー、僕のお願いも聞いてよー!」
「今は忙しいから、待ってくれ!」
「ちぇっ! 魔物狩りに、行きたかったのにー」
「あらあら、微笑ましいこと。ところでニコルさん、孤児院の規模はどの位を想定してるのですか?」
「そうですね。これだけの土地なら地下一階地上三階にして、孤児を五十人位受け入れられる様にしますか」
「そっ、そんな立派なものを、建ててくださるのですか?」
「ええ」
「そうなるとうちのシスターだけでは、お世話は難しくなりますね」
「それでしたら、スラムの人達の中から良さげな人を雇っていただけないですか?」
「えっ、ええ。そうですね。良い人がいれば」
マザー・テレジアは、少し困りながら返事をした。
現状の彼等では、戸惑うのも無理はなかった。
「パパ。スラムには大勢いるけど、みんな働けるの?」
「みんなは無理だな」
「残った人は、どうするの?」
「どうするかなー。まだ考え中だ」
孤児の問題は何とか解決したが、大人達の行く当てに困った。
「マザー・テレジア」
「はい、何でしょう?」
「これからスラムに行って炊き出しをするのですが、孤児が三人程いたので連れて来て良いですか?」
「はい。そのくらいでしたら、お預かりします」
「ありがとうございます。それでは早速、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
僕達は教会をお暇し、炊き出しをしにスラムへ向かった。
◇
マザー・テレジアはニコル達を見送り、一人佇んでいた。
「あー、何て素敵な方なのでしょう」
『ポッ!』
そして年甲斐も無く、ニコルを思い出し頬を染めた。
「マザー、どうされました? 顔が赤いですよ」
そこにシスターが現れ、声を掛けられた。
「えっ、いえ、何でも無いのよ!」
「そうですかー、それなら良いんですけど。それにしてもあのご主人、格好良かったですねー?」
「ええ、そうね」
マザー・テレジアはシスターに気取られない様、平静を装った。
◇
スラムに到着すると、みんなに炊き出しを振る舞った。
その後『話しがある』と言って、子供と体の不自由な人を集めた。
「先ずは、子供達からだ」
「「「なーにー?」」」
「今度おじさんが、この街の教会に孤児院を建てる事になった。君達は行くか?」
「ゴハンたべれる?」
「ああ」
「おふとんある?」
「ああ」
「おじちゃんも、イッショなの?」
「おじちゃんは旅の商人だから、一緒にはいられない。でも、たまに孤児院に顔を出すよ」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
「それじゃ、いくー!」
「よーし、今日から教会に泊めてくれるそうだから、一緒に行こう!」
「「「うん!」」」
孤児の件は、何とかなりそうである。
「今度はあんた達の番だ。怪我や病気を直してやる」
怪我で手足が動かなかったり欠損している人、それに目の見えない人や内臓を患って苦しんでいる人達がいた。
「馬鹿にすんな! 俺達みんな重症なんだぞ。そんな事できる筈ないだろ!」
反発してきた男は、右脚の膝から下を失っていた。
他にも、傷痕が見てとれる。
「良いから、騙されたと思ってこれを飲め!」
「これは?」
「特別な魔法薬だ。効くから飲んでみろ!」
僕は真剣な眼差しで、男に瓶を差し出した。
「分かったよ。騙されたと思って、飲んでやるよ!」
男は根負けし、瓶を受け取り口に運んだ。
『ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ!』
『ピカー!』
魔法薬を飲み込むと、男の体は強い光に包まれた。
「うっ、ぐっ!」
そして、呻き声を上げた。
だがそれは欠損している脚が再生する痛みで、最初の内だけである。
◇
五分程すると光は止み、右脚は完全に復元した。
「軌跡だ。脚が生えたぞっ!!!」
「「「「「「「「「「おおーーー!!」」」」」」」」」」
それを見ていた人々が、歓声を上げた。
「どうだ、動くか?」
「ああ、動く。自分の脚で立てるっ! あんたのお陰だっ!」
男は涙ぐみながら、礼を言った。
「良かったな」
「あんたは俺の恩人だっ! 何だって言う事を聞くぞっ!」
男は僕の手を掴み、放さなかった。
「おっ、俺にもくれっ!」
「俺もだっ!」
「私もっ!」
他の者も、慌てて回復薬を要求した。
そして体が直ると、皆感動にうち震えた。
僕が彼等に渡したのは、《エリクサー》である。
特に欠損している者には、《上級エリクサー》を渡した。
《超級魔法書》を手に入れ魔法で直す事もできたが、能力を隠す為敢えて魔法薬を使った。
「こんな高価な魔法薬を俺達に使ってくれるなんて、あんたは《聖人様》だっ!」
「「「「「「「「「「聖人様ーーー!!」」」」」」」」」」
「そんな呼び方止めてくれ。ダンジョンでたまたま手に入れた物を使っただけだ」
「いや。見ず知らずの人間に、おいそれと使える代物じゃない!」
「騒がれるのは迷惑だから、これくらいにしくれないか」
「なんて謙虚なんだ。やはりあなたは、《聖人様》だ!」
迷惑だと言うのに、なかなか騒ぎは収まらなかった。




