第二十三話 ダンジョンの街の孤児院②
全ての鍋が空になり、子供達はお腹いっぱいで満足していた。
「ココ。院長先生に合わせてくれないか? 薬を持ってるから、飲ませてあげたいんだ」
「本当? でも、お薬のお金・・・払えない」
「お金はいらない。院長先生に元気になってもらわないと、みんな困るだろ」
「うん。ありがとう」
僕は院長先生の寝ている部屋へ案内された。
そこには六十歳前後のお爺さんが、ベットで横になっていた。
しかし、起きていたようだ。
「ゴホッ、ゲホッ、ゴホッ、ココ、そちらさんは?」
「あのね。街で子供達にパンをくれて、そのあとここでみんなにご飯をご馳走してくれたの」
「そうか、すまないのー。わしが動けんばっかりに」
「いえ、それよりお体の何処が悪いんですか?」
「ただのぎっくり腰じゃ。情けないのー」
ぎっくり腰で安心した。
変な咳をしていたから、移る病気かと思った。
まあ重い病気でも、僕の作った《上級体力回復薬》で直せるんだけどね。
一応、悪いところが無いか鑑定したが、ぎっくり腰以外は見当たらなかった。
そんな分けで、《中級体力回復薬》で充分直ると判断した。
「お爺さん。これ、体力回復薬です。差し上げますので、これを飲んで早く元気になってください」
「お若いの。失礼じゃが、他意は無いのか?」
「ええ。お爺さんがいないと、子供達がこの先困りますので」
お爺さんは、僕の目を見て考える。
「分かった。いただこう。だが、何の礼もできんからな」
「はい。構いません」
お爺さんは、《中級体力回復薬》の瓶を受け取って飲み干した。
「なんじゃこれは。もう痛みが無くなったぞ。これは上級の魔法薬なのか?」
「いえ、違いますよ。あまり、お気になさらないでください」
「いや、しかし・・・」
「お爺ちゃん、もう大丈夫なの?」
「ああ、もうどこも痛くないぞ。この兄さんのおかげだ。そう言えば名乗ってなかったのう。わしはリンゼじゃ。この孤児院の院長をしておる」
「僕はニコルといいます。見習いの行商人です」
「行商人なのか。ニコルさん、いろいろとありがとう」
「気にしないでください。あと、僕の事はニコルでいいです。年配の方に《さん》付けで呼ばれると、居心地が悪いです」
「そうか、それならニコルと呼ばせて貰おう」
「はい」
ここまで関ってしまった僕は、この孤児院の状況について話しを聞く事にした。
「リンゼさん、孤児院の経営随分大変そうですね」
「恥ずかしい話し、その通りじゃ。あす食う飯も無いほどじゃ」
「そういえば、リンゼさん。お腹空いてますよね」
僕はリンゼさん用に取っておいた《おじや》を、魔法袋から取り出して渡した。
「魔法袋。ニコルは大店のせがれなのか?」
「いえ、一人でやってます。それより、温かい内に食べてください」
「そうか、それは凄いな。それじゃ、いただくとするかのー」
リンゼさんはスプーンで一口食べると、『うまい』と言って凄い勢いで食べた。
「お代わりは無いかのー」
「ごめんなさい。それで終わりです」
リンゼさんは、がっかりしていた。
そこで、屋台で買った肉串を魔法袋から取り出し差し出した。
すると美味しそうに、あっという間に食べてしまった。
今までずっと我慢して、子供達以上に食べていなかったそうだ。
「本当にありがとう。久しぶりに腹いっぱいになったわい」
「いえ、いいんです。それより、明日からの食料も無いんですよね。少し寄付をさせてください」
僕は魔法袋から大銀貨が百枚入った袋を取り出し、リンゼさんに手渡した。
リンゼさんは、袋の中身を見て驚いた。
「い、いいのかこんなに。お主まだ見習いなのだろう」
「いいんですよ。子供達の為です。あとは、パンとハムと野菜と塩を置いていきます」
「何から何まですまんのう。ありがたくいただくわい」
リンゼさんがベットを出て子供達のところへ行くと、みんな大喜びをしていた。
ココに食料を渡し、『明日また来る』と言って孤児院を後にした。




