第四十三話 うはー!
スラムの人達の体や服を綺麗にし、暫くすると料理ができ上がった。
定番の肉と野菜のスープだ。
それにコッペパンを添えて、みんなに配った。
「肉と野菜が、こんなにいっぱい!」
「旨い。味の濃いスープなんて久々じゃ!」
「うっ、うっ。この白パンも、柔らかくて、甘くて、とても美味しいよー!」
「お嬢ちゃん、奥さん、本当にありがとう!」
「喜んで貰えて、良かった!」
「どういたしまして!」
炊き出しの食事は彼等の口に合い、陰鬱としていた顔に笑顔が浮かんだ。
「パパ。此処の人達、明日食べるご飯も無いんだって」
「だろうな」
「明日も、ご飯を作ってあげたいんだけど」
「それは構わないが、ずっと続けるつもりか? それでは解決しないぞ」
「それじゃ、どうすれば良いの?」
「彼等に仕事があればいいんだが」
「仕事?」
「そうすればお金が貰えて食料や服が買えるし、ちゃんとした家にも住める」
「どうやって仕事を見付けるの?」
「商業ギルドや役場の求人募集を見たり、店や工房に頼み込んだり、この街なら魔物ハンターになるという手もある」
「へー」
「兄さん、ちょっと良いかい?」
サーシアと話しをしていると、お年寄りに声を掛けられた。
「何ですか?」
「わしらはそういうものから溢れて、ここにおるのじゃ。それに怪我をしている若い者は、元々魔物ハンターじゃった。要するに、奴隷商さえもわしらを拾わんのじゃよ」
「まー、そんな気はしてました」
「パパ、知ってたの?」
「みんなの様子を見てればな。雇い主だって、やる気があってちゃんと働ける者を雇いたい」
そう言って食事をする人達に目を向けると、老人や負傷した者が多くいた。
それ以外の者もいるが、何らかの事情を抱えているのだろう。
幼い子供も三人いたが、奴隷商に売られない様に隠れていると言っていた。
そもそもまともに働ければ、こんな所にいない。
「みんな、働けないの?」
「わしはもう力も体力も衰えたからのう。昔の様な畑仕事は無理じゃよ」
「俺はこの脚さえ失わなければ、魔物ハンターを続けたんだ」
「僕は要領が悪く失敗ばかりで、直ぐ職場を首になってしまう」
「パパ。何とかなんないの?!」
「凄い無茶振りだな」
「だって、パパが凄いの知ってるもん!」
目をキラキラさせ、サーシアはそんな事を言い放つ。
『ニコッ!』
更に笑顔。
『うはー!』と、心の声。
我が娘ながら、凄く可愛い。
無意識で、父親を上手く転がしている。
「少し考えさせてくれ」
『甘い』と思いつつ、協力する方向で知恵を絞った。
だが直ぐには考えが纏まらず、この日は一旦スラムを離れた。
◇
翌日の朝、教会へ向かった。
その理由は、スラムの人達に炊き出しをしてくれていると聞いたからだ。
仕事は最悪就けなくとも、食事の方は何とかしてやりたいと思った。
教会に到着すると、たまたま外で若いシスターを見掛けた。
「こんにちわ」
「こんにちわ。今日はご家族でお祈りですか?」
「いえ、《御布施》をしようと思いまして。それと、少しお話しを聞きたいのですが」
「まー、そうですか。此処では何ですので、どうぞ教会の中にお入りください」
「はい、失礼します」
この後みんなは教会を見学し、僕は応接室で院長を待った。
◇
暫くすると、応接室に年輩の女性が現れた。
「ようこそおいでくださいました。院長のテレジアと申します」
女性の院長は、俗に『マザー』と呼ばれる存在だ。
「商人のニコルと申します」
「ご丁寧に、ありがとうございます。この度は教会に御布施をしていただけるそうで、大変感謝しております」
「はい。しかしその前に、お聞きしたい事があります」
「何でしょう?」
「スラムの人達に、炊き出しをしているそうですね」
「はい。しかし最近は、満足のいく程支援できてません」
マザー・テレジアは、悲しい表情を浮かべた。
「それはやはり、資金が足らないからですか?」
「はい。この教会は、信者の御布施だけで運営してますので」
「街の方からは、支援金などは出ないのですか?」
「はい。何度も頼みましたが、受け付けていただけませんでした」
「そうですか。それでは孤児院を運営する余裕なんて、とてもありませんね?」
「孤児院ですか? もしかして、あの事を」
「はい。孤児が連れ去られ、奴隷商に売られていると聞きました」
「私もその事は、大変心苦しく思ってます。しかし奴隷商では、毎日一食は食事を与えられるそうです」
「スラムにいるより、奴隷になった方がマシだと?」
「いえそれは・・・・・、買われた主人にもよるでしょうね」
「確かにそうですね」
「お金さえあれば・・・・・」
「それは充分な支援があれば、孤児を見ていただけるという事ですか?」
「はい。ですがそんなお方は、今まで現れませんでした」
「そうですか。それではその支援、私がいたしましょう」
「本当ですか?!」
「はい。それとできる範囲で良いので、スラムの人達の炊き出しもお願いします」
「はい。支援していただけるのでしたら」
「それでは最初に、これを受け取ってください」
そう言って魔法袋から、大銀貨(一万マネー)が百枚入った袋を十個取り出した。
「こんなに? 一体幾らあるのですか?」
「一千万マネーです」
「一千万っ!」
「使い勝手が良い様に、全部大銀貨にしました」
「お気遣い、ありがとうございます」
「これとは別に、必要な額を定期的に支援します。あと孤児の住む家は、此方で建てます」
「あー、神様。何という素晴らしい方を御導きくださったのでしょう。ニコルさん、宜しくお願いします!」
「はっ、はい!」
この後『土地がある』と言って、裏庭に連れていかれた。
この時のマザー・テレジアは、勢いが凄かった。




