第四十二話 スラム
旅の途中ではあったが、ロイ達の件で僕はエシャット村に帰った。
「やあ、ココ」
孤児院に足を運ぶと、ココは庭の遊具で子供をあやしていた。
「あっ、ニコルさん。旅から帰って来たんですね」
「いや、実を言うとまだ旅の途中なんだ」
「えっ!」
「ココとコニーに相談があって、《亜空間ゲート》で帰って来た」
「それって、もしかして孤児の件ですか?」
「良く分かったな」
「ニコルさんが私達に相談するとしたら、そうかと思って。喜んで引き受けますよ!」
「ははっ、そうか。五人だけど、大丈夫?」
「五人なら問題ありません。此処は《孤児院》なんですから、遠慮しないでください」
「そう言って貰えると助かるよ。僕もできる限り協力する」
「お願いします!」
「今はプラーク街の別荘で保護してるんだ。連れて来て良いか?」
「良いですよ」
「それじゃジーク兄さんに話しをつけてから、連れて来るよ」
「はい。準備して、待ってます」
僕はこの後村長のジーク兄さんの所へ行き、事情を説明した。
そして了承を得て、ロイ達をエシャット村に迎える事になった。
◇
ジーク兄さん・ココ・コニーに子供達を紹介し、養育費と共に孤児院に預けた。
「シャルロッテと《亜空間ゲート》を残してきたから、僕はカプコン街に戻るよ。みんなはどうする?」
「パパ。この国には、他にもロイ君達みたいな孤児がいるの?」
「いるだろうな」
「それなら、助けてあげようよ!」
「この広い国を、探して回るのか?」
「うん」
「口で言うのは簡単だが、大変な事だぞ。それにこの役目は、その土地を治める領主が行うべきだと思ってる」
今まで縁のあった子供達は保護してきたが、探し出してまで保護しようとは思わなかった。
冷たい様だが、はっきり言って切りが無いからだ。
僕は《聖人》でもなければ、そんな《信念》を持ち合わせてもいなかった。
「その領主様が何もしないから、ロイ君達はこんな事になってるんでしょ!」
「そうかもな」
「そんなの可哀想だよっ! 領主様にお願いしようよっ!」
「パパ達平民がお願いしたところで、簡単にはいかないさ」
「それじゃ、《王族》のバロン君なら」
「サーシア。バロン殿下を利用するのは駄目だ!」
「利用じゃない。お願いだよ!」
「そうは言うが、バロン殿下に迷惑が掛かるぞ」
「えっ!」
「孤児を育てるには衣食住や面倒を見る人が必要だ。それにはお金が掛かる。その分の見返りを、領主がバロン殿下に求めたらどうする?」
バロン殿下は、まだ十歳だ。
そんな子供を、政治や権力争いに巻き込むのは良くない。
そんな思いから出た、言い訳だった。
協力を仰ぐのであれば、ヤマトに変装してノーステリア大公爵あたりが良いだろう。
議会で取り上げて貰い、法的に強制するのが良さそうだ。
だけどそれをするのも、恩を買う様で嫌だった。
「難しい事は分からないよ。でも領主様が当てにならないなら、誰かがやらなきゃ!」
「困ったなー」
サーシアの心に火が着き、説得するのは難しそうだ。
「サーは、旅についていくからね!」
「分かったよ。パパが協力するから、頑張ってできる事をやってみるんだな」
結局サーシアの熱意に負け、彼女を見守る事にした。
「ありがとう、パパ!」
「魔物のいる場所に僕だけ行ってないんだ。僕も行くよ!」
「エミリアもいくー!」
「みんなが行くなら、ママも行かなきゃね!」
という事で、旅は全員で続ける事になった。
◇
「シャルロッテ、待たせたな」
「ヒヒーン『大丈夫です』!」
シャルロッテは、一人寂しく待っていた。
「パパ。『スラム』って場所に行きたい!」
「スラム? 何しに行くんだ?」
「困ってる人達がいるんでしょ? 助けようよ!」
「早速、そうきたか」
「協力してくれるんでしょ?」
「しょうがないな」
子供達がショックを受けるかもしれないが、行ってみる事にした。
◇
「「「パパァ」」」
「ニコルちゃん」
街外れのスラムに到着すると、案の定子供達はショックを受けた。
それは大人のミーリアも、同じだった。
そこには痩せ細った汚れた身なりの者が、無気力で佇んでいた。
その中には、腕や脚や目を失った者もいる。
人数はざっと、五十人近くいた。
また住居は石や煉瓦等ではなく、ただ木の枝や草を組んだだけのものだった。
「兄さん、何か恵んでくれよー」
「腹が減って、死んじまうー」
「酒、酒をくれー」
僕達を見て、人が集まって来た。
「サーシア、どうする?」
「うっ、うん」
「ご飯をご馳走するか?」
「うん。パパ、道具と材料を出して」
「ああ」
「ママ。料理、手伝って」
「いいわよ」
「お嬢ちゃん、わしらに飯を恵んでくれるのか?」
「うん。今から作るから、待ってて!」
「「「「「「「「「「うっ、ううっ!」」」」」」」」」」
サーシアの言葉に、スラムの人達は嗚咽が込み上げてきた。
僕は調理用のテーブルや道具、それに材料を魔法袋から取り出した。
調理済みの料理もあったが、サーシアが始めた事なので調理は彼女に任せる事にした。
「あんたら汚いな。ご飯を食べる前に、魔法で綺麗にしてやるよ」
「兄さん、魔法が使えるのか? それなら、是非頼むよ」
「ああ。《清浄》、《修復》」
『ホワーン!』
老人の体が、淡い光に包まれた。
「おお、体も服も綺麗になった! しかもボロボロの服が、新品になっとる!」
「おっ、俺も頼む!」
「私も!」
「ああ、みんなやってやる」
「「「「「「「「「「うおーーー!」」」」」」」」」」
僕の言葉に、歓声が上がった。




