第四十一話 持ってるなら早く使えば良かったのにー!
僕は変装を解き、露店の近くに《転移》した。
「レコル、お待たせ」
「パパ、酷いよー。凄く忙しかったんだよー!」
「悪い、悪い。店はもう終わりにしよう」
「「「「「「「「「「えー!」」」」」」」」」」
レコルに終わりを告げると、店の前で待っている客が不満の声を上げた。
思った以上の人気で、大勢並んでいる。
「並んでるのに、そりゃないぜー!」
「私も食べたかったのにー!」
「一本で良いんだ。売ってくれよー!」
「わっ、分かりました。もう暫く営業します」
「「「「「「「「「「うおー!」」」」」」」」」」
客の勢いに負け、店を閉められなくなってしまった。
「レコルは休んでて良いぞ。屋台でお昼を食べてこい」
「やったー! じゃーパパ、これ返すよ」
僕はレコルから、魔法袋を受け取った。
「あっ、そうだ。シャルロッテの食事を頼む」
「はーい!」
シャルロッテの食料を魔法袋から取り出し、レコルに渡した。
◇
休憩の終わったレコルに、『売り切れ』の立て札を持たせ最後尾に立たせた。
「ありがとうございましたー。今日の営業は終わりでーす」
並んでいた客がいなくなり、露店の片付けに取り掛かった。
「パパ。露店の販売って大変だね」
「大変なのは何も露店だけじゃないぞ。農業だって狩りだって、それぞれ大変な部分はある」
「分かってるよ。ただ休む暇が無かったから、『パパの仕事って、大変なんだなー』って思ったんだよ!」
「パパを労ってくれたのか。それは悪かった」
「いいよ。それでママ達はどうしたの?」
「場所を移してから話す。先ずは片付けだ」
「うん」
そして露店の片付けを済ませ馬車の準備をしていると、此方に近付いて来る人達がいた。
「おい、お前達っ!」
「はい、何でしょうか?」
「《トルネードポテト》なるものを売っているのは、お前らか?」
「はい。しかし用事ができまして、店を閉めたところです」
「此方のカルトッフェル男爵様が、そのトルネードポテトを御所望だ」
後ろに目を移すと、ジャガイモの様に丸々太った人物がいた。
「私は旨い物に目がないのでな。噂を聞き付け、自ら足を運んだのだ」
「ご足労ありがとうございます。トルネードポテトは幾つお売り致しましょうか?」
貴族と揉めると面倒なので、素直に売る事にした。
「それでは、十個貰おう」
「この篭に、入れてくれ」
「はい。では、そのままお持ちください」
お付きの人が篭を差し出したので、魔法袋からトルネードポテトを取り出し入れていった。
「これで十個です。お代は三千マネーになります」
「三千マネーだな。では中銀貨(五千マネー)だ」
「はい、確かに。ただいまお釣りをお返しします」
「釣りは取っておけ」
お釣りを御付きの人に渡そうとすると、男爵がそれを遮った。
「有り難く、頂戴致します」
「うむ。どれ、早速いただくか」
『サクッ! モグモグ、ゴックン!』
「旨い! 揚げたジャガイモは、こんなに旨いのだな!」
「気に入っていただけて、何よりです」
「これなら屋敷の料理人でも作れそうだ」
「ええ。揚げる油さえあれば、簡単に誰でも作れます。それに家庭で食べるなら、この形に拘る必要もありません。あとはトマトケチャップを付けて食べると、より美味しいですよ」
「おー、良い事を聞いた。感謝する」
「はい」
揉め事が起こらないかと危惧したが、貴族はホクホク顔で去って行った。
「もしかして、あのカルトッフェル男爵が街長なのか?」
「パパ、どうしたの?」
「今日関わった問題を、あの貴族が解決してくれれば良いのにと思ってな」
「ふーん、そうなんだ」
「兎に角、今はミーリア達と合流するぞ」
「うん」
僕は馬車を走らせ、人気の無い場所を探した。
◇
丁度良い場所を見付け馬車を停めると、周りに《結界》を張った。
「パパ、ママ達は?」
「ちょっと待ってろ」
僕はそう言って、《亜空間ゲート》を取り出した。
「パパこれ、《亜空間ゲート》だよね?」
「そうだ。ママ達はプラーク街の別荘にいる」
「えー、持ってるなら早く使えば良かったのにー!」
「それじゃ旅の意味がないだろ」
「ちぇっ!」
「シャルロッテ。悪いけど、暫くここで待っててくれ」
「ヒヒーン『はい』!」
「レコル、行くぞ」
「うん」
馬車をこの場に置いて、僕とレコルは《亜空間ゲート》を潜った。
◇
《亜空間ゲート》を置いた部屋からリビングへ行くと、ミーリアが一人で寛いでいた。
「ミーリア、お待たせ」
「ママ、ただいま」
「二人共、お疲れ様」
「遅くなってごめん。店の方が混んじゃって」
「いいの。こっちはこっちでやる事があったから」
「何かあったのか?」
「汚れてたから、お風呂に入れたの。魔法でも綺麗にできたけど、寛げるでしょ?」
「そうだな」
「エシャット村へ行って、服も持って来たのよ」
「へー、村へ行ったのか。ところで、あの子達は?」
「外で遊んでるわ。レコルも一緒に遊んできたら?」
「僕疲れたから、此処で休むよ」
「レコル。『あの子達』っていうのは、保護した孤児達の事なんだ。一度、顔を見せてこい」
「へー、孤児がいるんだ。それなら、ちょっと見てくる!」
レコルは興味深げに、外に出て行った。
「ニコルちゃん。あの子達、エシャット村の孤児院に連れて行くんでしょ?」
「そうしたいが、久しく孤児を受け入れてなかったからなー」
「学校と自分達の子育てがあって大変かもしれないけど、ココとコニーならきっと引き受けてくれるわ」
ココとコニーはそれぞれ家庭を持ち、孤児院に同居していた。
「そうだな。遠慮しててもしょうがない。取り敢えず、二人に相談してみるか」
僕は村に戻り、孤児院に住むココとコニーに相談しに行く事にした。




