第四十話 カプコン街の孤児③
この街の規模と環境だったらあってもおかしくない《孤児院》が、《地図》機能で探しても見当たらなかった。
「ロイ。さっき『俺ら孤児を奴隷商に売る』って言ってたな。そんな事をする奴等が、この街にいるのか?」
「いるよ。スラム街の孤児が、何度も無理矢理連れて行かれた。僕は運良く捕まらなかった子達を連れて、スラムを離れたんだ」
僕はロイの言葉を聞いて、『孤児を奴隷にする為、敢えて孤児院を作らないのでは?』と勘ぐった。
しかし証拠が無い為、断定はできない。
「そうか。ロイは偉いな」
「ロイ君。街の偉い人や衛兵さんは、何もしてくれないの?」
「うん、何もしない」
「パパ、どうして?」
「誘拐に気付いてないのか単に見捨てられてるのか、お金や人手が足りないのか、はたまたお偉いさんと奴隷商の癒着とかかな」
「そんなの酷いよっ!」
「サーシア。世の中は、君が思ってるよりも残酷なんだ」
「それじゃ、孤児の子達はどうすれば良いの?!」
「本来なら街の行政に任せたいところだが、パパ達が彼等を動かすのは容易じゃない。取り敢えずロイ達は、安全なエシャット村で保護した方が良さそうだ」
「行政っていうのに納得できないけど、パパもこう言ってるし、ロイ君私達の村に来なよ!」
「・・・・・みんなに聞いてみる」
「それならロイ、付いていって良いか?」
「良いよ」
こうして僕達は、ロイ以外の孤児に会いに行く事になった。
◇
歩いて五十分程して辿り着いた場所は、スライムが出現する廃村だった。
住んでいるのは、ロイ達だけらしい。
「ただいまー!」
「「「「おかえりー!」」」」
幼い子供達が、ロイを出迎えた。
男の子と女の子が二人ずついて、みんなロイより幼い。
「しらないひとがいるー!」
「おじちゃんたち、だーれ?」
「俺達を、助けてくれるってさ!」
「「「「ほんとう?!」」」」
「ああ、パンを沢山貰った。みんなで食べよう!」
「「「「わーい!」」」」
ロイは子供達に、コッペパンを配った。
「ふわふわー!」
「あまーい!」
「うまうまー!」
「おいしーよー!」
「盗みなんかやってるけど、満足に食べさせてやれないんだ。何も無い時は、葉っぱや草だって食べて凌いでる」
「ひもじい生活をしてたんだな。他の食べ物も出してやるから待ってろ」
「ありがとう」
僕は野菜スープとソーセージの入った鍋と、水と食器を魔法袋から取り出した。
「ニコルちゃん、私がやるわ」
「ああ、頼む」
ミーリアに給仕を任せ、僕は今後の事を考えた。
◇
「「「「「ごちそうさまー!」」」」」
「お腹いっぱいになったか?」
「「「「「うん!」」」」」
「ロイ。みんなに説明を頼む」
「分かった」
僕がロイを促すと、子供達がロイに注目した。
「みんなでこのおじさんの村に行こうと思うんだけど、良いか?」
「ごはんたべれるなら、いくー」
「ぼくもー」
「わたしもー」
「ロイにいがいくなら、いっしょにいくー」
「おじさん。みんな行くってさ!」
「ははっ、随分すんなり決まったな。ん?」
この時、廃村に近付く人の気配を感じた。
「パパ、どうしたの?」
「人の気配がした。見てくる」
外に出て確認すると、二人の男が廃屋の中を物色していた。
「おい。こんなボロボロの廃村に、本当にガキがいるのかよ?」
「噂だ、噂。魔物ハンターの奴等が、飲み屋で話してるのを聞いたんだ」
「スラムにいないからって、こんな場所に来るのは面倒だぜ」
聞き耳を立てて聞いていると、どうやらロイが言っていた孤児の誘拐犯らしい。
僕は一旦、ロイ達がいる家に戻った。
◇
「男が二人いた。孤児を探してるみたいだ」
「どうしよう、おじさん?!」
「ちょっと、待ってろ」
僕はそう言って、《亜空間ゲート》を取り出した。
「ミーリア。《亜空間ゲート》で、みんなを連れて逃げてくれないか?」
「ええ、良いわよ。それで、これは何処に繋がってるの?」
「プラーク街の別荘だ。内緒にしていてごめん」
「気にしないで。だけど、ニコルちゃんはどうするの?」
「《亜空間ゲート》を回収して、レコルを後で送り届けるよ」
「分かったわ」
「サーシア、エミリア。みんなと仲良くするんだぞ!」
「「はーい!」」
「シロンも頼んだぞ!」
「ニャー!」
「ロイ」
「何?」
「この扉は魔道具で、おじさんの別荘に繋がってる。みんなと一緒に行くんだ!」
「冗談だよね? そんなの信じられないよ!」
「ロイ君、パパの言ってる事は本当だよ。ほらっ!」
サーシアが、扉を開けてロイに見せた。
「あっ、穴が空いてるっ!」
「うわー、なにこれー!」
「すごーい!」
「どうなってるのー」
「あっちにも、トビラがあるよー!」
子供達は興味津々に、中を覗き込んだ。
「ロイ君、信じてくれた?」
「しっ、信じるよ」
「さあ、みんな。行きましょう!」
ロイが納得するのを見て、ミーリアはみんなを促した。
僕は全員がプラーク街の別荘に着くのを待って、《亜空間ゲート》をしまった。
◇
『フッ!』
僕は《ヤマト》に変装し、男達の前に姿を現した。
「お前、こんな場所で何してやがる?!」
「お前等こそ、何しに来た?」
「答える義理は、ねーよ」
「人に聞いておいてそれか。どうせ人に言えない事なんだろ?」
「ちっ、向こうへ行きやがれ!」
「何処に居ようが、俺の勝手だ」
「おい、こいつ何か怪しくねーか?」
「そうだな」
「お前等に言われたくない。孤児誘拐犯なんだろ?」
「「くっ!」」
「図星の様だな?」
「ちっ、行くぞ!」
「ああ」
男達は、大人しく去って行った。
「さて、レコルの所へ行くか」
遅くなって文句を言われるのを覚悟し、急いで露店に戻った。




