第三十九話 カプコン街の孤児②
サーシアは巾着袋を、男の子から奪い返した。
「はーなーせーよー!」
「駄目!」
「金は返しただろー!」
「悪い事したんだから、言う事聞きなさい!」
「いーやーだー!」
「サーシア、大丈夫?」
ミーリアはエミリアとシロンを連れて、サーシアを追って来た。
「うん。お金はこの子から、取り戻したよ。はい」
「ありがとう。でもこの子、どうするの?」
「パパの所に連れて行く。《孤児》なんだって」
「まあ、そうなの」
「だけどこの子、なかなか動いてくれないの」
「仕方無いわね。ママがパパを連れて来るわ」
「お願い、ママ」
「エミリアは、シロンと一緒に待っててね」
「うん!」
ミーリアは、急いでニコルを呼びに行った。
◇
保温ケースにトルネードポテトを補充していると、ミーリアが慌てて露店に帰って来た。
僕は事情を聞き、レコルにトルネードポテトの入った魔法袋を預け露店を離れた。
お客さんは引っ切り無しに来ていたが、一人で頑張って貰うしかない。
「サーシア、お待たせ」
「パパ、やっと来た!」
「それで、この子がお金を盗んだ孤児の男の子か?」
「うん」
「名前は?」
「教えてくれないの」
「歳は?」
「それもー」
《鑑定》すれば分かるが、プライバシーを守る為に見るのを控えていた。
「俺をどうする気だ?!」
「さあ、どうするかな。泥棒は衛兵に突き出すのが筋だが、その歳では可哀想だ。君は、頼る人はいないのか?」
「いたら、盗みなんかするかよっ!」
「大人に命令されてやってる訳じゃ、ないんだな?」
「当たり前だっ!」
「ねー、パパ。何とかしてあげてよー!」
「その前に、この子の言ってる事が本当か確かめる必要がある」
見た目は孤児と納得できる程、みすぼらしかった。
「何で?」
「この場から逃れる為に、嘘を言ってるかもしれないだろ」
「そんな風には、見えなかったけど」
「この間言ったろ。『良い人だと思っていた人が、実は悪い人だった』って」
「じゃー、どうするの?」
「そうだな。住んでる所へ行けば、少しはこの子の素性が分かるかもしれない」
「誰が教えるかよっ!」
「どうしてだ?」
「あんただって良い人面して、俺ら孤児を《奴隷商》に売るかもしれないだろっ!」
「パパはそんな事しないっ!」
「分かるもんかっ!」
「会ったばかりで、お互い信じられないのはしょうがない。でもその口ぶりだと、他にも孤児は居るようだな?」
「どうだっていいだろっ!」
会話をしていて、この子が嘘を言ってないという事が何となく分かった。
「良し、分かった。君の言う事は信じよう。だけど君が僕達を信じてくれないと、何もしてやれないな」
「へんっ! 信じて欲しかったら、金を寄越せよっ!」
「金か。幾ら欲しいんだ?」
男の子は、『キョトン!』としてしまった。
「くれるのか?!」
「ああ、やるぞ」
「だったら二万、いや五万マネーだっ!」
「見ず知らずの子供に五万マネーか。・・・まあ、良いだろう」
僕は大銅貨を五十枚袋に入れ、男の子に差し出した。
「本当にくれるのか?」
「ああ。泥棒は見過ごせないが、くれてやるのは構わない」
男の子は、恐る恐る袋を受け取った。
「良かったね」
「うっ、うん」
「君達が何人いるか分からないが、これも持っていけ」
そう言って、コッペパンが五十個入った袋も渡した。
「白パンがこんなに」
『グー!』
男の子のお腹が鳴った。
「お腹が空いてるのか? それならこれもやる」
トルネードポテトを一本取り出し、男の子に差し出した。
子供の好きなトマトケチャップが掛かっている。
「これは?」
「露店を開いて売っている商品だ。美味しいから食べてみろ」
「うん」
男の子はトルネードポテトを受け取り、口に運んだ。
「美味しい」
「そうだろう」
「ゴメン」
男の子は目に涙を浮かべ、涙声になって言った。
「何がだ?」
「おじさんやお姉ちゃんの事、疑ってた」
「ははっ、随分素直になったな。でもお金はいずれ無くなる。信じてくれるなら、その先の手助けもしてあげられるかもしれない」
「ぐすっ! 俺、おじさんの事信じるよ!」
「ありがとうな。おじさんの名前はニコル。君の名前を教えてくれるか?」
「ロイ」
「ロイか。歳は?」
「八歳」
「ロイの他に、孤児は何人いるんだ?」
「四人。その中に妹が一人いる」
「そうなんだ。ロイの両親はどうした?」
「二人共魔物ハンターだったんだけど、魔物を狩りに行って帰って来なくなった」
「そうか、大変だったんだな」
「うん」
ロイは素直に、自分の事を話すようになった。
「ロイ、住んでる家はあるのか?」
「魔物が出る場所の廃村」
「そんな危険な場所に、子供達だけで住んでるのか?」
「危険って言っても、魔物はスライムしか出ないよ。それに街には税金を納めないと住めないし、スラム街は廃村より危険だから」
「それでも危険な事には代わり無い。この街に孤児院は無いのか?」
「あるって話しは、聞いた事ない」
「これだけの規模と環境の街なら、あっても良さそうなのにな・・・・・ん?!」
考えを巡らしていると、先程ロイが言った言葉が引っ掛かった。




