第三十六話 ニコル、家族と王都へ⑥
僕達家族は公爵家の大勢の兵士に囲まれ、今にも捕獲されようとしていた。
「こんな《理不尽》、受け入れられません!」
「抵抗すれば、痛い目を見るぞ!」
「力ずくと言うなら、こちらも抵抗しますよ」
「この人数を、相手にしようというのか?」
「そういう事になりますね」
「馬鹿な。家族も一緒なのだぞ!」
「心配には及びません。《結界》」
被害が及ぶ前に、家族に《結界》を張った。
「なっ! 無詠唱で《結界》だとっ!」
「イザベラ副隊長。こんな優男、私に任せてください!」
「おい。副隊長の前で格好つけるな。俺も行くぜ!」
「抜け駆けはさせん。私も行く!」
三人の兵士が警戒もせず、僕に近付いて来た。
「待てっ! 奴には《威圧》スキルが」
『キッ!!』
「ひえーーー!!」
「うわーーー!!」
「ぎゃーーー!!」
『『『バタッ!』』』
女性指揮官が三人を引き止めたが、僕は構わず《威圧》スキルを放った。
昨日より強力だった為、失神して倒れてしまった。
「くっ! 勝手な行動をするからだ。だが貴様のスキルは確認できた。報告以上の威力だったがな」
「そう思うなら、もう争いは止めましょう。このまま、引き下がってください」
「ふざけるなっ! フリーデン公爵様の命なのだぞ。おめおめと、引き下がれるかっ!」
「今引き下がらないと、皆さん同じ目に合いますよ!」
『『『『『『『『『『ゴクリッ!』』』』』』』』』』
僕の言葉に反応し、兵士達は唾を飲み込んだ。
「皆、怖じ気付くなっ! 囲んで一気に畳み掛けろっ!」
「「「「「「「「「「うおー!」」」」」」」」」」
注意したにも関わらず、兵士達は僕に向かって来た。
『キッ!!』
《威圧》スキルを《危機感知》スキルと連動させ、方向に関係無く個別に放った。
「「「「「「ひえーーー!!」」」」」」
「「「「「うわーーー!!」」」」」
「「「「「ぎゃーーー!!」」」」」
兵士達はレジストできず、皆悲鳴を上げ倒れた。
「残るは、貴女だけです!」
兵士達を介抱させる為、女性指揮官は敢えて残した。
「馬鹿なっ! 貴様は、一体何なのだっ?!」
「只の旅行者です」
「バロン殿下やグルジット伯爵家と繋がりがある事は分かっている。何を企んでるっ?!」
「企んでなんていませんよ。言い掛かりは止してください」
「どちらにせよ、このまま引き下がる訳にはいかぬ。《威圧》スキルを受ける前に、決着を付けるっ!」
『ジャキンッ!』
『ダッ!』
女性指揮官は剣を抜くと、その直後姿を消した。
その刹那《危機感知》スキルが働き、その場から離れた。
『シュタッ!』
『ブオンッ!』
すると女性指揮官の剣が、先程僕がいた場所で空を切った。
《瞬動》スキルを使って、僕に迫ったのだ。
「なっ! 避けただと」
「危ないですね。避けなければ、死んでましたよ」
「剣の腹で切った。死ぬ筈は無い!」
僕の目でもそれは見えていたが、敢えて茶化す様に言った。
「女性を傷付けたくないので、引いていただけませんか?」
「くっ! 舐めるなっ!」
『ブオンッ!』
『サッ!』
『ブオンッ!』
『サッ!』
『ブオンッ!』
『サッ!』
『ブオンッ!』
『サッ!』
女性指揮官が連続で剣を振るうが、僕は体捌きで悉くかわした。
「人の大勢いる繁華街で暴れたら、迷惑ですよ」
「貴様が逃げるからだっ!」
「そりゃ剣を向けられたら、逃げますよ」
「うるさいっ!」
『ブオンッ!』
「《防御力強化》」
『ガシッ!』
「馬鹿なっ!」
《防御属性魔法》で身体の防御力を上げ、右手で剣を掴んだ。
「このまま続けたら、衛兵までやって来ます。終わりにしてくれませんか?」
「剣を放せっ!」
『ブオッ!』
僕の忠告を聞かず、女性指揮官は蹴りを放った。
『キッ!!!』
「キャーーーーーーーッ!!!」
『仕方無い』と思いつつ兵士達より更に強力な《威圧》スキルを放ち、女性指揮官の攻撃を止めた。
女性指揮官は悲鳴を上げたが、辛うじて立っていた。
「これを耐えますか? 大した胆力ですね」
しかし脚を伝って、液体が滴り落ちてきた。
「はわわわわわわわっ!」
『ガクガク、ブルブル!』
「《清浄》」
僕は《生活属性魔法》で、女性指揮官の服や体を綺麗にしてやった。
このまま放置したら、流石に気の毒に思えた。
「もう私達家族には、関わらないでください!」
「ひいーーーーー!!!」
「聞こえてます?」
「わっ、わっ、分かりました。もう関わりません!」
「約束ですよ」
『ニコッ!』
僕は家族の元へ戻り、《結界》を解いた。
「「「パパー!」」」
「ニコルちゃん、怪我は無い?」
「大丈夫。それより、今はこの場から離れよう」
「「「「うん!」」」」
回りが騒ぎになっていたので、僕達は逃げる様にこの場を離れた。
◇
「ねえ、ニコルちゃん。二日続けて酷い目に合ったけど、こういう事って良くあるの?」
「そうだなー。多くはないけど、少ないとも言えないなー」
「貴族って、やっぱり怖いわね」
「権力を翳して理不尽な事をするから、機嫌を損ねない様にしないとな」
「パパ。マイク様やソフィア様は、あんな事しないよね?」
「大丈夫だと思うよ。けど正直なところ分からない」
「どうして?」
「世間で良い人だと言われてる人が、実は悪い人だったなんて話しは良く聞く。信じたばかりに、痛い目をみるんだ」
「そんなの嫌だよー!」
「みんなはパパが守るから、安心して」
「うん!」
サーシアは素直だから、エシャット村を出た時《変な男》に騙されないか心配である。
人に対する《警戒心》を、もっと学ばせる必要があった。
「でもあの人達、もう来ないのかしら?」
「主人の公爵次第だろうなー」
「王都観光はどうするの?」
「ミーリアはどうしたい?」
「観光は続けたいけど、危険なら王都を直ぐに出ましょう」
「今晩の宿は諦める事になるけど、良いんだね?」
「うん」
僕達は宿に戻り、残り二泊分をキャンセルした。
前払いしたお金は戻らないと思っていたが、一日分戻ってきた。
僕達はその日の内に王都を離れ、次の目的地ノーステリア大公爵領の領都を目指した。




