第二十二話 ダンジョンの街の孤児院①
買物の途中、よほどお腹が空いていたのか、先に与えた黒パンを幼児達は半分にしてみんなで食べていた。
「孤児院に帰るまで、我慢できないのか。ほら、これ、半分ずつなら足りるだろう」
僕はあるだけの黒パンを出してやった。
水分も無いと堅い黒パンは食べづらいだろうと、水筒も出してやると幼児達は回し飲みをした。
黒パンは、また新たに買いなおした。
幼児達は期待した顔をしていたが、これは明日の分なので今は与えない。
「孤児院に帰ったら、美味しい物を食べさせてやるから我慢しろ」
「「「「「わーい!」」」」」
買物が済んで、僕は子供達に案内されて孤児院に向かった。
僕の借家とは反対方向に、三十分程歩いて辿り着いた。
そこは、貧困層が住む区画だった。
孤児院は年季の入った木造の建物で、そこら中が傷んでいた。
庭には畑らしきものがあったが、雑草が生い茂っている。
『この子らと何の因果か関ってしまったが、夕食を一回食べさせただけでは済みそうも無いなー』と、心の中で考えていた。
「なあ、コニー。院長先生に合わせてくれないか?」
「ボクのおじいちゃんが、いんちょうセンセイだけど、グアイがわるいんだ」
「寝たきりなのか?」
「うん」
「さて、どうしたものか」
コニーが心配そうに僕を見ている。
「大丈夫だ。心配するな。スープ用の器とスプーンとコップがあったら、テーブルに用意してくれないか?」
「わかった」
コニーは建物の中に入って行った。
実を言うと、料理はもう済んでいた。
作り置きが《亜空間収納》にあったという分けではない。
僕の錬金術は、《亜空間収納》内で行えるのだ。
錬金術に《調理》の能力があり、歩きながらメニューを考え調理も済ませた。
作った料理は、肉と野菜と卵がたっぷり入ったおじやだ。
肉も卵も米も値段は高いが、今回はまあ特別だ。栄養を付けさせよう。
僕が外を一回りして孤児院の状況を確認していると、コニーが呼びに来た。
「にいちゃん、どうしたの?」
「ちょっとな。この孤児院がどういった状況か見てたんだ」
「ふーん」
「食器の用意はできたのか?」
「うん。おねえちゃんにオネガイしてきた」
「お姉ちゃん? 大人がいるのか?」
「うんとね。ニコルにーちゃんより、ちっちゃいよ」
「そうか。それじゃ、紹介してくれるか?」
「うん」
僕はコニーに手を取られ、建物の中に入って行った。
「おねえちゃん。ニコルにいちゃんつれてきたよ」
「はーい」
少女は返事をしながら振り向き、僕の顔を見てあわあわしだした。
歳は十二歳くらいだろうか? おさげの可愛らしい娘である。
「えーと、ニコルです。君、大丈夫?」
「は、は、はひぃーーー」
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
「だ、だ、だ、だ、大丈夫よ」
この少女は、ニコルのイケメンぶりに緊張してしまったのだ。
「おねえちゃん。なまえいってないよ」
「そ、そうね。わ、私は、コニーの姉のココと言います」
「ココちゃんだね。よろしく」
「は、はい」
「それじゃ、準備ができてるみたいだから、ご飯にしよう」
子供達は食器が用意されたテーブルに座って、すでに待っている。
僕は魔法袋経由で、《亜空間収納》からおじやの入った鍋を四つ取り出した。
大人で換算すると、四十人前くらいの量はある。
あとは、《魔道具》の水ポットを取り出した。
「わー、いいにおい」
「おなかちゅいたー」
「はやく、はやくー」
「これは、『おじや』っていう食べ物だ。年上の子が器によそってやってくれ。ポットは水が出る魔道具だから、コップに注いでくれ」
「「「「「はーい」」」」」
みんなの器に配り終わると、お祈りが始まった。
僕の村ではそんな習慣は無かったが、一緒になってお祈りをした。
そして流れで、僕も食事をする事になった。
「おいしー」
「おいちー」
「うおー、うめー」
錬金術で作ったから失敗は無い。後は好き嫌いの問題だ。
だが、概ねみんなに好評であった。
自分の分を食べ終わった子は、我先にとお代わりをしている。




