第三十二話 ニコル、家族と王都へ②
マイク様とバロン殿下が現れ、お茶の時間は延長された。
サーシアはちゃっかりケーキをお代わりし、やがてお茶の時間が一息ついた。
「もうそろそろ、調理を始めて宜しいでしょうか?」
「そうね、厨房に案内するわ」
「お願いします」
「私も料理を覚えたいので、見ていて良いですか?」
「構わないよ」
「私は、味見役をさせて貰おう!」
「僕も行きます!」
結局ここにいる全員で、厨房に移動する事となった。
◇
「バルトロメオ料理長、こちらがニコル君とサーシアちゃんです。しっかり、《ボール焼き》の作り方を覚えてちょうだいね」
「はい、ソフィア様」
「ニコルと申します。宜しくお願いします」
「サーシアでーす」
「わしは料理長のバルトロメオだ。二人共、宜しくな!」
「「はい(はーい)!」」
「ところで貰ったレシピで、タコ・鰹節・紅生姜・青海苔・天カスが手に入らなかったんだが」
「あっ、情報が不足しててすみません。鰹節・紅生姜・青海苔は僕が独自に作った物で、元々手に入りません。タコは捕れる数が少なく、直ぐに売り切れてしまうのでしょうね。天カスなら簡単に作れます」
鰹節・紅生姜・青海苔は、材料を集め錬金術で作った物である。
豚カツソースやマヨネーズもレシピにあったが、どうやら揃えられた様だ。
勇者が《御食事処やまと》にレシピを伝えたのが、いつの間にか広まったのだろう。
「手持ちの材料だけで、作れるのか?」
「そうですね。近いものは作れます。色々と工夫しながら作りましょう」
「今更愚痴を言ってもしょうがねー。旨い物を頼むわ!」
「はい。ですが材料は一通り持って来たので、最初はそちらを使って説明します」
「持って来たのか? オリジナルを、是非味見をさせてくれ!」
「勿論です。あと器具は、此方を使います」
僕は魔法袋から、《ボール焼き鉄板》と《専用の串》を取り出した。
「おー、これが穴の空いた鉄板か?」
「大きさの違う物を幾つか用意したので、コンロに合う物を使います」
「そうか。うちのコンロはこっちだ!」
この後準備を整え、サーシアが調理をし僕が解説をした。
◇
『クルッ、クルッ、クルッ・・・・・・・・・・!』
「じょーちゃん、手際が良いな!」
「毎日やってるからね」
正直、僕よりも手慣れている。
「良し、できた!」
サーシアはでき上がった《ボール焼き》を皿に取り分け、トッピングをしていった。
「バルトロメオさん、食べてみて!」
いつものメインの具タコ・エビ・チーズ・トウモロコシに、ベーコンを追加している。
「おー、これで完成か。本当に見た事も無い面白い料理だ!」
バルトロメオ料理長は皿を受け取ると、直ぐには食べずまじまじと《ボール焼き》を観察した。
その間サーシアは、待ちわびるマイク様達の分を皿に取り分けた。
「良し、食べるぞ!」
『はむっ! はふはふ、もぐもぐ。ごっくん! ・・・・・・・・・・!』
バルトロメオ料理長は皿に盛られた五個の《ボール焼き》を、一個一個味わいながらたいらげた。
「外がカリカリ中がトロトロ、そして薄力粉に混ぜたスープが味に深みを与えている。時折感じる酸味と辛味は、紅生姜だな。良いアクセントになっている。またメインの五種の具はどれもマッチし、トッピングの豚カツソース・マヨネーズ・鰹節・青海苔が濃厚かつ複雑な味に仕上げている!」
「凄い感想だね!」
「流石です料理長っ! 分かってらっしゃる」
「出汁と呼んでいるスープとトッピングに使った鰹節は魚の様だが、一体何なのだ?」
「そうですね。ざっくりと言えば、鰹という海の魚を煮詰めて、燻製にし削ったものです」
出汁は昆布でも代用は効くが、エステリア王国の海では採れなかった。
「成る程。これが手に入れば、料理の味に深みを出せるな。分けてくれんか?」
「残念ですが、譲れる程の量を作ってません。紅生姜と青海苔も同様です」
「無い物はしょうがないな。しかしお前さん、大したものだ!」
「ありがとうございます。それで鰹節の出汁の替わりに、鶏のコンソメスープを使おうと思うのですが」
「コンソメスープか。それなら、作り置きがある」
「それは良かった」
「紅生姜の替わりは、取り敢えず普通の生姜でいいな?」
「そうですね」
「青海苔の替わりは、パセリで良いか?」
「はい。先程も言いましたが、色々試して美味しい物を完成させましょう」
「良し、分かった。やってみよう」
バルトロメオ料理長は、手際良く調理を始めた。
一回説明しただけで、手順を覚えてしまっている。
「すごーい、バルトロメオさーん!」
「長年料理をやってるからな。だが串捌きは、お嬢ちゃんには敵わんよ」
バルトロメオ料理長は謙遜しているが、初めてにしてはなかなか上手である。
◇
「できたぞ。味見してくれ!」
「はい」
「美味しそう!」
メインの具はタコを除いたベーコン・エビ・チーズ・トウモロコシの四種類で、トッピングはマヨネーズと豚カツソースとパセリが使われている。
バルトロメオ料理長は、手持ちの食材だけで作り上げた。
食べてみると普通に美味しく、《洋風ボール焼き》という感じだ。
トマトソースや、バジルソースが合うかもしれない。
「バルトロメオさん、美味しいよ!」
「うん、美味しいです」
「そうかい。どれ、俺も」
『はむっ! はふはふ、もぐもぐ。ごっくん!』
「おー、これはこれでいけるぞ!」
「おい、私にもくれ。サーシアちゃんが作った分だけじゃ、物足りん!」
「これは失礼しました。今、皿に取り分けます!」
マイク様は、《ボール焼き》を気に入った様だ。
『はむっ! はふはふ、もぐもぐ。ごっくん!』
「バルトロメオ、旨いじゃないか?!」
「ありがとうございます」
「バルトロメオ料理長。一つ提案があります」
「何だ、ニコル?」
「トッピングをトマトソースやバジルソースに替えても、美味しいんじゃないですか?」
「確かに。コンソメスープには、そっちが合いそうだ!」
バルトロメオ料理長は新たにソースを作ると、次から次へと《ボール焼き》を作り、中に入れるメインの具も色々挑戦していった。




