第二十六話 フロリダ街のデート②
フランソワにデートを邪魔され、バロンはイライラしていた。
「僕達は他所へ行く。フランソワは、この店でゆっくりするが良い。サーシア、行こう」
「うっ、うん」
「待って下さい! 私も御一緒させて下さい!」
「駄目だ。ついて来るな!」
「そんな・・・・・」
「フランソワ、どうした?!」
するとそこへ、端正な顔立ちの少年が現れた。
「お兄様っ!」
「デューク」
現れたのはフランソワの二歳年上の兄、デューク・フリーデンだった。
「これはこれは、バロン殿下。それにユミナ殿下にソフィア様。こんな所で会うなんて奇遇ですね」
「「「そうだな((そうですね))」」」
「我々はこの街に着いたばかりでして、これから温泉宿へ向かうところです」
「あら、私達は昨日からよ」
「そうでしたか。宿でもお会いするかもしれませんね。ところで、そちらの可愛いらしいお嬢さんは?」
バロン達と一緒にいるサーシアが、デュークの目に止まった。
「お兄様、その娘は平民です。名前を聞く必要などありませんわ!」
「平民? 殿下は平民と戯れておられるのですか?」
「お前達は、似た者兄妹だな。僕が誰といようが、関係無いだろ!」
「殿下。御自分の立場を、理解された方が良いですよ」
「うるさい、黙れっ! サーシア、行こう!」
「あっ!」
バロンはサーシアの手首を掴み、今度は本当に店を出て行った。
「デュークさん、フランソワさん!」
「「はいっ!」」
「サーシアちゃんは私にとっても大切なお嬢さんなの。平民だからって、蔑んだ物言いは止めて下さらない!」
「いや、あの、その・・・・・、はい」
「分かりました」
二人はユミナの迫力に、萎縮してしまった。
『ニコッ!』
「分かってくれれば、良いのです。私と母も失礼しますね」
「「はい」」
ユミナが店を出ると、ソフィアは軽く会釈し後を追った。
「ユミナ殿下まで怒らせてしまった。あの娘は一体、何者だ?」
「知りませんわ! でもバロン様、あの娘に御執心の様で悔しいです!」
「平民でもあの容姿では、分からんでもないな」
「お兄様まで!」
「ははっ。今回は残念だったが、挫けずに頑張る事だ」
「言われるまでも、ありませんわ!」
二人も店を出て、護衛を引き連れ温泉宿へ向かった。
◇
「サーシア、海へ行こう!」
「もう行くの?」
「あいつらが来たからな」
「仲、悪いの?」
「いや。あいつらとは、特別悪い訳じゃない」
「そうなんだ。ところでバロン君、水着持ってる?」
「持ってない」
「海に行くなら、あった方が良いよ」
「そうか?」
「うん。向こうの店で、売ってるよ」
「ふむ。それじゃ、行こうか」
バロンは店を出てからも、掴んだサーシアの手を放さなかった。
ユミナとソフィアは、それを微笑ましく見ていた。
◇
店に到着すると、今年の新着水着を見て驚く者達がいた。
「こっ、これは下着じゃないのか?!」
「あらあら。流石にこれを人前で着るのは、恥ずかしいわー!」
「確かに、肌の露出が多いですね」
「そうかなー? サーは大丈夫だよ!」
店にはビキニの水着が、ずらりと並んでいた。
今はまだ、女性が肌を露出するのは良しとされないご時勢である。
だがその原因を作ったのは、ニコルだった。
例の如くリートガルド男爵が、ニコルに《海岸地域発展》の相談を持ち掛けたのである。
その案として上がったのが、《水着コンテスト》だった。
ニコルが提供した水着をフロリダ街の服飾工房が複製し、それを着させて出場させたのだ。
出場者は若い女性限定で、上位三人には賞金が出された。
そして参加者全員に、着ている水着がプレゼントされた。
これが大当たりし、人を集める結果となった。
更に海の家の海鮮料理や、バーベキューが話題を呼んだのである。
それが一昨年の事で、昨年は水着の肌の露出が一気に増えた。
そして、今年のビキニに繋がった。
「サーシアは、これを着るのか?!」
「サーのは、フレアスカートが付いたタイプだよ」
「スカート。そんなのもあるのか?」
「ほら、これ」
サーシアは、近くにあった水着を見せた。
「本当だ。でも、まだ露出が多い気がする」
「そういう人には、こっちがお勧め」
「これは、普通の服じゃないのか?」
「水着だよ。ちゃんと濡れても大丈夫な素材でできるんだ」
「なるほど。サーシアは、物知りだな」
「そんな事無いよ」
二人の様子を、ソフィアが見ていた。
「この水着なら肌の露出も少ないし、着れるかしら?」
「そうですね。私も此方のデザインにします」
「サーシア。男性用水着を見に、一緒に来てくれるか?」
「いいよ!」
バロンとサーシアは、男性用水着を見に行った。
◇
バロンは複数ある男性用水着から、無難な膝丈サイズの水着を選んだ。
いわゆる、《サーフパンツ》というやつである。
「しかし、これをはく奴がいるのか?」
バロンは《ブーメランパンツ》を手に取り、呟いた。
「いるよ。水の抵抗が少なくて、泳ぐのにいいんだって」
「成る程」
「でも殆んど、《筋肉自慢》の人がはいてる」
「きっ、筋肉自慢?!」
「うん。昨年《筋肉コンテスト》っていうのが開催されたんだ。賞金も出るんだよ」
《水着コンテスト》に味をしめ、新たに男性向けに催されたのだ。
『世の中には、僕の知らない世界があるんだ』と、バロンは思った。
「そう言えば、母上とお祖母様は?」
「まだ選んでるみたい。女性は色々と時間が掛かるんだよ」
「どうしてだ?」
「ほら、サイズとかあるじゃない」
そう言ってサーシアは、自分の胸に手を当てた。
『カーッ!』
バロンはその動作につられサーシアの胸元を見てしまい、顔を赤くした。
「バロン君、大丈夫? 顔、赤いよ」
「だっ、大丈夫。ちょっと、暑いだけ!」
バロンはサーシアから顔を逸らし、誤魔化した。
「二人共、お待たせ」
そこへ、ソフィアとユミナが現れた。
「みっ、水着を選び終わったのですね。それでは会計を済ませて、海へ参りましょう」
「バロンちゃん。海用のサンダルも買って行くから、もう少し待ってね」
「そっ、そうですか」
「あら、顔が赤いわね?」
「だっ、大丈夫です。何でもありません!」
「それなら、良いんだけど」
この後会計を済ませサンダルを買い、一行は海へ向かった。




