第二十五話 フロリダ街のデート①
朝食をサンドウィッチで軽く済ませ、僕達家族は馬車で保養所を出た。
「パパ達も、一緒に街を見て回ればいいのに!」
サーシアが御者台に身を乗り出し、僕に提案した。
「偶にはパパ達抜きでも、いいじゃないか。海の保養所で色々準備して待ってるから、バロン殿下達の案内を頼むよ!」
王族という立場から、自由な恋愛が難しいバロン殿下だ。
少しでも、デート気分を味あわせてあげる事にした。
「パパがそう言うなら、そうする!」
「それにしても、サーシア。今日はいつも以上に、可愛いな」
「ありがとう。ママがやってくれたんだ!」
そんな会話をしている内に、馬車は温泉宿に到着した。
馬車を駐車場へ止め、僕とサーシアだけ馬車を降りた。
そして正面玄関へ行くと、バロン殿下が護衛を携え待っていた。
「バロン君、お早う!」
『ドキッ!』
「おっ、お早う」
バロン殿下は、おめかししたサーシアに見蕩れた様だ。
「バロン殿下、お早うございます」
「ああ」
バロン殿下の僕への態度は、相変わらずである。
『どうにかならないものだろうか?』と、思ってしまう。
「私達は先に海へ向かいますので、サーシアを宜しくお願いします」
「分かった」
「じゃあな、サーシア」
「うん!」
サーシアをバロン殿下に預けると、僕はいそいそとこの場を離れた。
「バロン君って、パパの事嫌いなの?」
「いや、そういう訳じゃ」
「それなら良いんだけど」
バロンは幼い頃から、ユミナに近付く男を遠ざけてきた。
今でもそれは変わらず、ニコルもその対象となっていた。
◇
ユミナとソフィアが来るのを待って、バロン達は馬車で繁華街へ繰り出した。
「温泉宿、どうでした?」
「料理は美味しいし、何より温泉が良かったわ。お肌がいつもよりツルツルですもの。今朝も入ったのよ!」
ソフィアは、美魔女に磨きが掛かっていた。
「ソフィア様、お肌とても綺麗ですよね!」
「まー、サーシアちゃん。お世辞でも、嬉しいわー!」
サーシアの裏表の無い言葉に、ソフィアは素直に喜んだ。
「ところで、サーシア。行きたい場所はあるか?」
「サーは何回も来てるし、バロン君が行きたい所で良いよ」
「サーシアと一緒なら、何処でも良いんだが・・・・・」
「そうなの? それじゃ、馬車を降りて歩こうよ! 何か興味を引く物があるかもよ!」
バロンは勇気奮い甘い言葉を発したが、サーシアはそれに気付かなかった。
「そっ、そうだな!」
「それじゃ、私達も歩きましょうか?」
「そうね、ユミナちゃん」
サーシアの提案で、皆馬車から降りた。
しかし一際豪華な馬車は、人目を集めた。
「すげー、美人ばかりだー!」
「特に、あの若いご婦人!」
「はー、女神様ー!」
男達の視線は、ユミナに釘付けになった。
日除けの帽子を被りシックな服を着ていたが、その美しさは隠し切れなかった。
「くそっ、あいつら。母上は見世物じゃ無いぞ!」
「やっぱり、ユミナちゃんには敵わないわね!」
「お母様。娘に対抗心を燃やさないで下さい!」
「母上っ! 目立たない様、護衛の陰に隠れて下さい!」
「ふふっ。バロンは相変わらずね」
四人は近衛騎士に囲まれながら、店を見て歩いた。
◇
バロンはアクセサリーの店で、サーシアへのプレゼントを探していた。
「この《髪止め》、サーシアに似合うんじゃないか?」
「凄く可愛いね」
「気に入ったのなら、プレゼントするよ!」
「良いの?!」
「今日は、僕に付き合ってくれてるんだ。遠慮は要らない!」
「そう。じゃあ、買って貰おうかな」
「良し!」
バロンは拳を握りガッツポーズを決め、自らお金を支払いサーシアにプレゼントした。
「ありがとう、バロン君。大切にするね!」
サーシアはそう言いながら、プレゼントを髪に止めた。
「どうかな?」
「うっ、うん。似合ってる!」
バロンはサーシアの笑顔に、ドギマギした。
だが、突然。
「バロン様ー!」
「えっ!」
声がした方へ振り向くと、そこにはバロンが見知った少女がいた。
「フランソワ!」
「こんな場所で会えるなんて、二人の運命を感じますわ!」
彼女はフリーデン公爵家嫡男の次女で、バロンのクラスメートである。
「バロン君、お友達?」
「学園のクラスメートだよ」
「貴方、誰? バロン様に馴れ馴れしいわね!」
「私、サーシア。宜しくね!」
『ニコッ!』
『ドキッ!』
「ちょっ、ちょっと何よその余裕。少し位可愛いからって、調子に乗らないで! 一体、何処の貴族家の方?」
「サーは、平民だよ」
「へっ、平民っ?! もしかして、王家で雇われてる《下級使用人》か何か?」
「違うっ! サーシアは、僕の友人だ!」
「平民が、バロン様の御友人?」
「フランソワに、とやかく言われる筋合いは無い。彼女を愚弄するなら、他所へ行け!」
「私はバロン様の《将来の妻》です。口を出す権利はあります!」
「それは、君が勝手に言ってる事だろ!」
「バロン様と釣り合う女性は、世界広しと言えど私しかいません!」
フランソワは美しく頭も良いが、バロンの恋愛対象ではなかった。
また次期フリーデン公爵である父親が、ユミナを狙っている事に業を煮やしていた。




