第二十四話 ニコル一家、フロリダ街の繁華街へ行く
フロリダ街に到着すると、そのまま保養所へ向かった。
「やあ、イザベラ」
「あっ、ニコルさん。それとご家族の皆さん、いらっしゃいませ!」
「一泊させて貰うよ」
「はい。お部屋は綺麗にしてあります!」
保養所の一室は《ニコル家専用》として、いつでも使える状態になっていた。
「ありがとう」
そして彼女は、僕が雇っている住み込みの管理人である。
また、ダニーの奥さんでもあった。
ダニー・サム・ルーシーの三人は建築した当初から此処に住み始め、後に管理人になったイザベラとダニーはくっついたという訳だ。
「ニコルさん、夕飯はどうします?」
「外で食べるよ」
「そうですか。それでは何かありましたら、呼んで下さい」
「ああ、ありがとう」
僕が決めた保養所のルールで、一様に《素泊まり》にしている。
此処には共用の調理場もあり手持ちの食材もあったが、折角の外泊なので外食する事にした。
シャルロッテの食事を用意すると、僕達家族は歩いて繁華街に繰り出した。
◇
「何が食べたい?」
「お肉ー!」
「僕もー!」
「それじゃ、焼肉屋に行くか?」
「「やったー!」」
食べ盛りのサーシアとレコルは、焼き肉に大喜びした。
「ニコルの旦那。今日は家族サービスですかい?!」
「そんなとこだ!」
「相変わらず、美男美女揃いの家族ですやね!」
「ありがとよ」
「良い肉が入ったんだ。見てかないかい?」
「これから外食だ。また今度な」
僕達家族は目立つらしく、通りを歩いていると知り合いに声を掛けられた。
「あー、ニコルさん!」
「本当だー!」
「キャー、ニコル様ー!」
今度はダンジョン探索者の女の子達に、囲まれてしまった。
「ねー、どうしてお店に出ないんですかー?」
「屋台、楽しみだったんですよー!」
「ニコル様に会えなくて、凄く寂しいです!」
「みんな、ごめん。家族と過ごす時間を、大切にしたかったんだ」
「悔しい。私より家族を大切にしたいだなんて!」
「人聞きが悪いから、そんな言い方止めてくれ。妻や子供達だっているんだ!」
「「「えっ!」」」
女の子達は、恐る恐る視線を僕の横に移した。
「「「キャーーーッ!」」」
「えっ、どうした?!」
悲鳴の原因が気になり横を向くと、ミーリアが怒りの形相を浮かべていた。
「あーなーたーたーちーーー!!!」
「「「ごめんなさーい!」」」
三人は、慌てて逃げて行った。
「おい、こら。ちゃんと誤解を解いて行け!」
「ニーコールーちゃーーーん!!!」
「エミリア、誤解だっ!」
『ニコッ!』
「なーんてね、大丈夫よ。ニコルちゃんがモテるの分かってるから。ちょっと脅かしただけ!」
「ふぅ、何だそうかー。良かったー!」
「でもね」
「ん?」
『スー!』
「浮気は許さないから」
ミーリアの笑顔は一変し、無表情で言い放った。
『ゾクッ!』
「はははっ、分かってるよ」
僕は背筋が寒くなり、そう言い返すのがやっとだった。
◇
再び歩いていると、何やら揉めてる声が聞こえてきた。
「てめー、何だとー。もう一辺、言ってみろっ!」
「へんっ! この街のダンジョン探索者のレベルが、低いって言ってるんだよっ!」
「この野郎っ!」
「何だやるのか? 素手でも剣でも、どっちでも良いぜ。掛かって来いよっ!」
「おい、止めとけ。あれはノーステリアの傭兵だ。明らかに奴の方が格上だぞ!」
「だからって、黙ってられるかっ!」
「腰抜けっ! 口先だけか?!」
「誰が腰抜けだ。舐めんじゃねー!」
『バシッ!』
「軽いパンチだな。ゴブリンの方が、まだマシだ!」
傭兵の男は放たれた拳を、掌で軽く受け止めた。
『バシッ、バシッ、バシッ・・・・・!』
それからは、一方的だった。
「パパー!」
「ああ」
エミリアが怯えた声で訴えるので、仲裁に入る事にした。
「もう良いだろ。止めてやれよ。あんたが強いのは分かった!」
「何だ、てめー!」
「この街で、商売をしている商人だ」
「商人が格好つけるんじゃねーよ。こいつみたいにボコボコにすんぞっ!」
「やれやれ。あんたも粋がってると、痛い目見るぞ」
「痛い目だと。俺がお前にか? できるもんならやってみろっ!」
「口だけで説得するのは、無理な様だな」
『キッ!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
《威圧》スキルを放つと、傭兵の男は情けない声を発した。
「まだ、やるつもりか?」
「わっ、分かった。もうやらねー。だから許してくれっ!」
その言葉を聞き、《威圧》スキルを解いた。
「ふぅ、殺られるかと思ったぜ!」
これだけ喋れるという事は、まだ余裕がある様に感じた。
「そっちの若いのも、ちょっと言われたからって短気を起こすなよ」
「はっ、はいー!」
仲裁の効果もあり、喧嘩をしていた男達は別々の方向へと去って行った。
『『『『『『『『『『パチパチパチパチ・・・・・!』』』』』』』』』』
「ならず者を睨んだだけで追っ払うとは、大したもんだ!」
「あの人、ステキー!」
「俺達のパーティーに、入ってくんないかなー?!」
今の騒動を見ていた大衆が、騒ぎ始めた。
「パパ、スゴい!」
そこにシロンを抱えたエミリアが、駆け寄って来た。
僕はそのまま二人を、抱き上げた。
「さあ、ご飯にしよう!」
「うん!」
「ニャー!」
何事も無かった様に、僕達はその場を離れた。
◇
その後お目当ての焼肉屋へ行き、炭火で焼いた美味しい肉を家族で食べた。
「お肉、美味しかったねー!」
「「「うん。美味しかったー!」」」
「ニャー!」
ミーリアの声に、子供達とシロンが賛同の声を上げた。
「パパのお陰で食べられたんだから、ちゃんとお礼を言いなさい!」
「「「パパ、ありがとう!」」」
「どういたしまして!」
子供達の喜ぶ顔に、僕の顔も綻んだ。
保養所に帰ると、ダニー達も仕事を終え帰っていた。
「ニコルさん、要らしてたんですね。それに皆さんも!」
「ああ、一晩だけ泊まってくよ」
「そうですか。もっとゆっくりすればいいのに」
「ニコルさん、お風呂沸いてるよー!」
「ああ、ありがとう」
「サーシアちゃん、久し振りー!」
「ルーシーさん、おひさー!」
「あれっ、レコル君。子猫抱いてる!」
エミリアは疲れてしまい、レコルにシロンを預けた。
「気付いた? 今日から家で飼う事になったんだ!」
「可愛いねー!」
「このこのなまえ、《シロン》っていうの!」
「そうなんだ。そう言えば、シロンに似てるねー!」
「うわっ、本当だー。ちっちゃいシロンじゃん。レコル、俺にも抱かせてくれよ!」
「何言ってるの。私が先よ!」
「俺だ!」
「私よ!」
「おいおい、二人共止めろ! 先ずは、俺からだ!」
そう言ってダニーが割り込み、シロンを抱きかかえた。
「「あー、ズルいー!」」
こうして夜遅くまで、シロン争奪戦の第二ラウンドが行われた。




