第二十三話 エミリアの独占欲
昼食のメニューは平凡ながらも、その美味しさに皆満足した。
今は食後に紅茶やジュースを飲み、寛いでいる。
「サーシア、レコル」
「「何、パパ」」
「ミーリアの提案で、今晩はフロリダ街の保養所に泊まる事になった」
「「本当っ?!」」
「その方が、明日の朝楽でしょ?」
「流石、ママ!」
「やったー、泊まりだー!」
「サーシアの仕事が終わったら出発するから、そのつもりでいてくれ」
「「はーい!」」
久し振りの外泊に、二人は笑顔を浮かべた。
「ところで皆さんは、この後どうされます?」
ソフィア様に、尋ねた。
「用事も済んだ事だし、フロリダ街に戻って温泉にでも浸かろうかしら」
「そうですか。でしたら明日の朝、サーシアを宿に連れて行けば宜しいですか?」
「そうね。朝食の後にお願い!」
「分かりました」
「バロン君。サーは仕事に戻るから、また明日ね!」
「ああ、また明日!」
「シロンも!」
「ニャー!」
サーシアはバロン殿下に挨拶すると、シロンを軽く撫でて仕事に戻った。
そしてバロン殿下達も、紅茶を飲み終えるとフロリダ街へ帰って行った。
◇
皆を見送り食事をした部屋へ戻ると、シロンが尻尾を立て足に擦り寄って来た。
「ニャー!」
食事中はお客さんがいたせいか、『借りてきた猫』の様に終始大人しかった。
しかし帰った途端、甘えて来た。
「片付けが終わったら、厩舎にいるシャルロッテとポムを驚かせに行こうな」
「ニャー!」
最近ポムは、シャルロッテと一緒にいる事が多い。
同じ厩舎にいたケイコが亡くなり、一人でいるシャルロッテを気遣ってる様だ。
僕は《生活魔法》で食器や鍋を手早く綺麗にし、テーブルや椅子と一緒に纏めて片付けた。
「さあ、終わったぞ。シロン、厩舎へ行こう」
そう言ってシロンの姿を探すと、エミリアとレコルに捕まっていた。
振り払って脱出できる状況じゃ無い様だ。
「それにしてもあの子猫、生前のシロンにソックリね」
側にいたミーリアが、ふと呟いた。
「そうだな。最初に見た時、僕も驚いた」
「本当に、シロンの生まれ変わりだったりして」
「ふえっ!」
ミーリアの核心を突いた言葉に、思わず変な声を上げてしまった。
「だからきっと、エシャット村に帰って来たのよ!」
「はははっ、そうだな」
本気とも冗談とも取れる言葉に、僕は笑って肯定した。
「もふもふー、もふもふー!」
「このシロン、小さくて凄く可愛いな!」
「うん、かわいいー!」
「レコル。そんな事言ったら、天国にいるシロンが可愛くないみたいだぞ!」
「あっ! 僕、そんなつもりじゃ・・・・・」
バロンは笑顔から一転、『シュン』としてしまった。
「ははっ、冗談だ。パパも同意見だ!」
「パパ、酷いやっ!」
レコルは、頬を膨らませ怒った。
どうやら、純粋に育ってくれている様だ。
「エミリア。シロンをシャルロッテとポムに、紹介してあげよう」
「はーい!」
この後子供達と一緒に、厩舎へ向かった。
◇
厩舎へ行くと、シャルロッテとポムが横になって休んでいた。
「シャルロッテ、ポム。ちょっと良いか?」
「ヒヒーン?! 『何ですか?!』」
「モキュッ?!」
「エミリア、出ておいで!」
「はーい!」
『ヒョコ!』
僕の後ろに隠れていたエミリアが、シロンを抱きかかえたまま姿を現した。
「ニャー! 『久し振りニャ!』」
「ヒヒーン?! 『えっ?!』」
「モキュッ?!」
「ニャー! 『シロンニャ!』」
「ヒヒッ、ヒヒーン?! 『嘘っ、本当なの?!』」
「モキュッ、モキュッ?!」
「ニャー。ニャニャー! 『本当ニャ。《転生》したニャ!』」
「パパ。シロンとシャルロッテとポム、おはなししてるよ!」
「本当だ。もう、仲良しになったみたいだな」
「うんっ! シャルロッテ、ポム。シロンをよろしくね!」
「ヒヒーン!」
「モキュッ!」
エミリアがシロンを差し出すと、シャルロッテはシロンに頬擦りをした。
その目には、うっすらと涙が浮かんだ。
「シャルロッテ。今日サーシアの仕事が終わったら、フロリダ街に行く。宜しくな!」
「ヒヒーン! 『分かりました!』」
この後ミーリアと、宿泊の準備に取り掛かった。
◇
サーシアが帰宅し、出掛ける準備をしている。
「お待たせ!」
「もう、良いのか?」
「うんっ。ママが全部、用意してくれてた!」
サーシアは服を着替えただけで、直ぐに現れた。
「それじゃみんな、出掛けよう!」
「「「「はーい!」」」」
まだ日が充分ある内に、僕達はエシャット村を発った。
「ねー、エミリア。サーにもシロンを抱かせてよー!」
仕事で構う事ができなかったサーシアは、シロンと触れ合うのを楽しみにしていた。
「えー、やだー! シロンはエミリアのー!」
「良いじゃない。サーも、抱っこしたいよー!」
「だめー!」
エミリアが《独占欲》を発揮し、サーシアを困らせた。
「エミリア。お姉ちゃんにも、シロンを抱かせてあげなさい!」
その様子を見かねて、僕は口を挟んだ。
「・・・・・パパ、おこったー?」
「怒ってないよ。パパはみんな仲良くして欲しいから、言ったんだよ」
「なかよく・・・・・。おねーちゃん、シロンかしてあげる!」
そう言ってエミリアは、シロンを差し出した。
「ありがとう、エミリア。私達、いつまでも仲良しだからね!」
「うんっ!」
サーシアはシロンを受け取ると、抱き上げて頬擦りをした。
「えへへー。可愛いー!」
「サーシアの次は、ママね!」
「うん。もうちょっと待って!」
「ママ、次は僕だよー!」
実はレコルも、エミリアが一人締めしていて抱いていないのだ。
「もー、しょうがないわね。ママは最後でいいわ」
馬車の中でずっとシロンの争奪戦が繰り広げられながら、僕達はフロリダ街に到着した。




