第二十二話 バロン、サーシアとの再会④
シロンに夢中になり、気付くとユミナ達を待たせていた。
「皆さん、お待たせしてすみません。食事にしますので、此方の部屋でお待ち下さい」
「気にしなくて良いのよ。それより、ニコル君が何を御馳走してくれるのか楽しみだわ!」
「あまり期待しないで下さい。手の込んだものは作ってないので」
「あら、謙遜ね」
「いえいえ」
「ニコル君、この子猫」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
「ニャー!」
「ふふっ、良かった!」
ソフィア様やユミナと会話を交わし、みんなを図書室兼教室に招き入れた。
今回は護衛の兵士達も、同じテーブルに着いて貰った。
「レコル。シャルロッテやお客様の馬の餌やりを頼む」
「うん!」
「エミリアは、シロンの面倒を見ててくれ」
「はーい!」
シロンを預けると、エミリアは満面の笑みを浮かべた。
「良し。あとはこっちだ」
僕は魔法袋内で《亜空間収納》を展開させ、料理の入った鍋を取り出しテーブルの上に並べた。
「ミーリア、サーシア。配膳を頼む」
「「はーい!」」
料理を僕が皿に盛り付け、二人が配膳をしていった。
◇
「パパ。馬の餌やり、終わったよ!」
「ご苦労様! レコルはエミリアと、そこに座ってくれ」
「うん!」
配膳が終わる頃丁度レコルが戻って来て、僕達家族もテーブルに着いた。
みんなの目の前には、《ミートソースパスタ》と《ジャーマンポテト》と《野菜スープ》が並んだ。
「それでは皆さん。大したものはございませんが、どうぞお召し上がり下さい!」
「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」
僕が勧めると、皆一斉に食べ始めた。
シロンにも要望通り、ミノタウロスのヒレ肉を与えてある。
「「「「「「「「「「んっ!!!」」」」」」」」」」
思い思いに料理を口に運ぶと、お客の皆さんが驚きの表情を浮かべた。
「やだっ、美味しい!」
「美味しいわね、バロン?!」
「はい。見た目は平凡ですが、とても美味しいです!」
兵士達も、「旨いっ!」と言いながらガツガツ食べている。
よっぽど、お腹が空いてたみたいだ。
「ニコル君。このパスタ、どうしてこんなに美味しいの?」
「気に入っていただけて何よりです。旨さの秘密は、《ミノタウロス》の肉のお陰です」
「ミノタウロス? あの高級食材の」
「お父様と私とバロンは、以前此方でステーキを御馳走になりましたよ」
「えっ、そうなの? 羨ましい」
「あら、お母様。まるで催促してるみたいですよ!」
「もう、ユミナちゃんがいけないのよ。ステーキなんて言うから!」
「お祖母様。此方のポテトと一緒のベーコンも、美味しいです!」
「本当、バロンちゃん?」
『パクッ。モグモグ!』
「あら、本当っ。美味しいわ!」
「ジャーマンポテトのベーコンは、《ブルドボア》の肉で作ってます」
「此方も良いお肉ね。ニコル君はこれらを、どこで手に入れてるのかしら?」
「ダンジョンですが」
これらは昔、《エーテル街》のダンジョンで手に入れた物である。
僕は《転移》でいつでも行けるが、今は《魔素爆発》以来実質封鎖状態だ。
「「「「「「「ざわ、ざわ・・・・・!」」」」」」」
「あら貴方達、どうかした?」
「はい。ミノタウロスやブルドボアは相当強い魔物なので、名のあるパーティーに所属なのだと思いまして」
「どうなの、ニコル君?」
こういう言われ方をすると、素直に答えるべきか悩んでしまう。
「えーと、パーティーには所属してません。ソロで倒しました」
「それは本当ですか?! 《近衛騎士》の我々でも、一人で倒すのは困難だというのに!」
「はぁ」
ただの騎士や兵士かと思っていたが、彼等は王族を守る近衛騎士だった。
良く考えればバロン殿下とユミナは王族なのだから、当然の事である。
「ニコル君は十五歳の時、手合わせでマイク君とグレンさんに勝っているのよ」
「「「「「「「あのお二人にっ!」」」」」」」
近衛騎士達の、僕を見る目が変わった。
「「「「「「「是非、我々と手合わせして下さい!」」」」」」」
「へっ?!」
「貴方達、迷惑ですよ。冷めないうちに、食べなさい!」
「「「「「「「はいっ、ユミナ様!」」」」」」」
ユミナの気遣いで、近衛騎士達の興奮が治まった。
その後静かになったが、時折『旨い!』という声は上げていた。
◇
「あのー、パスタのお代わりはいかがですか?」
「「「「「「「はいっ、お願いします!」」」」」」」
近衛騎士達の空いた皿を見て尋ねると、全員がお代わりに手を上げた。
「ミーリアとサーシア。手伝ってくれるか?」
「「はーい!」」
新しい皿にパスタと野菜スープをそれぞれ盛り、二人に運んで貰った。
「ねー、ニコル君。先程話していた《海の保養所》って、何かしら?」
配膳が終わり食事を再開すると、ソフィア様が尋ねてきた。
「宿泊所の事です。フロリダ街の温泉宿の近くと海の近くに、エシャット村の住人だけが利用できる施設があります」
「海の近くに宿泊できるの? とても素敵だわ。私、海の見える風景が好きなの!」
「パパ。僕、船で釣りしたい!」
「釣りかー。久し振りにやろうか」
「もしかして、ニコル君は船も持ってるの?!」
「パパの船、大きいんだよ!」
「まー、それなら私達も乗せて下さらない?!」
「えっ!」
「ユミナちゃんとバロンちゃんも、乗りたいわよね?!」
「はい。ニコル君が迷惑でなければ」
『チラッ!』
バロン殿下は、一瞬サーシアの顔を窺った。
「僕も乗りたいです」
そして、賛同した。
「分かりました。先に海の保養所に行って、お待ちしてます」
「ありがとうニコル君。流石イケメンね!」
『パチッ!』
ソフィア様のウインクは、孫がいるとは思えない程の色気を振り撒いていた。




