第二十一話 シロンの旅④
シロンの墓に祈りを捧げていたユミナが、突如声を上げた。
「ユミナ、どうした?」
「シロンが視えたの!」
ユミナは振り向き、僕にそう答えた。
「シロンが視えた?」
「・・・・・・・・・・!」
するとユミナは、視線を虚空に移し無言になった。
そのただならぬ雰囲気に、僕は沈黙し次の言葉を待った。
◇
暫くすると、ユミナの視線が僕に向けられた。
「ニコル君。シロンが《猫》として、《転生》しました!」
「えーーーっ!!!」
ユミナのその言葉を聞き、僕は驚愕の声を上げた。
「視えたんです! 貴族の屋敷で生まれ育ち、ニコル君に会いに旅をする姿が!」
「まさかっ!」
僕は慌てて、《検索》スキルで《転生したシロン》の居場所を調べた。
「いたっ!」
《検索》スキルの《地図》上に、はっきりとマーキングされた。
「パパ、どうしたの?」
「パパ、ちょっと用事ができたんだ。このユミナさんと、お家の図書室で待っててくれないか?」
「ごはんはー?」
「ご飯までには戻るよ」
「わかったー」
「ユミナ。僕が戻るまでエミリアの面倒を見ていてくれ! それから、君達のご飯は作ってある」
「うん、行ってらっしゃい!」
僕は駆け出し、人目を避けて《転移》した。
『シュタッ!』
転移先は昔《アルシオン王国》のスタンピード騒ぎで、一度だけ通り過ぎた場所だった。
しかしそこは、シロンのいる場所からまだ離れていた。
「良し、あっちだ!」
『ドビュウーーーッ!』
再び地図でシロンの位置を確認し、僕は空を飛んだ。
「しかし、シロンが《転生》してたとはな!」
僕は笑みを浮かべ、そう呟いた。
《検索》スキルは一見万能だが、《通知》機能は備わっておらず知る術が無かった。
◇
『スー、スー!』
街道を走る馬車に揺られながら、私はうとうとしていた。
「シローーーン!」
『ピクッ!』
「ご主人の声? まさか、有り得ないニャ」
空耳だと思い、私は再びうとうとした。
「シローーーン!」
「空耳じゃ無いニャ! 確かにご主人の声ニャ!」
今度は《超聴覚》スキルで、はっきりとご主人の声を認識した。
私は《超視力》スキルで、ご主人の姿を探した。
「いたニャ! こっちに、飛んで来るニャ!」
『バッ! シュタッ!』
私は咄嗟に、馬車から飛び降りた。
「ご主じーーーん!」
『タッ、タッ、タッ、タッ、タッ・・・・・・・・・・!』
そして叫びながら、ご主人の元へ走り出した。
◇
街道を走る馬車から、一匹の白い猫が飛び降りた。
「シロン。僕の声に気付いたんだ!」
『ヒュウーーーーー、シュタッ!』
近くまで行くと、減速し街道に着地した。
「ご主じーーーん!」
『タッ、タッ、タッ、タッ、タッ・・・・・・・・・・!』
凄い勢いでかけて来るシロンを、僕はその場で待ち受けた。
『ピョーーーーーン! ストッ!』
シロンは目の前で大きくジャンプし、僕の胸に飛び込んだ。
僕はそれを優しくキャッチし、抱きしめた。
「シロン!」
「ご主人! ご主人! ご主人!」
『ゴシ、ゴシ、ゴシ!』
シロンは叫びながら、僕の胸に顔を強く押し付けた。
「シロン、《転生》してたんだな?」
「そうニャ。謎の《固有スキル》のお陰ニャ!」
「それって、ステータスにあった《?》の固有スキルか?」
「人間以外になら、記憶とステータスを引き継いで何度でも《転生》できるみたいニャ!」
「凄いチートだな! だけど、直ぐに人間になりたくなかったのか?」
「ご主人が《愛人》にしてくれるなら、人間になるニャ!」
「馬鹿。できる訳無いだろ!」
『ピンッ!』
変な事を言い出すシロンに、軽くデコピンをしてやった。
「イタッ! 酷いニャ」
「シロンは《転生》しても、性格は変わらないな」
「変わったのは、体の大きさと目の色くらいニャ」
「本当だ。オッドアイじゃ無くなってる」
僕はまじまじと、シロン目を見た。
「ご主人。シロンに見蕩れるのも分かるけど、お腹空いたニャ」
「そうだ。丁度お昼だし、家に帰ってご飯にしよう」
「久し振りに、《ミノタウロス》のヒレ肉が食べたいニャ!」
「分かった。思う存分食べさせてやる!」
そう言うと直ぐに、エシャット村に《転移》した。
◇
『シュタッ!』
「流石、ご主人ニャ。アッという間に着いたニャ!」
「あそこからだと、どんなに早くても一ヶ月は掛かったな」
「お陰で助かったニャ。でも、どうしてあそこにいるって分かったニャ?」
「ついさっき、ユミナから『シロンが《転生》してる』って聞いて調べたんだ」
「ユミナに、お礼を言わないといけないニャ」
「今村に来てるから、伝えると良いよ」
「そうするニャ」
僕はシロンを抱えながら、自宅に戻った。
すると家の前には、家族とユミナ達が集まっていた。
「あっ、ネコちゃん!」
最初にシロンに気付いたのは、エミリアだった。
「シロンにソックリだー!」と、次にレコルが声を上げた。
「可愛い。でもパパ、その子猫どうしたの?」と、サーシアが聞いてきた。
「拾った」
「拾ったの? 飼い主は、いるのかな?」
「少なくともパパは、この子を村で見た事無いな。首輪をしてないから、もしかして野良かも」
「村の外から来たのかな? 良く来られたね」
「そうだな」
「ねぇ、パパ。家で飼おうよ!」
「そのつもりだ」
「「「やったー!」」」
子供達に嘘をつくのは心苦しいが、何とか誤魔化した。
「ねー、おなまえはー?」と、エミリアが聞いてきた。
「『シロン』にしたいんだけど、良いかな?」
「「「いいよー!」」」
子供達は皆、笑顔で賛同してくれた。
「お前の名前はシロンだ。今日から僕達の家族になるんだぞ!」
「ニャー!」
こうして再び、シロンは我が家へ戻って来た。




