第二十話 バロン、サーシアとの再会③
バロン殿下とレコルが木剣で打ち合ってから、十五分以上が過ぎた。
『ガシーーーン!!』
「うわあっ!」
『ドシッ!』
レコルの打ち込みに耐え切れず、バロン殿下が倒れてしまった。
「そこまで!」
バロン殿下はずっと全力だった為、体力に限界が来ていた。
一方レコルは、まだ余力があった。
それを見極め、審判は試合を止めた。
「勝者、レコル殿!」
「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・」」
「クソッ! 負けた」
「バロン君、強いよ!」
そう言って、レコルは手を差し出した。
「ありがとう」
バロン殿下はレコルの手を握り締め、起き上がった。
「でもレコル、本気じゃ無かったろ?!」
「ごめん。スキルは使わなかった」
「スキルって?」
「《身体強化》スキル」
「その歳で、そんなスキルを使えるのか?」
「おねーちゃんも使えるよ」
「サーシアも?」
「おねーちゃんは、《魔法》も得意なんだ」
「サーシアは、魔法を使うのか?」
バロン殿下は、サーシアの顔を窺った。
「えっ、何っ?」
「君達姉弟は、凄いな!」
「私、何かした?」
「魔法もスキルも使えるんだって?」
「うん、一応ね」
「レコルの剣術同様、サーシアの魔法も凄いんだろうな」
「自分じゃ、分かんないよ」
「上には上がいる。僕もまだまだだ」
バロン殿下は、一人納得した。
「バロン君。明日、パパ送ってくれるって」
「そうか、良かった」
「おねーちゃん、明日何処か行くの?」
「フロリダ街。バロン君達と一緒に、街を見て歩くんだ」
「ズルい! おねーちゃんとパパが行くなら、僕も行く!」
「パパは、送って行くだけだぞ」
「僕も、行ーきーたーいー!」
この時バロンは、レコルを誘おうと思った。
しかし『サーシアと二人になりたい』という気持ちが、戸惑わせた。
「はぁ、しょうがない。サーシアを送った後、ミーリアとエミリアも連れて海の保養所にでも行くか?」
「やったー!」
バロンが迷っている内に、レコルは家族と行く事が決まった。
この時バロンは、何とも言えない気持ちになった。
◇
その後ソフィア様達はスーパーへ行き、僕はエミリアを連れて服飾工房へ向かった。
「と言う訳で、明日は久し振りに海の保養所へ行こう」
「良いわよ。でも、今日繁華街の保養所に泊まれば、明日の朝ゆっくりできるんじゃない?」
「それもそうだな。仕事が終わったら、宿泊の用意を頼むよ」
「うん。ところで、今日のお昼ご飯どうする? 護衛の方達も大勢いるんでしょ」
「僕がパスタを作るよ」
「ありがとう、助かるわ。それじゃ私、お昼までにこのお洋服仕上げちゃうから」
僕は服飾工房を出て、食事の準備に取り掛かった。
◇
「エミリア。パパはお昼ご飯を作るから、絵本を見て待っててくれるか?」
「うん!」
人数が多いので、自宅一階の図書室兼教室を片付けてテーブルと椅子を並べた。
「さて、パスタのソースは何にするか?」
奇をてらってイカスミパスタを思い付いたが、今回は無難なミートソースパスタに決めた。
手作りだと時間が掛かってしまうので、スープや付け合わせも含め全て《亜空間収納》で調理をする事にした。
調理は直ぐに終わったが、食事をするには早かった。
エミリアの様子を見ると、大人しく絵本を見ている。
「ごめん下さい」
するとそこへ、ユミナが現れた。
「どうした?」
「いきなり大勢で押し掛けて、迷惑でした?」
「迷惑じゃないけど、びっくりした」
「そうですよね」
「気にしなくて良いよ」
「はい。それとこの事とは別に、ニコル君に言っておきたくて」
「ん?」
「ありがとうございました」
「何の事?」
「ヤマトさんとして行った、大勢の方達の《埋葬》です」
「あー、あれかー」
「もしかして、私の言葉が切っ掛けじゃないかと思って」
「どうだったかなー。忘れたよ」
「何年も費やし、大変だったでしょう?」
「《影分身魔法》が使えるから、ユミナが思ってる程でもないさ。実際日常生活を送りながら、のんびりやってたし」
「そう。でも、本当にありがとうございました」
「あまり惚けるのも何だから、その気持ち素直に受け取るよ」
「はい!」
堅かったユミナの表情は、笑顔に変わった。
今までずっと、胸に支えていたのだと分かった。
「バロン殿下、随分成長したね?」
「ニコル君のお子さん達もですよ。エミリアちゃんなんて、以前会った時赤ちゃんでしたから」
「そうだね。子供の成長は早いよ」
「同感です。ところで、《シロン》の姿が見えないんですけど」
「うん。あのさ、シロンは少し前に死んだんだ」
「えっ、そんなっ!」
ユミナの目に、涙が滲んだ。
「まー猫として、かなり高齢だったからね。報告が遅れて、ごめん」
「ニコル君が謝る必要無いです。でも、そうですか」
「墓に行ってみる?」
「はい! お祈りさせて下さい」
「エミリア。シロンとケイコのところに行こうか?」
「うん、いく!」
お昼まで時間があったので、二人(匹)の墓へ出掛けた。
◇
「こっちがシロンの墓で、こっちが《テイム》していた野鶏のケイコの墓」
「ヤケイのケイコさん?」
「野生の鶏の事だよ」
「見た事あります。彼女がケイコさん」
「《転生者》とかじゃ、ないからね」
「そうですか。ではケイコさんにも、祈りを捧げます」
ユミナはそう言って、目を瞑り祈り始めた。
「エミリアも、パパと一緒に祈ろうか?」
「うん。お祈りする!」
そして僕達も、祈りを捧げた。
「えっ!!」
とその時、ユミナが驚きの声を上げた。




