第十九話 バロン、サーシアとの再会②
バロンは《ボール焼き》を食べ終わると、そわそわしだした。
それは、ある目的を果たす為だ。
「ご馳走様。どれも美味しかった!」
「本当? 嬉しい!」
「・・・サッ、サーシア!」
「何?」
「明日、仕事は休みか?」
「うん、休み!」
明日は日本で言うところの、日曜日に当たる。
「僕達今日、フロリダ街の温泉宿に泊まるんだ。良かったら、明日一緒に街を巡らないか?」
「うーん、久し振りに行ってみようかなー。パパに送ってくれる様頼んでみる!」
「やった!」
バロンは小さく、拳を握った。
「エレナ叔母さん、パパの所に行って来ても良い?」
「良いわよ」
「それじゃ、行って来るね!」
「サーシアちゃん、待って。バロンちゃん、私達も一緒に行きましょう」
「はいっ!」
ソフィアに促され、三人もサーシアに着いて行く事になった。
◇
『ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガシーーーン! ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!』
「パパ。エミリアと遊んでると思ったら、レコルの《剣術》の相手してる!」
サーシアがニコルを探すと、学校前の広場で見付けた。
学校が夏休みの為、レコルに剣術の相手をせがまれていたのだ。
一方エミリアは、孤児院の遊具で子供達と遊んでいた。
「凄い!」
バロンは剣術と魔法を習い、その才能から《神童》と持て囃されていた。
しかし自分を上回るであろう才能の持ち主が、目の前にいた。
「バロン君、何が凄いの?」
「レコルの打ち込みだよ。僕より一つ年下なのに!」
「へー、凄いんだ」
「一体どんな鍛練をすれば、ああなれるんだ?」
「いつもパパと、打ち合ってるだけだよ」
「それだけ?」
「きっと、ニコル君の《才能》を受け継いでるのよ」
「あの才能を受け継いでいる・・・・・」
この時バロンの頭には、ガーランド帝国の勇者達を蹴散らす《ヤマト》の姿が浮かんだ。
そしてその正体が、『ニコル』と言ったユミナの言葉を覚えていた。
◇
『チラッ!』
レコルの剣を受けていると、ユミナ達の姿が目に入った。
「休憩にしよう」
「えー! パパもっとやろーよー!」
「お客さんだ」
「お客さん? あっ、バロン君!」
「やあ、レコル」
「久し振りだね!」
「君の剣術、凄い腕前だ」
「ありがとう。バロン君も剣術やってみる?」
「そうだな。レコル、《試合》をしよう!」
「試合?!」
「待て、レコル。バロン殿下は《王族》だぞ。怪我をさせたら、問題になる!」
「「えっ! バロン君って、王族なの?!」」
僕の言葉に、レコルだけでなくサーシアも声を上げた。
当時幼かった二人には、敢えて教えなかった。
「剣術の鍛錬に、身分は関係無い。レコル、やるぞ!」
「でも・・・・・」
「バロン殿下はこう仰ってますが、良いのですか?」
「ニコル君、お久し振りです。バロンが怪我をしたら私が治すので、存分にやって下さい」
「そう、なんだ」
「木剣を貸してくれるか?」
「それなら、これを」
僕は心配しながらも、木剣をバロン殿下に手渡した。
「本当にやるの?」
「やる。手加減しなくていいぞ!」
「分かった。それじゃ、やろう!」
「審判は私が務めます。宜しいですか?」
護衛の一人が、名乗り出た。
「頼む!」
「うん!」
「構えて!」
二人は向き合い、木剣を構えた。
「始め!」
「セイヤー!」
『ガーン!』
いきなり仕掛けたのは、バロン殿下の方だった。
「バロン君、やるね!」
「レコルもな!」
『ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ・・・・・・・・・・!』
バロン殿下の猛攻を、レコルは剣で受け凌いだ。
『ガキーン!』
そして凌ぎきると、重い一撃を打ち返した。
「くっ、負けるかっ!」
『ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ・・・・・・・・・・!』
『タッ、タッ、ガキーン!』
「結構、激しく打ち合ってるな」
「そうですね。レコル君凄いわ」
「それを言うなら、バロン殿下だって」
「数年前バロンは自転車に乗るサーシアちゃんに刺激され、エシャット村を去ってから剣術と魔法を頑張ってましたから」
「バロンちゃんはきっと、格好良い姿を誰かさんに見せたかったのよ!」
そう言って、ソフィア様はサーシアを見た。
「ん?」
しかしサーシアは、自分の事を言われてると気付かなかった。
「ねー、パパ。明日フロリダ街に送ってよ!」
「別にいいけど、何の用だ?」
「バロン君と、街を見て回るの!」
「まさか、二人きり?」
「どうだろう?」
「ニコル君。私達や護衛も一緒です」
「そう。それじゃ、明日送ってくよ」
「パパ、ありがとう! それとね、王都のお屋敷で《ボール焼き》の作り方を教えて欲しいんだって」
「サーシアが、王都まで行くのか?」
「ボール焼きがとても美味しかったから、私が頼んだの。できれば、調理器具も融通してくれる?」
「調理器具は良いですけど、サーシアを一人で王都へ行かせるのは・・・・・」
「心配なら、ニコル君も来れば良いじゃない!」
「はぁ」
「パパ、行っても良い?」
「そうだな」
「やった。それじゃ、いつにしようか?」
「パパは《仕入れの旅》があるから、できれば早い方が良い」
「それなら、二週間後の休みの日はどうかしら?」
「私は構いません」
「サーも大丈夫ー!」
「それじゃ、決まりね!」
折角家族とのんびり過ごしているのに、バロン殿下やソフィア様に崩されていく気がした。




