第十八話 バロン、サーシアとの再会①
ある日バロンはユミナに付き添われ、王都のグルジット邸を訪れた。
「お祖母様。学園が夏休みなので、僕も《亜空間ゲート》でフロリダ街に連れて行って下さい!」
バロンは今年十歳になる歳で、学園の初等科に通い始めた。
「そう言えば、バロンちゃんはフロリダ街に行った事なかったわね」
「はい!」
「バロンったら、本当はサーシアちゃんに会いにエシャット村へ行きたいのよ」
「母上っ!」
「あら。ユミナちゃんも、行きたいんでしょ?」
「お母様っ!」
ユミナはソフィアに図星をつかれ、うろたえた。
「ふふっ! それじゃ早速、計画を立てましょう」
こうしてバロンは、久し振りにエシャット村へ行く事となった。
◇
三日後、早朝。
「ここがフロリダ街か!」
「来られて良かったわね」
「はい!」
「バロンちゃん。フロリダ街は海が近くにあるそうよ。行ってみる?」
「今はいいです」
「そうなの。それじゃこのまま、エシャット村へ行きましょうか?」
「はい!」
バロン達は寄り道する事無く、七人の護衛を引き連れエシャット村へと向かった。
◇
そして馬車に揺られ、一行はエシャット村に到着した。
「バロンちゃん。サーシアちゃんのお家に着いたわよ!」
「さあ、バロン。行きましょう!」
「はっ、はい!」
三年振りの再会に、バロンは緊張していた。
「邪魔しちゃ悪いから、私はお店でお買い物をしているわ」
「「はい!」」
馬車を降りると、ユミナとバロンはニコル家へ、ソフィアはスーパーへ向かった。
『コツ、コツ、コツ!』
階段を上がり二階の玄関前に立つと、ユミナはドアノッカーを鳴らした。
『シーン!』
「お留守かしら?」
「えっ、そんなっ!」
『コツ、コツ、コツ!』
「ごめん下さーい!」
『シーン!』
「やっぱり、お留守の様ね。どうしようかしら?」
『ガーン!』
緊張感から一転、バロンは落ち込んでしまった。
『タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!』
「バロン殿下。ソフィア様が隣の店でお呼びです!」
そこへ、護衛の兵士が現れた。
「お祖母様が?」
「はい!」
「バロン、行ってみましょう」
「はい」
ニコル家を後にし、バロンは落胆したままスーパーへ足を運んだ。
◇
「お祖母様、お呼びですか?」
「待ってたわ、バロンちゃん! さあ、こっちへいらっしゃい!」
「はい。あっ!」
「バロン君!」
「サーシア!」
「久し振りだね!」
「そっ、そうだね!」
突然の再会に驚きながら、背が伸び大人っぽくなったサーシアにバロンは見蕩れた。
「サーは今、このスーパーで働いてるんだ!」
「まだ子供なのに、もう働いてるのか?」
サーシアは、バロンの一つ年上の十一歳である。
「この村では、普通だよ」
「そうなんだ」
「バロン君。お昼にはまだ早いけど、お腹空いてない?」
「少しだけ」
「それじゃおやつに、《ボール焼き》を作ってあげる!」
「ボール焼き?」
「うん。待ってて!」
魔法袋に商品のストックがあったが、サーシアは腕前を披露したくて一から作り始めた。
◇
『ジュジュジュー!』
『クルッ、クルッ、クルッ・・・・・・・・・・!』
「凄いや、サーシア!」
「へへーんだ!」
バロンの驚く顔に、サーシアは満足した。
「さあ、ボール焼きできたよ。食べて!」
「うん!」
長方形の皿に、四種類のボール焼きが二個ずつ盛られていた。
バロンはフォークを手に取り、ボール焼きを一つ口に運んだ。
「ハフ、ハフ、あちちっ。熱いけど、凄く美味しい!」
「良かった。今食べたのがタコで、他にエビとチーズとトウモロコシがあるからね!」
「タコって初めて食べたけど、美味しいんだな!」
「そうでしょ。お母さん達も、どうぞ!」
「ありがとう。サーシアちゃん!」
「まあ、丸くて可愛らしいわね!」
サーシアは、ユミナとソフィアにも振る舞った。
「ハフ、ハフ、美味しいわー!」
「ほんと、美味しい!」
「サーシアちゃんは、料理上手ね!」
「えへへ、そうですか?」
「うちの料理人に、この料理を教えて欲しいわー!」
「それなら、私が今習えば」
ユミナは《調理》スキル持ちだが、《たこ焼き》は作った事がなかった。
「ユミナちゃん。私はサーシアちゃんを、我が家に招待したいのよ」
「あっ、それは良いですね」
「サーシアちゃん。王都の屋敷に来てくれる?」
「うーん。仕事もあるし、パパやママに聞いてみないと。それに、専用の調理器具が必要だよ」
「その穴の沢山開いた鉄板ね。何処で手に入るの?」
「パパが作ったの!」
「そう。それでは招待の件と一緒に、ニコル君に頼んでみましょう」
「うん」
「ところで、ニコル君はどうしてるのかしら?」
「妹の面倒を見てます」
「そう。ちゃんと、家族と過ごしているのね」
ソフィアは、ニコルが行商を止める理由を聞いていた。
「バロン君は、《亜空間ゲート》で王都から来たの?」
「うん」
「王都では、何してるの?」
「学園の初等科に通って、勉強してる」
「勉強してるんだ。偉いね!」
「サーシアも、学園に通ったら良いよ」
「サーは平民だし、王都の学園なんて無理だよ」
「そんな事無い。学園には平民もいる!」
「へー、いるんだー」
「優秀なら、将来上級職に就く事だってできる!」
「上級職って何か分からないけど、サーはこの村の生活に満足してるよ」
「外に出てみないと、経験したり知り得ない事なんて沢山ある!」
「そうかもしれないね」
「それじゃ」
「だーめ。サーは、家族と一緒がいいもん」
「そんなっ!」
「バロン、諦めなさい」
「母上っ!」
「しつこいと、格好悪いわよ」
「ハッ!」
バロンはサーシアの顔を窺った。
するとサーシアは、『ニッコリ』と微笑んだ。
「分かりました。今日はこれ以上言いません」
バロンはサーシアとの《学園生活》を夢見ていたが、直ぐにはどうにもならない事を悟った。




