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神様候補の転生者は異世界のんびり生活を所望する  作者: sato
第九章 二コルと家族編
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第十七話 シロンの旅③

私は屋敷にいた悪党共の意識を奪うと、耳を澄ました。


「んーんー!」


「マーサは二階ニャ!」


『タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!』


呻き声が聞こえ、私は階段を駆け上がった。


「この部屋ニャ!」


『スー!』


捉えられている部屋を特定すると、私は《壁抜け》スキルで扉を擦り抜けた。

するとそこには、手足を縛られ目隠しと猿轡をされたマーサが横たわっていた。



私は爪に《雷刃》を纏わせ、足・手・口の順で縛っている縄を切っていった。


「えっ、誰っ?!」


「ニャー!」


「猫の鳴き声?!」


マーサは残った目隠しを、自分の手で外した。


「ニャー!」


「ミルク? あなたミルクなのね! 会いたかったー!」


マーサは嬉しそうに私を抱きかかえ、頬擦りをした。

そして、部屋を見渡した。



「あれっ、誰もいない。誰が縄を切ってくれたの?」


人がいない事に、マーサは奇妙な感覚に陥った。


「ニャー!」


「あっ、そうだ。逃げないと!」


鳴き声を聞き我に帰ると、マーサは私を抱え恐る恐る部屋を出た。

そして階段を下りると、一階の廊下に男達が倒れていた。


「えっ! 死んでる? でも、血は出てないみたい」


勇気を出して玄関へ向かうと、リビングにも男達が倒れているのが窺えた。



「一体、誰が?」


マーサは周りを見渡したが、それらしい人物は見当たらなかった。

そして、私に視線を移した。


「まさか、ミルクが倒したの?」


「ニャー?」


私は鳴きながら、あざとく首を傾けた。


「可愛いっ。でも、そんな筈無いわよね!」


マーサは警戒しながら玄関に到着し、外に出る事に成功した。



「この馬車、借りちゃって良いよね?」


そう呟きながら、マーサは御者台に座った。

馬車の扱いは、父親との旅で慣れている。


「兎に角、広い通りに出なくっちゃ!」


私を横に座らせると、マーサは馬車を走らせた。



「あっ、この道知ってる!」


マーサは家に帰れる安心感から、笑みを浮かべた。


「でもミルク、どうしてあんな場所にいたの?」


「ニャー?」


私は再び、あざとく首を傾げた。


「ミルクもあの人達に、捕まったのかな?」


「ニャー!」


「でも良かった。ミルクにまた会えて。今度は逃げないでね」


「・・・・・!」


私はその言葉に、返事を返す事ができなかった。



暫くすると、馬車はマーサの自宅に到着した。

すると玄関前で、母親が待ち構えていた。


「マーサ、探したんだよ! 一体、何処に行ってたんだい?! それにその馬車、どうしたのさ?!」


「ミルクを探してたら、男の人達に誘拐されたの。馬車は逃げるのに、借りちゃった」


「誘拐っ?!!」


母親は血の気が引き、へたり込んでしまった。


「お母さん!」


「良かったよー、無事で。何もされてないかい?!」


母親は座り込んだまま、顔を上げマーサに語り掛けた。



「うん、大丈夫」


「どうやって、逃げて来たのさ?!」


「誰かが、助けてくれたの」


「誰かって、その人はどうしたんだい?」


「手足と口の縄を切ってくれて、私が自分で目隠しを外すといなくなってたの。でも十人以上の人を、倒してくれたんだよ!」


「何だいそりゃ。不思議な話しだね?!」


「不思議と言えば、目隠しを外したら目の前にミルクがいたの!」


「ミルクって、マーサが連れて来た子猫かい?」


「うん。あれっ、ミルクは?!」


「母さんは、見てないよ」


「ミルク、何処にいるの?!」


マーサは、馬車の中や周りを探した。

しかし、見付からなかった。


私はこっそり馬車から降り、隠れていた。



「ミルクー! 出ておいでー!」


するとマーサは、また私を探しに行こうとした。


「マーサ、行っちゃ駄目だよ! また誘拐されたら、どうすんだい?!」


「でも・・・・・」


「あんたを探しに行ったお父さんが帰って来たら、一緒に行きな」


「うん」


マーサは渋々、母親の言う事に従った。



父親が帰って来て事情を説明しても、ミルクを探しに行く事にはならなかった。


「ミルクは後回しだ。衛兵の所へ行くぞ!」


「嫌っ! ミルクを探しに行くっ!」


「また誰かが拐われたら、どうする?! それがカイルって事も、有り得るんだぞ!」


母親に抱き付くカイルに、マーサは視線を移した。


「・・・分かった」


この後親子は、衛兵を引き連れ悪党共を捕まえに行く事となった。

マーサは、その道案内役を務めた。


屋敷に到着すると、誘拐犯達は意識を取り戻していた。

しかし体の自由が利かず、全員捕らえる事ができた。


「ミルク、何処行っちゃったの?」


帰宅後ミルクを探したが、見付ける事はできなかった。



二日後、私は国境を越えエステリア王国に入国した。


そして、とある十字路に差し掛かった。


「ここからは、南ニャ。真っ直ぐ行ったら、いずれ魔物の巣窟ニャ」


私は馬車を飛び降り、進路を変えた。


「南へ行く馬車、来ないかニャ?」


「ピキャーーー!」


『バサッ、バサッ、バサッ!』


馬車を待ちながら歩く私を、鷹が襲った。


「ニャー!」


『バシッ!』


私はその気配に気付き、猫パンチで応酬した。

すると鷹は、一発で伸びてしまった。



「ニャー!『起きるニャ!』」


私は鷹の背に乗って、ひっぱたいた。


「ピキャー!『いってー!』」


「ニャニャニャー、ニャニャ!『大人しくしないと、殺すニャ!』」


「ピー、ピキャー。ピキャピキャー!『ヒー、分かった。言う事を聞くー!』」


「ニャーニャニャ、ニャニャーニャ!『このまま飛んで、南に行くニャ!』」


「ピキャピキャピキャー、ピキャピキャピキャ!『お前が子猫だからって、飛べる訳無いだろ!』」


「ニャニャニャ?『嘘じゃないニャ?』」


私は《雷刃》を、首元に近付けた。



「ピキャー!『本当ですー!』」


「ニャニャニャーニャ!『使えない奴ニャ!』」


「ピキャー!『許してー!』」


「ニャニャーニャニャ!『もう行っていいニャ!』」


そう言って、私は鷹の背から飛び下りた。


『バサッ、バサッ、バサッ!』


「ピキャーーー!!『助かったーーー!!』」


鷹は慌てて、飛んで逃げた。


「やっぱり、地道に行くしかないニャ」


私はそう呟きながら、南に向かって歩いた。

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