第十六話 シロンの旅②
マーサ親子の馬車は都合良く西へ進み、私は共に旅を続けた。
二人は人柄が良く、毎回食事に肉を食べさせてくれた。
『モフモフ、モフモフ!』
「ミルクって、ホント可愛い!」
「ニャー!」
旅の間、私はずっとマーサにモフられていた。
『ヒヒーン!』
「マーサ、家に着いたぞ!」
「あっ、ホントだ!」
「気付かないなんて、マーサはミルクに夢中だな」
「だって、可愛いんだもん!」
「父さんは店に行って、仕入れた商品を下ろしてくる。マーサはお母さんとカイルに、ミルクを見せてあげなさい」
「はーい!」
到着した場所はユンベルグ辺境伯領で、ダンジョンのあるオーエン街だった。
◇
「お母さーん、カイルー、ただいまー!」
「マーサ、お帰りなさい!」
「おねーちゃん、おかえりー!」
「あら、マーサ。何を抱えているの?」
「じゃーん!」
マーサは腕を突き出し、私を二人に披露した。
「ネコだー!」
弟のカイルは、声を張り上げて喜んだ。
「さわってもいい?」
「優しくだよ」
「わー!」
カイルは、優しく私の頭を撫でた。
「かわいいー!」
「まだ、子猫ね。どうしたの?」
「いつの間にか馬車に乗ってて、そのまま連れて来ちゃった!」
「そんな高貴な猫、貴族様の猫だったらどうするの?」
「だって置いて来たら死んじゃいそうで、可哀想だったんだもん!」
「しょうがないわね。ちゃんと面倒見るのよ!」
「うん!」
私は二人の会話を聞き、『ご主人の所へ行くから、飼われる訳にはいかないニャ』と思った。
「ニャー!」
私は身を捩って、マーサの手の中で暴れた。
「あっ、ミルク!」
『シュタッ! タッ、タッ、タッ!』
私はマーサの手から飛び降り、そのまま逃げた。
「ミルク、何処行くの?! 待って! キャッ!」
マーサは追い掛けようとしたが、転んでしまった。
「許してニャ。情が移る前に、お別れニャ!」
私は走りながら、そう呟いた。
◇
「お腹空いたニャ。ご飯食べてから、出てくれば良かったニャ」
オーエン街は人が多く、賑やかだった。
繁華街の方からは、食べ物の良い匂いが漂ってくる。
「ミルク、何処にいるのー?!」
マーサの声がした。
必死に、私を探している。
「屋台でご飯をねだる暇は、無いニャ」
お腹が空いていたが、今はマーサから距離をとる方を優先した。
「キャー! 助けてー!」
「マーサの声ニャ!」
そんな矢先、《超聴力》スキルがマーサの叫び声を拾った。
「何があったニャ?!」
私は心配になり、来た道を引き返した。
「んーーーっ!」
「あっちニャ!」
口を塞がれたマーサの呻き声がし、私はその方向へ急いだ。
◇
「へっへー、上手くいったぜ!」
「あんなところで出くわすなんて、ついてたな!」
「これで商会から、身代金をたんまりせしめられるぜ!」
マーサは二人組の男に捕まり、麻袋に入れられ馬車に乗せられた。
そして馬車は、そのまま走り去ってしまった。
実はマーサの父親の実家は、この街で大きな商会を営んでいた。
マーサの父親は次男だが、商会で要職に就いていた為目をつけられていた。
『クンクンッ!』
「ここでマーサは捕まったニャ。二人の男の臭いがするニャ」
『クンクンッ!』
「男達の臭いが、ここで消えたニャ! 馬車ニャ! マーサは馬車に乗せられたニャ!」
私は急いで、馬車の臭いを追い掛けた。
◇
追跡しやっと辿り着いたのは、街外れにある二階建ての大きな一軒家だった。
ここまで来れたのは、《超嗅覚》スキルのお陰である。
「馬車が停まってるニャ!」
その馬車からは、追って来た臭いがした。
「他にも、馬がいっぱいいるニャ!」
この事から人攫いのアジトには、大勢潜伏している事が示唆された。
「奴等一体、何人いるニャ?」
幸い、家の外に見張りはいなかった。
私は家に近付き、聞き耳を立て人数を調べた。
「ざっと、十一人といったところニャ。一か八か行ってみるニャ!」
『スー!』
私は《壁抜け》スキルを使い、建物へ忍び込んだ。
するとリビングで、男達が寛いでいた。
「何でこんな所に、子猫がいる? 誰か入れたのか?!」
「いいだろ猫くらい。可愛いじゃねーか」
「ちっ、俺は猫が嫌いなんだよ!」
「ははっ、可哀想に。ほら、こっち来い!」
「ニャー!」
「怖くないから、逃げるなって!」
『ビリビリビリビリッ!』
私は《雷属性魔法》を、男に放った。
「ウギャーーー!」
『バタンッ!』
「おいっ、どうした!」
『ビリビリビリビリッ!』
「ウギャーーー!」
『バタンッ!』
「何だ! 一体、何が起こった?!」
突然悲鳴を上げ倒れる仲間に、悪党共は臨戦体制になった。
「あの猫だ! あの猫が魔法を放ちやがった!」
「何バカ言ってんだ? そんな筈ねーだろ!」
「俺は見たっ! 油断するな!」
「お前、頭イカれちまったのか?」
『『『ビリビリビリビリッ!』』』
「「「ウギャーーー!」」」
警戒され、私はこの部屋にいる全員の意識を奪った。
だが騒ぎを聞き付け、他の部屋にいた仲間達が集まって来た。
「「何事だ?!」」
『『ビリビリビリビリッ!』』
「「ウギャーーー!」」
しかしそいつらの意識も、一瞬の内に奪ってしまった。




