第十五話 ニコルの日常
今日はエミリアと散歩しながら、村の様子を見て回った。
《のんびり》過ごすと言っても、やはり人目が気になった。
畑や養鶏場、学校や工房等で困った事があれば手助けした。
「パパ、すごーい。なんでもできちゃう!」
「ありがとう」
「エミリアもできる?」
「錬金術かー。パパの娘だから、練習すればできるかもよ」
「じゃー、やるー!」
「それなら、基本からやってみようか?」
「はーい!」
「先ずは、《魔力感知》からだ」
「《まりょくかんち》?」
「人間の体の中にはね、《魔力》があるんだ。それを感じられないと、錬金術に必要な魔力を操作する事ができないんだよ」
「パパ。なにいってるか、わかんなーい!」
「ごめんごめん。エミリア、手を貸してごらん」
「はい!」
僕はエミリアの両手を取り、僕とエミリアの体の中の魔力を循環させた。
「あったかくなったー!」
「今エミリアとパパの体の中を、魔力が動いてるんだ」
「うごいてるのわかるー!」
「それが分かるなら、エミリアには《魔力感知》の才能がありそうだ」
「さいのー?」
「『上手にできる』って事だよ」
「そうなのー!」
「さっきも言ったけど、錬金術はこの魔力を自由に操れる事が大事なんだ」
「ふーん!」
「それじゃ、こうやって掌に魔力を集めてごらん」
僕は左手を離し、掌に魔力を集めた。
「わー、ひかってるー! でも、どうやるのー?」
「最初はパパが手伝うから、右手を上に向けて開いて」
「こう?」
エミリアは小さい手を、可愛らしく広げてみせた。
「うん、そのままにして。いくよ」
僕は繋いだ方の手から、《魔力操作》でエミリアの右手の掌に魔力を集めた。
「すごーい! ひかったー!」
「何となく、分かったかな?」
「やってみるー! ・・・・・えーい!」
そう言って右手の掌を見つめ、気合を入れた。
『ホワーン!』
すると掌が、うっすらと光り出した。
「やったー! できたー!」
「凄い! エミリアは天才だ!」
エミリアはこの歳(四歳)で、《魔力感知》と《魔力操作》のスキルを手に入れてしまった。
「エミリア。《魔力操作》を毎日練習して、もっと上手になったら錬金術の勉強をしような」
「うん!」
僕の錬金術は、異質である。
エミリアが錬金術師になるには、才能の他に一般的な《調合》や《錬成陣》や《錬成道具》等について学ぶ必要があった。
そして今日が、エミリアが錬金術師を目指す切っ掛けの日となった。
◇
昼食後。
「ミーリア、エミリアを頼むよ」
「いいわよ」
午後は学校を終えたレコルとの剣術が、日課になっている。
近所の子供達も自然と集まって来るので、一緒に相手をしている。
「掛かって来い!」
「今日はパパから一本取るぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
『『『『『タッタッタッタッ!』』』』』
「「「「「ヤー!」」」」」
『ガンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!』
他の子に比べ、レコルの打ち込みが力強い。
「「「「「オリャー!」」」」」
『ガンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!』
「「「「「エイヤー!」」」」」
『ガンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!』
連携して打ち込んでくる木剣を、僕は暫く受け流した。
「「「「「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・!」」」」」
「どうしたお前達。そんなものか?!」
『キッ!』
僕の言葉に反応し、レコルの目付きが変わった。
「まだまだー!」
『ダッ!』
『ガガンッ!!』
「良い踏み込みだ!」
『ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ・・・・・・・・・・!』
レコルはギヤを上げ、連続攻撃を放ってきた。
「始まっちゃったな」
「こうなると、俺達入っていけないよなー」
「やっぱり、レコルは凄いぜ!」
「「「そうだな」」」
レコル以外の子供達は、立ち竦んだ。
「おい、お前達も攻めろよ!」
「無理、無理。俺達のレベルじゃ、レコルの邪魔になる」
「おじさんには、お前の後相手して貰うよ!」
「情けないぞ!」
「「「「そんな事、言ったってなー!」」」」
「よーし、僕が鍛えてやる!」
「「「「うわー、逃げろー!」」」」
レコルは子供達を、追い掛けて行った。
「やれやれ、今日は終わりかな?」
そう呟き、僕は家に帰った。
◇
夕食までの間は、サーシアとの魔法の練習が日課になっている。
まだ子供という事もあり、仕事は大人より早く終わる。
サーシアの他に、魔法の才能のある子二人も一緒である。
「パパ、それ本当?」
サーシアに、エミリアが《魔力操作》ができる様になった事を伝えた。
「本当だよ」
「私より早い!」
「そうだね」
「流石に、《魔法言語》はまだよね?」
「まだ教えてないよ。今は魔法より、錬金術に興味を持ってる」
「妹に負けてられないわ。パパ、いつものお願い!」
「ああ」
攻撃魔法を使うのに、《的》と《結界》を用意してやった。
「***** ******* ***** ******* ******* 炎槍連射!」
『ボガッ、ボガッ、ボガッ、ボガッ、ボガッ、ボガッ、ボガッ、ボガッ、ボガッ、ボガッ!』
「「サーシア、凄い!」」
「こんなのまだまだ。的が綺麗に残ってるもの!」
「あの的、《ミスリル製》だよ!」
「関係無いわ!」
「「凄い意気込み!」」
「そんな事言ってないで、二人もやりなさい!」
「「ブー、分かったわよー!」」
サーシアはいつにも増して、気合いが入っていた。
僕は仕事を減らし、こんな風に家族と過ごす時間が多くなった。
『あれっ、奥さんとは?』と、思った方。
大丈夫です。
ミーリアとは子供達が寝静まってから、ちゃんと仲良くしてるので。




