第十四話 シロンの旅①
私はご主人に再び会いたくて、生まれた《アルシオン王国》の貴族の家を飛び出した。
そして馬車を乗り継ぎ、《エステリア王国》を目指した。
しかし今は馬車の乗り継ぎが上手くいかず、街道を歩いていた。
「野良は、ひもじいニャ」
人間の頃の記憶が邪魔をし、食べられる物が限られていた。
ここまで鳥や川魚を捕まえて食べたが、いつも近くにいるとは限らなかった。
食べ物を確保できなければ、飢えて死んでしまう。
私は、そんな過酷な環境にいた。
「モン○チー、ちゅ○るー!」
人間の頃、飼い猫に与えていた餌を思い出し叫んだ。
「神様。カリカリでいいから、恵んで下さいニャ!」
お腹が空き過ぎて、私は変な言動をする様になった。
『パタパタパタパタッ!』
「ハッ、バッタニャ。バッタって、食べられるかニャ?」
空腹に耐えられず、そんな思考に陥った。
「えいっ!」
猫パンチを繰り出し、飛んで来たバッタを仕留めた。
『パクッ! ムシャムシャ!』
「初めて食べたけど、食べられない事は無いニャ」
『ピョーン!』
「えいっ!」
再び猫パンチを繰り出し、跳ねるバッタを仕留めた。
『ジリジリジリジリッ!』
今度は《雷属性魔法》で、焼き目をつけた。
『パクッ! ムシャムシャ!』
「香ばしくて、生よりいけるニャ!」
この時バッタが、私の食べられる物リストに加わった。
◇
翌朝街道をゆっくり歩いていると、後ろから馬車がやって来た。
飛び乗ろうと道の端で待つと、馬車は盗賊に追われていた。
「面倒だけど、助けるニャ!」
私は逃げる馬車に、飛び乗った。
「オラー! 馬車を停めやがれー!」
「誰が停めるか!」
「お父さん、恐いよー!」
「大丈夫だマーサ。父さんの魔法の杖を取ってくれ!」
「うん!」
マーサと呼ばれた少女は、荷台にある箱を開けた。
「あった!」
マーサは杖を見付け、手に取った。
「お父さん、はいっ!」
「ありがとう。マーサはしっかり、荷台に掴まってなさい!」
「うん!」
父親は杖を構え、呪文を唱え始めた。
「***** ******* ****** ******* ******* 空気壁!」
『ドシーン!!』
「ヒヒーン!!」
「うあぁぁぁっ!!」
盗賊が乗った馬が転倒し、盗賊はそのまま落馬した。
「魔法が使えるニャ! もしかして、助ける必要無いかニャ?」
「気を付けろ! この商人、魔法が使えるぞ!」
「お前ら、馬車を囲め!」
「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」
「くっ! ***** ******* ****** ******* ******* 風刃!」
『ザクッ!』
「うぎゃーーー!!」
「てめえ、良くも仲間を!」
反対側にいた盗賊が馬を走らせながら、剣を振り下ろした。
『ガイーン!』
それを咄嗟に、魔法の杖で弾き返した。
その杖は、《ミスリル》でできていた。
「***** ******* ****** ******* ******* 風刃!」
『ザクッ!』
「うぎゃーーー!!」
「くそっ! こうなったら、馬車をを燃やしちまえ!」
「積み荷まで燃えちまうが、良いのか?」
「逃げられたら、そんな事言ってらんねーだろ!」
「チッ! ***** *******」
「させないニャ。《雷》!」
「「「「「「「うぎゃーーー!!」」」」」」」
「「「「「「「ヒヒーン!!」」」」」」」
私は追い掛けて来る盗賊を、全てやっつけた。
◇
「あれっ? 静かになったぞ」
「お父さん。盗賊達、追い掛けて来ないよ!」
「本当か?」
「うん!」
「そうか、助かったんだ」
父親は、馬車の速度を緩めた。
「ニャー!」
「あっ! 猫ちゃん」
「ニャー!」
「可愛い。でもどうして、ここにいるの?」
そう言って少女は、私を抱き上げた。
「お父さーん。荷台に猫ちゃんがいたよー!」
マーサは父親に、私を見せた。
「ニャー!」
「おかしいな。いつ紛れ込んだんだ?」
「分かんない。ねー、飼っても良い?」
「そんな高貴な猫、貴族の飼い猫かもしれんぞ」
「えー、飼おうよー!」
「うーん? 後で問題になっても困るから、飼い主が見付かるまでの保護だったら良いぞ」
「それじゃ飼い主が見付からなければ、うちの子にして良いんだね?」
「そういう事になるな」
「やったー! 貴方女の子ね。名前は《ミルク》よ」
「ニャー!」
私はこの父娘と、暫く旅をする事にした。
◇
「ミルク、ご飯よ」
出されたのは、トウモロコシである。
「どうしたの? 食べないの?」
私はこの時、肉が食べたかった。
「ニャー!」
「あっ、駄目。貴方、私の干し肉が食べたいの?」
「ニャー!」
「駄目よ、駄目駄目。干し肉は塩分が強いから、体に悪いわ!」
「マーサ。積み荷に塩の使っていない干し肉があるから、そちらを少しあげなさい」
「いいの?」
「ああ」
「ミルク。ちょっと、待っててね」
「ニャー!」
マーサはほぐしたトウモロコシに、干し肉を入れてくれた。
私はそれを、全部たいらげた。




