第十三話 親戚は大丈夫よね?
プレハブ小屋で買い物をしていたエマとソフィアに、窮地が訪れた。
二人はマイクから、『店の事を他に広めない様に。破ったら、取り返しのつかない事になるぞ!』と、忠告を受けていたからだ。
「おば様方はこの小屋で、何をなさってらっしゃるの?」
「何って」
「ねー」
「怪しいですわねー!」
「エマさん、ソフィアさん。私達、お友達でしょう。隠し事なんて酷いわ!」
「ソフィア、どうしよう?」
「どうしましょう?」
二人は顔を、見合わせた。
『ガチャッ!』
そこへ二人の様子を見に、ダニーがプレハブ小屋から出て来た。
「お二人共、どうされました? えっ!」
そしてその状況に、驚きの声を上げた。
「あら。先程一緒に歩いて行った男性ですわ!」
「まさかっ!!」
「『まさかっ!!』て、リリーシア何馬鹿な事想像してるの!」
「だって、教えて下さらないんですもの!」
「リリーシアさん。私達はお買い物をしていただけですよ」
「こんなお店の裏で?」
「ええ、訳があって」
「何を購入しているのか、気になりますわ。私達も御一緒して良いかしら?」
「それはー」
「私達の一存ではねー」
ソフィアとエマは、振り替えってダニーの顔を窺った。
「えっ! 私ですか?」
普段冷静沈着なダニーだが、兵士を従えている高貴な女性達にビビっていた。
「そうよ!」
「どうしたら良いかしら?」
「私が店主から聞いているのは、グルジット伯爵家とラングレイ伯爵家の縁の方であれば良いと」
「そうなの? それなら《親戚》は大丈夫よね?」
「多分・・・・・」
そう返事をしたものの、その範囲の曖昧さにダニーは不安になった。
「良かった! グルジット伯爵家とノーステリア大公爵家は、親戚ですもの!」
「ノーステリア大公爵家?!」
「リリーシアさんの孫のドナルド国王陛下は、私の孫バロンちゃんの弟なんですもの!」
「ソフィア様のお孫様が、国王陛下の兄君・・・・・」
ダニーはその事実を、知らなかった。
「そして此方のアリーシアさんは、国王陛下のお母様よ。問題無いわよね?」
「こっ、こっ、国王陛下の母君でらっしゃいますか?! どっ、どうぞ買い物をなさって下さい!」
ダニーはこの面子に、断る事などできる筈もなかった。
◇
エマが商品を手に取り、リリーシアとアリーシアに説明を行った。
「そんなに、この化粧水が良いの?」
「一度、試してみて。今までのと、全然違うから!」
「確かにお二人の肌、とても綺麗だわ!」
「お母様。お二人の髪も、艶々ですわ!」
「アリーシアさん。それはこのシャンプーとコンディショナーのお陰よ!」
「そうですの? 私、是非購入いたしますわ!」
こんな調子で、リリーシアとアリーシアへ商品説明が長々と始まった。
「はぁ・・・・・」
ダニーは今後もこんな気苦労が絶えないのかと、胃を痛くした。
◇
僕が二週間振りにフロリダ村の店を訪れると、ダニーからやつれた顔で報告があった。
「そんな事があったのか?!」
「はい。国王陛下の母君までいらっしゃるとは、思ってもみませんでした!」
「大変だったな。まあ今回のお二人はしょうがないとして、これ以上増えても困るな」
「はい」
「『親戚だからと言って広められると、商品が品切れになりますよ!』とでも言って、それとなく脅してくれないか?」
「俺がですか?!」
「できないのか?」
「いえ、やります」
「良し。店の売り上げが伸びた事だし、三人には後で《ボーナス》をあげよう」
「ありがとうございます」
貴族や王族相手に酷だが、店を任せているダニーには悪い結果になっても僕が責任を取るので頑張って欲しい。
◇
お昼時の一時間は、従業員の休憩の為いつも店を閉じている。
僕は商品の補充を終えると、とある準備をしながらお昼休みになるのを待った。
そしてお昼になって客がいなくなり、落ち着いたところで三人にボーナスを配った。
店長のダニーには《百万マネー》、サムとルーシーには《七十五万マネー》を渡した。
「わー、こんなにー!」
「すげえー!」
「ニコルさん、ありがとうございます!」
「王都からの客も来て忙しいと思うけど、宜しく頼むぞ!」
「「「はいっ!」」」
「さあ、お昼御飯にしよう。今日は僕が作った!」
「「やったー! ニコルさんのご飯だー!」」
「久し振りに、ニコルさんの料理が食べられる!」
休憩所へ行くと、テーブルには料理が並んでいた。
「さあ、食べよう!」
「「いただきまーす!」」
「いただきます」
「《唐揚げ》、美味しそー!」
「俺も、唐揚げ食うぞー!」
「それじゃ、俺も」
僕は三人が、唐揚げが好物なのを知っていた。
『『『モグモグモグッ!』』』
「「「美味しい!!」」」
「こんな美味しい唐揚げ、初めて!」
「美味過ぎて、涙が出てくる!」
「この深い旨味、これは《鶏》の唐揚げではありませんね?!」
「ダニー、良く分かったな。《コカトリス》の唐揚げだ!」
「「「コカトリス?!」」」
「それって、プラークダンジョンの《ボス》ですよね?」
「だから美味いんだ!」
「こんな高級食材、俺達に振る舞って良いんですか?」
「ああ。みんな頑張ってるからな」
他にも海鮮チャーンやサラダやスープを味わいながら、三人は満面の笑みを浮かべた。




