第十一話 シロン転生
私は前世のシロンの記憶と前前世の記憶を持ったまま、再び《猫》として《転生》した。
《人間》として《ご主人》の傍にいたかったがそれが叶う事は無いし、私が成人する頃にはご主人は五十歳を越えている。
だったら猫としてもう一度ご主人のそばにいる方が、幸せだと思ったの。
そんな理由で《神様》に選択を告げ、この世に生を受けてから三ヶ月が過ぎた。
猫も三ヶ月になれば自由に動き回れるようになり、前世のステータスを引き継いでいるので力を持て余していた。
「《ブランカ》は、他の子達よりとても元気ね!」
「ニャー!」
「それに、体の成長も早いわ!」
「ニャー!」
今の私は、ブランカと呼ばれている。
前世と同じ白色の長毛種で、目の色はオッドアイとは違い青一色だった。
そして私に話し掛けているのは、今の飼い主。
貴族のお嬢様である。
お金持ちなだけあって、住環境は良く美味しい物を食べさせてくれる。
だけどやっぱり、《チートで金髪イケメン》のご主人の魅力には敵わなかった。
『どうやって、ご主人の所へ行こう?』と、日々そればかり考えていたが、未だ此処が何処か分からずにいた。
◇
だが数日後、この場所がエステリア王国の東の隣国《アルシオン王国》だという事が分かった。
「西へ向かえば、エステリア王国に辿り着けるニャ!」
私はリスクを省みず、ご主人の元へ行く決心をした。
「みんな、お別れニャ。私は屋敷を出て行くニャ(※以下の会話、猫語)」
「ブランカ。屋敷を出るって、何処へ行くつもり?!」
「最愛のご主人の所ニャ」
「何を言ってるの? この屋敷には、貴方を可愛がってくれるご主人様がいるじゃない!」
「ママ。本当のご主人は、別にいるニャ」
「貴方が何を思って言っているのか分からない。でも親離れするには、まだ早いわ!」
「そんな事無いニャ。もう《おっぱい》は、とっくに卒業したニャ」
「それはそうだけど、扉も窓も閉まってるし何処にも行けないわよ!」
「問題無いニャ」
「どう言う事?」
「・・・・・みんな元気でニャ」
そう言い残し、私は屋敷の壁をすり抜けた。
「えっ!」
「「「「おねーちゃん、いっちゃヤダーーー!」」」」
弟や妹達の叫ぶ声が聞こえたが、戻る事はなかった。
私は屋敷を飛び出し、兎に角西へ向かった。
◇
「お腹空いたニャ!」
《野良》となったこれからは、食事は自分で確保しなければならなかった。
「チュウ、チュウ!」
視線の先に、ネズミが現れた。
今の私なら体は小さくても、簡単に捕まえられる。
「でも、ネズミは嫌ニャ!」
しかし人間の頃の記憶が、それを食べるのを拒んだ。
幸いにも街中にいたので、人を選んで屋台に近付いた。
「ニャー!」
「あら、可愛い子猫じゃないかい? 」
「ニャー!」
「お腹が空いてるのかい?」
「ニャー!」
「それなら、調理前の生肉をやるよ!」
そう言いつつおばさんは、鶏の生肉を細かく切って皿に出してくれた。
『ムシャ、ムシャ、ムシャ!』
「人懐っこいけど、飼い猫かね?」
『ムシャ、ムシャ、ムシャ!』
「あんたに聞いたって、分かりゃしないね?」
『ムシャ、ムシャ、ムシャ!』
「飼ってやりたいけど、私のところは余裕無いんだよ。ごめんね!」
『ムシャ、ムシャ、ムシャ!』
「ニャー!」
食べ終わると、私は礼を言ってその場を離れた。
「行っちゃうのかい?」
「ニャー!」
おばさんの問いに返事をし、再び歩き始めた。
◇
街を歩いていると、男達に追われた。
「捕まえろ! そいつは高く売れるぞ!」
「分かってる。待ちやがれー!」
「おい、そっち行ったぞ!」
『スタタタタッ!』
「しつこいニャ!」
しかし子猫とは思えない素早さで、男達をかわした。
「ハー、ハー、ハー!」
「なんてー、すばしっこいんだ!」
「あれ、本当に子猫か?!」
少し本気を出したら、男達を簡単に引き離してしまった。
「やっと諦めたニャ」
『ガラガラガラ・・・・・!』
そこに、馬車が通り掛かった。
「丁度良いニャ!」
『ピョン!』
私はその馬車の荷台に、飛び乗った。
そしてその後も馬車を乗り継ぎながら、街の外へ出た。
やはり長距離となると、この方が楽なのである。
◇
時は夕暮れを迎えようとしていた。
「お腹空いたニャ」
「うっしっし。たんまり儲けたわい!」
馬車の持ち主は、強欲そうな商人だった。
この男にご飯を強請っても、捕まえられて売り物にされそうである。
「こいつは駄目ニャ」
『ピョン!』
私は試す事無く諦め、ご飯を調達しに馬車を降りた。
「雀がいるニャ。抵抗あるけど、背に腹は代えられないニャ。《雷》」
『ビリビリビリビリッ!』
「チュチュチュチュチュチュチュチューン!」
『コロッ!』
雀は《雷属性魔法》の一撃で、見事仕留めた。
「《雷刃》」
そして雷で刃を作り、器用に捌いた。
羽は少し焦げていたが、中身の方は生だった。
「やっぱり生より、焼き目がついてた方が良いニャ。《放電》」
右手に雷を纏わせ肉に翳すと、焼き目がついていった。
「これなら、食べられるニャ」
『ムシャ、ムシャ、ムシャ!』
「まあまあ、いけるニャ」
食事を済ませると、私は安全に眠れる寝床を探した。




