第八話 フロリダ街の視察①
マイク・グルジットがフロリダ街に到着してから、三週間が経過した。
到着当日ニコルの店を出てからは、ソフィア夫人達と温泉と豪華な食事を満喫している。
そして翌日王城に出向き、目的地に到着した事をノーステリア大公爵に伝えた。
後日日程が決まり、今日ついに《亜空間ゲート》を設置する為の視察団がフロリダ街の役場に訪れた。
「陛下、御待ちしておりました。フロリダ街の代官を務めます、男爵のイアン・リートガルドでございます」
「リートガルド男爵。発展著しいこのフロリダ街を、この目でしっかり視察を行う。案内を頼む」
「畏まりました」
若いドナルドは、国王らしく振る舞おうと気を吐いていた。
この舞台を作ったグルジットは、リートガルド男爵の後ろに控え彼の補佐役を務める事になった。
またグレン・ラングレイも、国王の護衛として同行している。
「皆様。これから繁華街を通り、ダンジョンへ向かいます。外に用意した馬車にお乗り下さい」
視察団総勢十五人と案内役の二人は、役場のロビーを出て三台の馬車に乗り込んだ。
「馬車を、やってくれ」
「はい」
リートガルド男爵の号令で、馬車は護衛の十騎の騎馬と共に走り出した。
◇
人々の視線は、馬車と騎馬の列に向けられた。
「何だあれ。何処かの大貴族様か?」
「お前、知らなかったのか? 国王陛下と大臣様達だよ!」
「こんな所に国王様って、冗談だろ?!」
「冗談な訳あるか! マジだから、膝をついて頭を下げるぞ!」
「おっ、おっ、おっ、おうっ!」
今日国王率いる視察団が来る事は、街の住民達に通達されていた。
馬車の列に気付いた者達は、次々と膝をつき頭を下げていった。
「私は新旧王都とノーステリア大公爵領しか知らないが、良い街というのが伝わってくる」
「ありがとうございます」
「リートガルド男爵は、何もないところから十数年でこの街を作ったと聞いている。とても優秀なのだな」
「いえいえ。私個人の能力は大した事はございません。人材に恵まれただけです」
「優秀な人材とは、羨ましい。開拓中の王都にも、欲しいものだな」
「何を仰られます。陛下の回りには、優秀な人材が大勢いるじゃないですか!」
リートガルドは、同乗したメンバーを見渡した。
そこにはエドワードを始め、ノーステリア大公爵・ラングレイ元伯爵・グルジット元伯爵がいた。
「そうであった。私の回りにも、新しい王都を築き上げた優秀な人材が大勢いる。特に《師匠》は素晴らしい!」
「陛下のお師匠様ですか?」
「今は何処で何をしてらっしゃるか分からないが、王都の開拓は師匠のお陰で早く進んだ!」
「そうでしたか。お師匠様のお名前を伺っても、宜しいですか?」
「ああ、良いとも。師匠の名は『ヤマト』だ!」
「ヤマト殿と言えば、救国の《英雄》ではないですか!」
「その通り! 師匠は強いだけでなく、街造りにも長けているのだ!」
「知りませんでした。凄い方なのですね!」
「そうだ! しかし私が一方的に憧れ、勝手に《弟子》と名乗っているだけなのだがな。ははっ」
「はぁ、それは残念ですね」
リートガルドはドナルド国王に、『子供の一面も、持ち合わせているのだな』と微笑ましく思った。
「陛下。もう直ぐダンジョンに到着しますよ」
「うむ。ダンジョンは初めてなので、楽しみだ!」
暫くすると、馬車は《ダン防》に到着した。
◇
《ダン防》では、施設長や兵士達が出迎えた。
「ダンジョンの安全の為、日々の務めご苦労!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
「陛下。施設長のトーマス・リンデルが施設をご案内します」
「うむ、頼む」
この後リンデルに説明を受けながら、《ダン防》施設内を回った。
「あの者達が、魔物と戦う《戦士》なのだな?」
「そうで御座います」
「うむ。皆、屈強そうだ!」
「ダンジョンは資源を得るだけでなく、人を成長させる場所でもあります。彼等は一般人より、遥かに強いですよ」
「私も国民を守れる様に、強くありたいと思っている。一刻も早くダンジョンに入りたい!」
「その志し、素晴らしいです。しかし此方のダンジョンは、安全の為入場は十三歳からとなっております」
「何っ! それではまだまだ先ではないか?!」
「陛下が規律を乱したら、下々に示しがつきません。十三歳になるまで私が鍛えて差し上げますので、我慢して下さい」
「むっ、そうか。仕方ないな」
グレン・ラングレイは大臣職を退き、ドナルド国王と王城に住居を移したバロンに剣を教えている。
「ムムッ! ここでは、魔法袋の貸し出しをしているのか?」
ノーステリア大公爵が気付き、施設長のリンデルに質問した。
「はい。此方でドロップ品を買い取る条件で、安く貸し出してます。お陰で、ドロップ品の収穫量が増えております」
「安くとは、いくらだね?」
「はい。一日千マネーです」
「何と!」
「数は、幾つ用意してるのだ?」
「八十個です」
「八十だと! 良く思いきった事をしたな」
「はい。魔法袋を、賃料の半額で提供する者がいたので」
それを聞いて、グルジットはニコルの事を思い浮かべた。
「マイク殿。提供者はそんな事をして、割りに合うのかね?」
「低性能であれば、十年で元は取れるんじゃないか」
「その間、盗まれたり無くしたり破損させるリスクがある。売った方が得だと思うのだが」
「同意見だ」
「それは提供者も、承知です。心配要りません」
「そんなものなのか?」
一同は驚きつつも、この後も施設を見て回った。




