第七話 グルジット様とリートガルド様の会話
グルジット様を役場に案内するだけのつもりが、僕は何故か話しに参加していた。
「《亜空間ゲート》は《国宝級》の魔道具だ。フロリダ街は成長著しいが、《亜空間ゲート》を設置してまで交易すべきか《視察》をする事となった」
「視察ですか?」
「陛下や大臣達が、こぞって来るぞ」
「えっ! 陛下が来るのですか?!」
「そういう事で、この街の素晴らしいところをおもいっきりアピールしてくれたまえ」
「そうは言われましても、《国宝級》に見合う物となると・・・・・」
「何を言っている。この街には《国宝》とも言えるダンジョンがあるではないか。それに海にも近く、塩や魚介類が手に入る」
「そうですね。海に近いダンジョンは、王国ではこの街だけでした」
「そうだ、自信を持て。他にアピールするものはあるかね?」
「食材が豊富なので、屋台や料理店が賑わってます。それに近隣の貴族や金持ちには《温泉宿》や《海水浴》、二コルの店の《トイレットペーパー》や《ガラス窓》も人気です」
「ほう。上手くいけば王都だけでなく、近隣の領地からも消費が見込めそうだ」
「それはありがたい。塩の生産設備や漁船を増やさねば」
「どうにかなるかね?」
「ニコル。直ぐに、手配できるか?」
「可能ですよ」
「今後の動向を見て、購入するかもしれん。そのつもりでいてくれ」
「分かりました」
「ニコル君は、塩の生産設備や漁船も売っているのか?」
「既存の物は、全てニコルから購入してます」
「ほほう」
「それだけでは有りません。このフロリダ街の発展は、ニコル無しでは有り得なかった」
「成る程。そういうカラクリがあったか」
『チラッ!』
グルジット様は、僕を見詰めた。
「何です?」
「君はこんな場所でも、やらかしておったのだな?」
「いえ。少し、お手伝いしただけです」
「少しねぇ」
グルジット様は、疑いの目で見てきた。
「そう言えば、グルジット殿とニコルはどういったご関係で?」
「そうだな。彼が十五歳の頃、縁があって王都屋敷の御用商人にしたんだが、それっきり疎遠でね。数年前のあの事故で、我々が避難したのが彼のプラーク街の別荘だったのだ」
「そんな昔から、知り合いでしたか。しかし、何故ニコルの別荘へ?」
「我々を救ってくれた《英雄》がニコル君の知り合いで、偶々別荘を借りていたそうだ」
『チラッ!』
ヤマトの正体を知っているグルジット様が、ニヤ付きながら僕の顔を伺った。
「そんな偶然があるのですね」
一方リートガルド様は事情を知らず、感心していた。
「視察が上手くいけば、《ダンジョン防衛施設》に《亜空間ゲート》の設置を予定している」
「《ダン防》は国の施設ですから、私としては構いません」
「あそこには大勢の王国兵士が滞在している。《亜空間ゲート》の守備に丁度良い」
「そうですね。ところで、《馬車》はどうするつもりですか?」
「その心配なら無用だ。馬は何とか扉をくぐれるし、車体は有料で魔法袋に入れて運ぶ」
「そうですか。あと、《入都税》は掛かるのですか?」
「入都税の議論は当分先だな。今はまだ街の開発を優先しているので、無税だ」
「それは良かった。物価はどうです?」
「ノーステリア大公爵領より、少し高い程度だ。以前の王都に比べたら、随分安いものだ」
「ノーステリア大公爵領は王国一農工業が発展しているので、此方からも是非仕入れに行きたいですね」
「そうしてくれ。だが《亜空間ゲート》の通行料は、それなりの金額になりそうだ」
「どの位になりそうですか?」
「今のところ最低ラインで、人一人馬一頭につき一万マネーといったところか。馬車の車体は自分で運べば無料だが、運営側に頼めばやはり一万マネーだな」
「その金額ですと、平民は気軽に使えませんね」
「それはしょうがない。王都まで旅をするとなったら、莫大な金と時間が掛かる。それに比べれば、全然安いものだ」
「まあ、そうですね」
リートガルド様は、少し渋い顔をした。
「それでスケジュール的な事は、どうなっているのですか?」
「私は今日この街に着いたばかりだ。詳しくは、王都に戻ってからだな」
「分かりました。連絡をお待ちしてます」
「ところで、今日泊まれる宿はあるかね?」
「私の屋敷はどうです?」
「いや、兵士達も大勢いる。宿で結構」
「そうですか。それでしたら、先程話した《温泉宿》はどうですか?」
「うむ。視察を兼ねて、行ってみるのもいいな」
「温泉宿なら、私が案内します」
「すまない、ニコル」
「ニコル君、頼むよ!」
こうしてグルジット様の挨拶は、一先ず終わった。
◇
温泉宿へ行く前に、僕達は店に戻った。
「あー、良かったわ。節約して使っていた化粧水が、もう直ぐ切れるところだったのよ!」
「もういい年だから、ここのお化粧品じゃないと綺麗なお肌を保てないのよねー!」
店の裏のプレハブ小屋に行くと、エマ様とソフィア様がいた。
「ソフィアー、会いたかったぞー!」
「あらマイク君、ご苦労様。やっと到着したのね」
「結局、二ヶ月半も掛かってしまったよ。凄く寂しかったんだ!」
「でも、マイク君。あの扉を使って、ちょくちょく帰って来てたじゃない」
「本当は毎日会いたくて、我慢してたんだ!」
「はいはい。私は今忙しいから、後にしてね」
「そんなー!」
ソフィア様のグルジット様に対する扱いが《雑》なんで、少し可哀想に思えた。
「あら、ニコル君じゃない!」
エマ様と、目が合った。
「ご無沙汰してます」
「ニコル君ったら、酷いわよね。私達を蔑ろにして!」
「すみません。家族と過ごす時間を、大切にしたかったもので」
「それを言われてしまっては、返す言葉がないわ!」
「エマ。ニコル君はこうして私達の為にお店を出してくれたんだもの、感謝しなくちゃ!」
「そうね。ニコル君、感謝してるわ!」
「恐縮です」
「それじゃ、買い物に戻るわね」
「はい。どうぞごゆっくり」
ご婦人方は、再び買い物に勤しんだ。
「ダニー、ご苦労様」
「ニコルさん、お帰りなさい」
「問題は無かったか?」
「はい。ですがご婦人方のテンションには、驚きました」
「まあ、今後も頼むよ」
「分かりました」
接客を任せ、気苦労を与えてしまったダニーを労った。
そして買い物が終わる頃ラングレイ様も現れ、両御夫妻と兵士達を温泉宿に案内した。




