第六話 マイク・グルジット、フロリダ街到着
ミーリアに断り、馬車でフロリダ街へ向かった。
開拓した水田や畑を抜けて街に入り、グルジット様の要望で僕の店に寄った。
「ここが、僕の店です」
「思っていたより随分小さいが、《ガラス窓》がふんだんに使われているな!」
「ガラス窓を売る目的で建てましたからね。ここでは他に、《トイレットペーパー》しか売ってません」
「スーパーで売っていた巻紙か。あれは実に素晴らしい!」
《魔素災害》で景気が悪くなり、高額なガラス窓の売れ行きは落ちていた。
その一方で、トイレットペーパーは売れていた。
「あれっ、ニコルさん。今日はどうしたんですか?」
そこに、ルーシーが現れた。
「ちょっと、特別なお客さんが村に見えてね」
「此方の方達ですか?」
「そういう事。ルーシー、ダニーを呼んで来てくれ」
「はーい!」
ルーシーは、店へ入って行った。
「ニコル君」
「何でしょう?」
「この店でスーパーの商品を売れば、もっと儲かるのではないか?」
「そうですね。しかし今まで充分稼いでいるので、無理に売る必要はありません」
「素晴らしい商品が、世の中に出ないという事は実に勿体無い」
「利益を求めた結果、忙しくなり過ぎても困りますからね」
「商人のくせに、変わっているな」
『ガチャッ!』
「ニコルさん。お呼びですか?」
話しをしていると、ダニーがやって来た。
「ダニー。此方は元伯爵のグルジット様だ。《魔素災害》の時に縁があって、スーパーの商品を売っていた時期があった」
「店長のダニーと申します。宜しくお願い致します」
「グルジットだ。宜しく頼む」
「今度《亜空間ゲート》を使い、この街と王都で交易を始めるそうなんだ」
「《亜空間ゲート》ですか」
「それでスーパーの商品を、グルジット様ともう一方ラングレイ様の所縁の方々に売って欲しいんだ」
「という事は、店に商品を並べるのですか?」
「いや、一般に販売するつもりはない。専用の小さい小屋を用意してあるから、来店されたら店の裏に魔法袋から取り出して設置してくれればいい」
「分かりました」
《転移》や《影分身》の事や三ヶ月に一度行商に行っていた事は、ダニー達には伝えてない。
今は誤魔化しているけど、いつか話さないといけない日が来るかもしれない。
「ニコル君。早速王都から、妻達を連れて来て良いかい?」
「はい。でしたら、奥の部屋を使って下さい」
「ありがとう。部下に呼びに行かせるので、私はリートガルド男爵に挨拶したいのだが」
「分かりました。ご案内します」
休憩室に案内すると、グルジット様は魔法鞄から《亜空間ゲート》を取り出した。
そして兵士を二人送り出し、五人を見張りに付けた。
僕はその後、店の裏にプレハブを設置した。
「ダニー。後は頼んだよ」
「分かりました」
「グルジット様。私の馬車で、街役場まで参りましょうか?」
「頼む」
残りの騎士や馬や馬車を店の前に待機させ、僕達は街役場へ向かった。
◇
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、ニコルさん」
「リートガルド様にお客さんをお連れしたんだけど、いるかな?」
「はい。執務室にいらっしゃいます」
「直接行っても、大丈夫?」
「はい。ニコルさんなら、大丈夫です」
「ありがとう」
僕はこの役場で、《顔パス》になっていた。
『トン、トン!』
「何だ?」
「ニコルです」
「ニコルか。入っていいぞ」
『ガチャッ!』
「失礼します」
「今日はどうした? ん? グルジット伯爵が一緒ではないか!」
「リートガルド男爵。失礼するよ」
「はい。どうぞ、此方へ」
リートガルド様は立ち上がり、グルジット様をソファーに案内した。
「こんな所へ、どうされたのですか?」
「いやーそれはだな、今度王都とフロリダ街で交易を持とうと画策しているのだよ」
「交易? こんな遠い場所とですか?!」
「距離の問題は解決している。空間を短縮する魔道具、《亜空間ゲート》があるのだよ」
「えっ! そんな魔道具があるのですか?!」
「《国宝級》の財産を、一つだけ手に入れた」
『トン、トン!』
「お茶をお持ち致しました」
「入れ!」
話しの途中、女性職員がお茶を持って来てくれた。
「この話しは兄君のリートガルド伯爵に、事前に承諾を得ている。これが預かった書状だ」
「拝見いたします」
リートガルド様は封を開け、手紙を読み始めた。
「確かに書状には、領地繁栄の為グルジット様に協力しろと書かれています」
「言っておくが、私はもう伯爵ではない。旅たつ前、長男に家督は譲ったよ」
「そうでしたか!」
「私とラングレイ伯爵は、この計画を進める為大臣職を下り家督も譲った。何としても成功させたいのだ!」
「まだまだ現役で行けるというのに。そうまでして・・・・・」
「こうやって旅もできるし、余力を残して引退するのも良いものだ」
「はぁ」
「あのー、大事な話しが続くようでしたら、私は席を外しますが」
「「いや、此処にいてくれ!」」
「そうですか」
『二人はこの交易に、僕を巻き込むつもりだ』と感じた。




