第五話 マイクとグレンの策略
新王都の王城にて。
「マイク。話しがあるのだが」
「グレン。私もだ」
二人はお互いの悩みを、打ち明けた。
「「はぁー」」
二人は、大きな溜め息をついた。
「どうする?」
「二人で、行商人を雇うか?」
「以前もこんな遣り取りがあったな。こんな時、《亜空間ゲート》が使えれば良いのだが」
「それだ、グレン!」
「それって、どうするつもりだ?」
「《亜空間ゲート》を、理由を付けて設置すればいいんだ!」
「エシャット村にか? そう簡単にいくか?」
「設置するのは、エシャット村の隣のフロリダ街だ。あそこは塩が安く、魚介類が手に入ると聞く!」
「そう言えば、ダンジョンもあったな!」
「ああ。フロリダ街との交易を押し出せば、何とかなる!」
「それにニコルとこのまま縁が切れてしまっては、王国としても多大な損失だしな!」
「そうだ。ニコル君には悪いが、交渉のだしに使わせて貰おう!」
こうして二人は、エドワードとノーステリア大公爵の元へ交渉しに行った。
◇
「という訳だ!」
「二人の言い分は理解できるが、《亜空間ゲート》は《国宝級》だぞ。何かあったら、どうするんだ?」
「私が責任を持つ!」
「私もだ!」
「二人がフロリダ街まで、責任持って運ぶと言うのか?」
「「ああ!」」
「大臣職は、どうするんだ?」
「もうそろそろ、後任に譲っても良いと思っている。何なら、家督も息子に譲る!」
「私も、だ! えっ?!」
ラングレイ伯爵は勢いで相槌を打ったが、そんな事は聞いていなかった。
「二人がそこまで必死になるとは・・・・・」
「アルフォンスよ、良いではないか。領都から王都への人の移動は大方済んでおるし、ニコルと直ぐに連絡がつくという事は何よりの利点じゃ」
「それはそうですが・・・・・」
「どうやら、直ぐには答えは出んようじゃ。後日、回答する」
「「分かりました」」
二人の提案は、一旦保留となった。
◇
そして、月日は流れた。
前触れも無く、一台の馬車と十人の騎士がエシャット村を訪れた。
「おい、そこの者。ここは、エシャット村か?」
「そうですよ」
「おー、そうか。我々を、村に入れて貰えんだろうか?!」
「どういったご用ですか?」
「我々の主人グルジット様が、村の者に用事がある」
使命を果たす旅に出たのは、マイク・グルジット一人だった。
後日行われる《フロリダ街の視察》の結果如何で、《亜空間ゲート》の設置が決まる事となった。
二人は宣言した通り、大臣職を譲る事でこの《視察》に漕ぎ着けた。
また家督も息子に譲り、若い王や兄弟への剣と魔法の《教育係》に落ち着いた。
そしてグレン・ラングレイは王都に残り、剣の指導をする傍ら視察団への根回しをしていた。
「グルジット様ですか?」
「元伯爵様だ。以前、この村に訪れた事がある」
「「元伯爵様っ!」」
「どうする?」
「ニコルもいるし、大丈夫だろ」
「そうだな」
二人の門番は、来訪者を村に迎え入れる事にした。
「ご案内します」
「取り敢えず、村長の家まで頼む」
「分かりました」
門番の一人が《自転車》に跨がり、一行を案内した。
◇
『キキーッ!』
「ここが、村長の家です」
「そうか、助かった」
「グルジット様。村長の家に到着しました」
「やっと、着いたか」
『ガチャッ!』
グルジット元伯爵は長旅の末、数年振りにエシャット村を訪れた。
◇
厩舎でシャルロッテのブラッシングをしていると、騒がしいので覗いてみた。
「グルジット伯爵様!」
「おー、ニコル君。丁度良かった!」
「こんな遠くまで、どうしたんです?」
「どうしたもこうしたもない。君が行商に来てくれないから、《二ヶ月半》も掛けてわざわざ足を運んだんだ!」
「えっ、伯爵様自らですか?」
「私はもう伯爵ではない。長男に家督を譲った」
「そうでしたか。この村も、兄のジークが村長を継ぎました」
「まさか、ジーン殿に何かあったのか?」
「いえいえ、元気ですよ」
「それは良かった。序でに言うと、グレンの奴も家督を譲ったよ」
「ラングレイ伯爵様もですか」
「ニコル君、我々の事はどうでも良いのだ。問題は、妻達の事なのだよ」
「奥様方ですか?」
「どうか妻達に、スーパーの商品を売ってやってくれんか?!」
「そういう事でしたか。しかし私は、この村で《のんびり》過ごす事にしたのです。グルジット領へ伺うつもりはありません」
「領地まで足を運ぶ必要はない。《亜空間ゲート》を持って来た。今後、王都とフロリダ街の交易を考えている!」
「えっ! 《亜空間ゲート》を、わざわざ持って来たんですか?」
「そうだ。重鎮達と交渉して、ここまで漕ぎ着けたのだ!」
「しかし、スーパーは村人の生活の為のものですし・・・・・」
「何とか頼むよー。ニコル君と私の仲じゃないかー!」
「うーん、困ったなー」
「ニコルくーん。このままでは、私はソフィアに口を利いて貰えなくなってしまうよー!」
元伯爵ともあろうお方が、とうとう泣き落としをしてきた。
「・・・・・分かりました。私はフロリダ街に店を持っているので、奥様方がいらしたらプレハブの店で対応しましょう」
「うおー、やったー! ありがとー!」
『ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ!』
グルジット様に両手を取られ、上下に振り回された。
「ですが他の貴族の方達に、広めないで下さいよ!」
「わっ、分かった。妻達に約束させる!」
「それで、この後どうするんですか?」
「悪いが、フロリダ街まで付き合ってくれんか? 交易の件でリートガルド男爵に会う必要がある」
「・・・・・まー、良いですよ」
理由は良く分からないが、僕もフロリダ街へ行く事になった。




