第四話 ニコルがのんびりする影で
僕が家にいる間、ミーリアが午前中だけ服飾工房で働く事になった。
という訳で、今日もエミリアの面倒を見ている。
『クルッ、クルッ、クルッ、・・・・・・・・・・!』
「パパ、じょうずー!」
「ありがとう。エミリア」
今は手作りで、《ボール焼き》作りに挑戦している。
エミリアはボール焼きの返しを見て、声を上げたのだ。
昨日の内にタコ焼き鉄板と魔導コンロを組み合わせた魔道具を作り、不足していた《紅生姜》と《天カス》も用意した。
作り方も《検索ツール》の《動画》機能で見て覚え、準備万端で臨んだ。
「最初のが、できたぞ!」
「パパ、食べていーい?」
「良いよ。でもお昼も食べるから、食べ過ぎちゃ駄目だよ」
「はーい!」
この後も練習を続け、僕は昼までにかなりの腕前になっていた。
◇
そして昼の食卓には、今日もボール焼きが並んだ。
「味はどうかな?」
「「「「美味しいー(おいしー)!」」」」
「僕、エビが好きー!」
「サーは、チーズ!」
「エミリアは、トウモロコシすきー!」
「ママはタコが一番だけど、全部美味しい!」
家族で好みは別れたが、手作りボール焼きは概ね好評だった。
◇
昼食後は、一階の車庫でボール焼き用の《屋台》を作った。
「パパ、これなーにー?」
「ボール焼きを、たくさん作れる調理器具だよ」
「たくさんつくれるの? すごーい!」
「村のみんなにも、ボール焼きを食べさせてあげるんだ」
「パパ、やさしーね!」
屋台が完成すると家の前に設置し、ボール焼きの調理を始めた。
「ニコルおじちゃん、何作ってるのー?」
すると村の子供達が、物珍しそうに集まって来た。
「新作の食べ物だよ。できたら、食べさせてあげるよ」
「やったー!」
「僕も、ちょーだい!」
「わたしもー!」
「大丈夫。みんなの分もあるよ!」
「「「「「やったー!」」」」」
この後子供達の他にも、匂いに誘われ多くの人が屋台の回りに集まった。
◇
屋台の横にテーブルを置き、でき上がったボール焼きを爪楊枝と一緒に並べた。
「さあ、ボール焼きができたぞ! この皿がベーコンで、これがチーズ。これがトウモロコシで、これがタコだ!」
「「「「「「「「「「わー!」」」」」」」」」」
「子供が先だよ。熱いから、冷まして食べるんだぞ!」
「「「「「はーい!」」」」」
「フーフー、パクッ! あちちっ! でも、おいひー!」
「うまうまー!」
「もう一個、食べたーい!」
「みんな食べたら、また食べていいぞ!」
「「「「「やったー!」」」」」
こうして村の人の要望を叶え、新しい料理を振る舞う事ができた。
しかし好評の為、今日だけで終わらず翌日以降も屋台は続いた。
◇
後日ボール焼きの作り方を、ミーリアとサーシアに伝授した。
「パパ。サーのボール焼き、美味しい?」
「うん、上手にできてる。美味しい」
「やったー!」
「もうフードコートで出しても、良いんじゃないか」
「ほんと?!」
「ああ」
僕はスーパーのフードコート用に、タコ焼き鉄板の魔導コンロを作ってやった。
サーシアはこれを機に、フードコートでボール焼きを作る担当になった。
そんな訳で村人への振る舞いも一ヶ月で終わり、食べたい人はスーパーで買う事となった。
◇
その頃の新王都のラングレイ伯爵邸では。
「グレン。ニコル君が最後に来てから、もう一ヶ月が経つのよ! まだ何も手を打ってないの? 何とかしてちょうだい!」
「いや、そんな事を言ってもだな・・・・・」
「あら、できないの? あなた、それでも伯爵?!」
「何を言う。私はれっきとした伯爵だ!」
「という事は、私を愛してないのね?!」
「あっ、愛してる。エマ、愛してるよっ!」
「ぞれじゃ、《証拠》を見せて!」
「うっ!」
ラングレイ伯爵は実のところ、何もできず手をこまねいていた。
距離が離れ連絡のとりようもないし、ましてや相手はあのニコルだ。
使者を送ったところで、素直に行商に来てくれるか不安だった。
「できないの?!」
「わっ、分かった。考えさせてくれ!」
ラングレイ伯爵はエマ夫人の迫力に、否定する事ができなかった。
◇
そして新王都のグルジット伯爵邸では。
「マイク君。私、ニコル君の化粧品やシャンプー・リンス・石鹸が無くなると思うと、居ても立っても居られないわ!」
「ソフィアはノーステリアの商品でも、充分美しいよ!」
「失望したわ! 男のマイク君には、どうでも良い事なのね!」
「そんなつもりはない。けど、機嫌を損ねたのなら謝る。ソフィア、許してくれ!」
「分かりました。でも私、エシャット村に行きますから!」
「なっ! ソフィア、考え直してくれ!」
グルジット伯爵も、同じ様に悩まされていた。




