第三話 ボール焼き
孤児院と言っても今は名ばかりで、孤児達は全員巣だった。
院長先生のリンゼさんが昨年亡くなり、今は結婚したココの家族とコニーの家族が住んでいる。
庭には遊具があり、幼児を連れた母親や祖父母が遊びに来ている。
「みんな、おはよー!」
「モキュッ!」
「「「「「エミリアちゃん、ポム、おはよー!」」」」」
エミリアとポムは、子供達に混ざって遊び始めた。
「ニコルちゃんが来るなんて、珍しいわね」
「仕事は、程々にしようと思って」
「いいんじゃない。ニコルちゃんが頑張ってくれたから、私達の生活はこんなに豊かになったんだから!」
「そうじゃ、そうじゃ!」
「そう言って貰えると、ありがたいです」
同年代の男はみんな働いているので、少し引け目を感じていた。
「また何か新しい事を、始めるのかい?」
「さあ、どうでしょう」
若い頃は、村に様々な職業を増やそうとした。
しかし需要と供給という問題があり、人口の少ないこの村で増やせずにいた。
手をこまねいていると、フロリダ街に工房や店が立ち並び、お金があれば購入できる環境ができてしまった。
エシャット村は、今僕が突然いなくなっても困らなくなった。
「ニコルは、新しい料理やデザートを考えるのが得意じゃろ」
「そうそう。美味しい食べ物が、この村にいっぱい増えたわ!」
トルネードポテト・アイスキャンディーに始まり、唐揚げ・豚カツ・ローストビーフ・コロッケ・白パン・ケーキ・クッキー・パスタ・パエリア、ハンバーグ・ピザ・クリームシチュー・お好み焼き・パンケーキ・プリン等々を、エシャット村に広めた。
「新しい料理かー」
「ニコルちゃん、お願い!」
「そうだね。考えてみるよ」
「嬉しいー!」
「期待しとるぞ!」
僕はエミリアを見守りながら、何を作るか模索した。
◇
お昼近くになると、隣の学校から生徒達が出てきた。
母さんとレコルも、一緒だ。
「エミリアとパパだ!」
「母さん、授業お疲れ」
「ニコルちゃん。お仕事止めちゃったって、本当なの?」
「違う。フロリダ村に行くのを、二週に一度に減らしただけだよ」
「そうなの? ニコルちゃんが先生になってくれたら、母さん助かるんだけど」
「ハハッ。エミリアが入学したら、考えようかな」
「パパ、おなかすいた!」
「僕も!」
「それじゃ、帰ってご飯にしよう」
「「うん!」」
ポムをショルダーポーチに入れ、二人と手を繋いで家に帰った。
◇
到着すると、シャルロッテに食事を与えてから家の中に入った。
「今日は、パパがご飯を作るぞ!」
「「そうなのー?」」
「手を洗って、待ってなさい」
「「はーい!」」
実はエミリアを遊ばせてる間、新しい料理を思い付き《亜空間収納》で調理を済ませた。
足りない材料もあったが、そこは魔力で補っている。
「「ただいまー!」」
丁度良いタイミングで、ミーリアとサーシアも帰って来た。
「ニコルちゃん、今ご飯の用意するね」
「今日は、僕が作ったよ」
「ありがとう!」
僕は《亜空間収納》を開き、料理をテーブルに並べた。
「《タコ焼き》って言うんだ。美味しいから、みんなを呼んで味わってみてよ」
「うん」
ミーリアが子供達を連れて来る間、僕は飲み物を用意した。
「わー、まん丸だー!」
「パパ。これって、丸いお好み焼き?」
「似てるけど、ちょっと違うよ。タコ焼きって言うんだ」
「タコ焼きかー!」
お好み焼きはスーパーのフードコートで販売されていて、既に村にも広まっている。
「この皿は中にタコが入っていて、こっちがエビ。こっちがベーコンで、こっちがトウモロコシだよ」
「パパ。エビが入ってたら、《エビ焼き》じゃないの?」
「あっ!」
言われてみれば、そうだ。
「どうしたの?」
「サーシア、良く気付いたな。タコ焼きじゃおかしいから、新しい名前を付けてくれないか?」
「いいの? じゃあね、まん丸だから《ボール焼き》!」
「ボール焼きかー、・・・・・良いね。この料理の名前は、ボール焼きに決定!」
「やったー!」
「おねーちゃん、ずるい!」
「ヘヘーンだ!」
「パパ、おなかすいたー」
「ごめん、エミリア。さあ、みんな食べよう」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
みんなはフォークを持ち、各々好きな具材に手を伸ばした。
「エミリア。熱いから、フーフーするんだよ」
「はーい!」
『フーフー、パクッ!』
「「「「美味しい(おいしい)!」」」」
「うん。美味しい」
「ニコルちゃん。今度、作り方教えて!」
「いいよ。今回は錬金術で作ったから、一緒に練習しよう」
錬金術で料理を作れる事は、未だ一部の人しか知らない。
「うん!」
「パパ、私もー!」
「いいよ。サーシア」
「やったー!」
タコ焼き改めボール焼きは、家族に好評だった。
作り方を覚えたら、村の住民にも振舞おうと思った。




